- Amazon.co.jp ・本 (232ページ)
- / ISBN・EAN: 9784884185947
感想・レビュー・書評
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岸本佐知子さんと柴田元幸さん。
両氏が、日本ではあまり知られてない英語圏の作者の作品を訳した短編集、と聞いて、これは読まねば!と、思っていた。
柴田さん、岸本さん、お二人の対談と、リズムに乗ってどんどん読み進めていった。
各4作家ずつ訳されているが、どれも「変な」おはなしでワクワク。
「変な」という言葉はお二人の対談でも何度か出てくる。
特に好きなのは『アガタの機械』カミラ・グルドーヴァ、『オール女子フットボール』ルイス・ノーダン、『最後の夜』ローラ・ヴァン・デン・バーグ、『野良のミルク』サブリナ・オラ・マーク。
特に『アガタの機械』は私の大好きな映画『乙女の祈り』みたいな雰囲気で良かった。
翻訳小説を読了すると、「文学読んだ!」感あって、満たされる〜
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岸本さんと柴田さんの掘り出し物は不思議なくらい匂いや手触りを感じられる。作品の解説や見つけた経緯など二人が話す競訳余話も楽しい。『大きな赤いスーツケースを持った女の子』『オール女子フットボールチーム』『最後の夜』が好き。
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「アホウドリの中に死んだ船乗の魂が入っている」
10代の妊婦は音信の途絶えた迷信深い船乗を待ち,
奇妙な思いに取り憑かれていく。アホウドリの出現が不気味。
オール女子フットボールチーム:性的倒錯 -
柴田元幸と岸本佐知子の翻訳競作本。まだ日本で紹介されていない作家中心に二人が短編をセレクト。全体的にお二人の好み(幻想2割:現実8割)が反映されていてとても面白かった。ひとりあたり4名、合計で8名の作家の作品が収録されており、各1作ごとに競訳余話と題された対談が収録されているのも翻訳の裏側(作品選びや英米の流行など)も知れて興味深い。今回収録された作家8人のうち7名が女性、男性作家は1名のみというのも時代か。
お気に入りは柴田訳カミラ・グルドーヴァ「アガタの機械」。アガタというとても頭の良い女の子の家に招待された主人公は、アガタが作った、足踏みミシンを改造した奇妙な機械を見せられる。ヘッドフォンをはめてアガタが足踏みをカタカタやると幻燈のようにピエロの姿が現れる。主人公がヘッドフォンをはめると、天使が現れる。二人はこの遊びに夢中になるが、次第にミスター・マグノリアという下品な男も現れるようになり…。少女たちの秘密がとても淫靡。
岸本訳ではサブリナ・オラ・マークの掌編3作がとても面白かった。不条理というかなんというか、一見ふつうの話をしているようでどんどん会話が奇妙にずれていく感じがとても怖い。とくに「あなたがわたしの母親ですか?」は、母親に突然「わたしはお前の母親ではない」と宣言されてしまった主人公が、さまざまな心当たりの人物に「あなたがわたしの母親ですか?」と訪ねてまわる話で、現実には絶対にありえないのにそれを当たり前に受けいれてしまう世界の奇妙さがたまらない。
精神病院から抜け出した3人の女の子の一夜を描いた「最後の夜」と、滅びかけの世界で救命ボートから飛び降りて泳ぐ姉妹の「引力」は、それぞれ何かとても美しい光景を見たような気持ちにさせられ印象に残った。
※収録
「大きな赤いスーツケースを持った女の子」レイチェル・クシュナー/柴田元幸
「オール女子フットボールチーム」ルイス・ノーダン/岸本佐知子
<競訳余話1>
「足の悪い人にはそれぞれの歩き方がある」 アン・クイン柴田元幸
「アホウドリの迷信」デイジー・ジョンソン/岸本佐知子
<競訳余話2>
「アガタの機械」カミラ・グルドーヴァ/柴田元幸
「野良のミルク」「名簿」「あなたがわたしの母親ですか?」サブリナ・オラ・マーク/岸本佐知子
<競訳余話3>
「最後の夜」ローラ・ヴァン・デン・バーグ/柴田元幸
「引力」リディア・ユクナヴィッチ/岸本佐知子
<競訳余話4> -
「現代英語圏異色短篇コレクション」という副題のとおり、収められている短篇の中には異色すぎて私にはちょっと手に余るものもあった。以下、読書会のための備忘録。*は柴田訳、☆は岸本訳。
*大きな赤いスーツケースを持った女の子 レイチェル・クシュナー 著 7−24
ノルウェー人の作家が語る、ヨハンという男がプラハの空港で見舞われたトラブル、そして運命の女性との出会い。で、その結末は…という、皮肉の効いたちょっといい話系? これは意外に普通。バーで酒を嗜むように人生の機微を味わう、というか?
