ババウ

  • 東宣出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (217ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784885881091

作品紹介・あらすじ

ディーノ・ブッツァーティ没後50年、追悼出版第二弾
作家自身が編んだ最後の短篇集『難しい夜』の前半部分26篇を訳出! 三十年の時を経て、ついに全ての収録作品が邦訳される。

人里離れたアルプスの一角にある療養所で行われている驚くべき安楽死法を語る「誰も信じないだろう」、全人類の滅亡の可能性をSF的な奇想を用いて描く「十月十二日に何が起こる?」、一匹の野良犬の死がきっかけで中国とアメリカの核戦争が勃発する「ブーメラン」、美人コンテストに担ぎ上げられた障害のある少女の絶望が引き起こすカタストロフィ「チェネレントラ」、夢の中に入りこむ夜の巨獣の退治譚「ババウ」など、老いや死、現代社会の孤独や閉塞感といったテーマを、幻想とアイロニーと諧謔を織り交ぜたシンプルな文体で描く26篇。

感想・レビュー・書評

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  • 「死」や「若さと老い」に関する短編が多く見られた。短い物語りの中にも細かな設定が設けられ、その一つ一つが彼独特の、知的でどこか物寂しい雰囲気を漂わせている。
    彼の名作「タタール人の砂漠」を思わせるような短編もみられ、全体を通して非常に満足のいく内容でした。

  • ババウ ディーノ・ブッツァーティ(著/文) - 東宣出版 | 版元ドットコム
    https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784885881091

  • 久しぶりに読むプッツァーティは短編&掌編集。SFっぽいものやブラックユーモア、シニカルだったり幻想的だったり、ちょっとスパイスが効いていてどれも面白かった。でもやっぱり一番好きなのは表題作「ババウ」

    ババウとは、イタリアの想像上の生物で、日本でいうならナマハゲ(ちょっと違う)、ドイツでいうなら砂男とか、子供がいたずらをしたり夜眠らなかったりしたときに「そんな悪い子にしてると〇〇が来るよ」と脅すために名前を出される怪物のこと。このババウに眠りを脅かされたある男が、腹立ちのあまりババウ退治を議会に提案、大人が大真面目に議論して、最終的にババウを退治することに決定する。夢の中に現れる想像上の生物をはたして物理的に抹殺することができるのか?・・・疑問に思われたがなんとババウはあっさり射殺されてしまう。

    たとえばピーターパンのネバーランドは、それを信じる子供たちがいなくなると無くなってしまうと言われていたと思うけれど、ババウもつまりは、それを否定する人々の心によって消滅してしまったのかもと考えた。古い言い伝えや先人の知恵を否定する現代文明への批判的メッセージもこめられているのだろう。ちなみに本書の表紙絵はブッツァーティ自身が描いたババウの絵。カバとバクのあいのこみたいと本文にあるけれどまさにそんな感じでとても愛嬌がある。可愛い。

    その他で印象に残ったのは「塔」。いつか攻めてくるかもしれない異民族の襲撃にいちはやく気づけるように塔を建て見張っていた男、しかし敵は来ないまま月日は流れ…ある日、すでに老いた男が地上の街へ行くと、すでに敵は何年も前に襲撃した後で…。ブッツァーティの代表作「タタール人の砂漠」のエキスをぎゅっと短編に凝縮したような印象。


    ※収録
    ババウ/孤独/同じこと/岩/誰も信じないだろう/うんざりさせる手紙/星の影響力/センストリ通りでは別の名で/世界的な異議申し立て/ヴェネト州の三つの物語/消耗/交通事故/ブーメラン/現代の怪物たち/気遣い/パーティー医者/車の小話/塔/名声/隠者/チェネレントラ/十月十二日に何が起こる? /診療所にて/書記たち/馬鹿げた望み/ミートボール

  • 「ああ、あなたがいまここに、わたしのそばにいてくれたらいいのに、って思う。わたしにとても近い感受性をそなえていて、自然や古い家がたてる神秘的なかすかな声を聞き取る耳を持っていて、わたしと同じように、ほかの人たちにとっては退屈でつまらない日々の生活にささやかな魅力を見出すことができるあなたが。」

    彼の晩年の短篇集。Bravissimo!!な短篇ばかりで至福。みずからをも傷つけていたような棘が消えてゆき、無防備な彼はとてもさびしそうにみえた。かわりにユーモアとアイロニーの堅固な鎧を纏って。あぁ、賑やか!
    円熟した感性と表現もとても美しくきわだっていた。ときどき、カラックスのホーリーモーターズをおもいだしていた。

    たしかに 老い は、辛い。ますます名前を思い出せなくなっていたり、言いたい言葉がなかなか言えなかったりまったく言えなかったり、仕事中のミスがふえたり、もちろん、なにをしようとしていたか忘れてしまったりするのは常だし。人生100年時代とかなんとかいっているけれど、物忘れや間違いが酷くなっていって、そんなじぶんに笑ってしまうこともあるけれど、人に迷惑をかけてしまったりするのなら、なるたけはやく人生をリタイアさせていただきたい、かみさま。

    「孤独」における掌篇と「パーティー医者」が、とてもすきだった。
    あなたは恐れていた。忘れ去られてゆくことを。でもだいじょうぶ、伝えられる術はもうないけれど。きっとたくさんの庭に、あなたのための畝が。




    「またしても、流れに引きずられていくのだ。私の周囲で、右からも左からも、この世の出来事が、生起する物ごとが足早に駆け抜けてゆく。」

    「ねえ、先生、ぼくたちに長い道路のお話を聞かせてよ。先生はどれだけたくさんの道を見てきたの?どれだけたくさんの人が埃と砂利とタールの上を歩いたの?そんなに急いで、どこに向かって走っていたの?どこに行ったの?ねえ、聞かせてよ」

    「哀れなエンリーコ。かつてのきみの苦悩は祝福されていた」

    「かつては得られなかった成功をいま手にしていることこそが、きみが死んでいることの何よりの証拠だ。きみは順応した。自分の居場所を見つけた。時代に適応し、まわりと歩調を合わせるようになった。角がとれて丸くなった。異端者や夢想家であることをやめた。だからいま、大衆受けしているんだ。死者の大衆にね」

    「一体、年寄りは何のために存在しているのか?このうえまだ何を望んでいるのか?恥ずかしくはないのか?」

  • ブッツァーティが紡ぐシンプルな文体と真理を捉えたストーリーにはいつも驚かされる。表題作「ババウ」が1番気に入った。医師の宣告を見事に物語化した「同じこと」ある隠者と悪魔を描いた「隠者」も良い。表紙にあるババウも可愛らしく何度も眺めたくなる。

  •  ブッツアーティは短編の選集から読み始めてハマってしまった。着想も面白いし、一見ドライなような中にも弱いものへの憐れみが感じられ、しんみりとしてしまう。

  • やはり老いや無駄に時間が過ぎていくことの残酷さをえがいたものが多かったと思う。SFみたいなのもいくつか。
    よかったけど、今まで読んだブッツァーティの中ではあまりハマらなかった方にはいるかも。

    好きだったのは以下。

    『同じこと』
    余命宣告をされるが、それが仮に何十年後だとしたら。

    『うんざりさせる手紙』
    昔の友人らしき人からの手紙。
    普通の内容かと思いきや途中から様子がおかしくなり……

    『セソストリ通りでは別の名で』
    立派な人々ばかりが住んでいると思われた建物だが実は……

    『ヴェネト州の三つの物語』
    創作にしてはちょっとありがちな怪談かなと思っていたけど、解説を読むとノンフィクションらしい。

    『交通事故』
    交通事故にまつわる胸くその悪くなるような話。

    『塔』
    独りよがりで人生を無駄にしてしまった話。
    『タタール人の砂漠』に似たテーマかもしれない。

    『チェネレントラ』
    障害のある少女が担がれて悲惨な目にあうが……
    チェネレントラはイタリア語で「シンデレラ(灰かぶり姫)」のことらしい。

  • 心地良い天気が感じられる星の影響力と、
    気遣い、診療所にて
    が好きだった

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著者プロフィール

1906年、北イタリアの小都市ベッルーノに生まれる。ミラノ大学卒業後、大手新聞社「コッリエーレ・デッラ・セーラ」に勤め、記者・編集者として活躍するかたわら小説や戯曲を書き、生の不条理な状況や現実世界の背後に潜む神秘や謎を幻想的・寓意的な手法で表現した。現代イタリア文学を代表する作家の一人であると同時に、画才にも恵まれ、絵画作品も数多く残している。長篇『タタール人の砂漠』、『ある愛』、短篇集『七人の使者』、『六十物語』などの小説作品のほか、絵とテクストから成る作品として、『シチリアを征服したクマ王国の物語』、『絵物語』、『劇画詩』、『モレル谷の奇蹟』がある。1972年、ミラノで亡くなる。

「2022年 『ババウ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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