☆オール女子フットボールチーム ルイス・ノーダン 著 25−50
「僕」の父親は年に二回女装する。性規範からの解放? そんなクリシェをかるがる飛び越えるような規格外の世界観。わたしにはちょっと難しかった。
*足の悪い人にはそれぞれの歩き方がある アン・クイン 著 63−80
年老いた三人姉妹(二人は大叔母、ひとりはお祖母ちゃん)と「子供」とその父。何がどういう事情なのかいまだにわからないんだけど、句点を多用した独特の文体が好みすぎた。
☆アホウドリの迷信 デイジー・ジョンソン 著 81−98
港町。つれない男との思い出。ラストにでーんと現れるアホウドリに震えた。
*アガタの機械 カミラ・グルドーヴァ 著 109−140
これはすごく好きだった! 「機械」がどういう仕組みなのかイメージできなくて、その場面だけ脳にボカシがかかっちゃうんだけど、アガタがかっこよすぎた。
☆野良のミルク サブリナ・オラ・マーク 著 143−150
名簿 サブリナ・オラ・マーク 著 151−158
あなたがわたしの母親ですか? サブリナ・オラ・マーク 著 159−164
同じ作家による掌編三つ。「野良のミルク」のバーディ先生とのかみ合わない会話に代表される、静かなおかしみ炸裂系。不条理劇とかコントみたい。
*最後の夜 ローラ・ヴァン・デン・バーグ 著 177−194
少女時代のある一夜の回想。回想と現代パートが混ざってしまってうまく処理できなかったけど、「競訳夜話」で解説を読んで、ああ、そういうことか、と。あたりまえだけど、短編って読む集中力が必要とされるなあ。考えてみると、この短編集は回想譚(とりわけまだこの世界に慣れずにいた子ども時代の)が多い。
☆引力 リディア・ユクナヴィッチ 著
今読むと、どうしたってパレスチナの人々のことを思わずにはいられない。最近観た『ガザ・サーフ・クラブ』という映画に出てきた、海とサーフィンが大好きなガザの女の子を思い浮かべた。あの子もどこかへ泳いでいけてたらいいのに。そんな甘い夢想を断ち切って現実を突きつける最後の2行まで、これはある意味いちばん正統派の短編なのかな。異色の中にある正統のすがすがしさ。
好きなのは、『引力』、『野良のミルク』、『アガタの機械』、『足の悪い人には』。みごとに柴田さんと岸本さん二つずつになりました。 -
一編あたり20ページ前後の短編10編。
ただ、選者、訳者が柴田元幸と岸本佐知子ときたら、それはもう珠玉だろうと。
二人が選ぶ作品なのでもちろん一筋縄では理解できない不思議な文章のものも多くありつつ、でもそれは短編のいいところ。理解できなくても雰囲気を十二分に味わえ、「辛いかも」って思う前に不思議な読後感のみを残して終えられる。
そんな中でも私は比較的物語の筋がはっきりしている
ルイス・ノーダン「オール女子フットボールチーム」(岸本訳)
レイチェル・クシュナー「大きな赤いスーツケースを持った女の子」(柴田訳)
の2編が好きだったかな。
カミラ・グルドーヴァ「アガタの機械」(柴田訳)もよかった。最後に少しぞっとさせる展開、好きだな。
世の中には、世界には面白い話がたくさん埋もれているなあって、感じさせてくれた。 -
日本でまったく、もしくはほとんど紹介されていない、現代英語圏の短篇小説アンソロジー。短篇自体も良いけれど、おふたりの対談である「競訳余話」もまた良い。おふたりが好きな作品を楽しんで翻訳している姿を想像したり、どうやって新しい作品に出会うのか、読んでいてワクワクする。心躍るほど面白い作品を発見して訳す喜び、わたしも味わってみたいな、と思う。
本書で特に印象に残ったのはサブリナ・オラ・マークの「野良のミルク」「名簿」「あなたがわたしの母親ですか?」。この作家の作品は、読み始めたらわかるのだけど、読めない。いや、読めるのだが、読めていない。文章が崩壊しているというか、筋が通らないというか、ちょっと衝撃的な文章。だからこそ、強く印象に残る。変な小説が好きな人間にはもってこい。
p220
特にブライアン・エヴンソンとレアード・ハント、この二人はものすごい読書家で、趣味も抜群だから、彼らがいいと言うものはだいたいいいですね。
p221
新聞雑誌の書評で最近一番あてになるのは『ガーディアン』ですね。志のある小説をきちんと評価している感じがします。あと、ミネソタでやっているRain Taxiという書評誌は、メジャーなものは取り上げないという気概があって、ここでいいと言っているものはいいことが多いかな。
最近はTwitterでいろんな文芸誌のアカウントをフォローしていて、たとえばThe Millionsとかがこの先される注目の本みたいなリストを出していて、それを一つひとつ見て、面白そうなのをマークしておくとか、そういうやり方が多いです。