テルミン: ふしぎな電子楽器の誕生 (ユーラシア・ブックレット No. 83)
- 東洋書店 (2005年10月1日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (63ページ)
- / ISBN・EAN: 9784885955884
感想・レビュー・書評
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『テルミン』という楽器は、ロシアの物理学者、テルミン博士によって発明されその名をつけられた。
私はこの、最古の電子楽器といわれる『テルミン』の独特な音、演奏方法もさる事ながら、発明されたいきさつとその過程の面白さに興味をひかれた。
ロシア革命と同時代に生きた彼は、大学を出て無線技師として働く最中、無線ノイズを改良する過程で楽器『テルミン』を生み出した。したがって『テルミン』が生まれたのはあくまで偶然であるといえる。
しかし、単なる技術者、研究者ではなく、音楽学校で学び、チェロを弾いていた彼の音楽的センスがあってこそ、無線のノイズを音楽に結び付けるということが出来たのではないいかと思う。
そして、電気と音楽という、当時は相容れないものと考えられていた二つを結びつけた彼の発明はソビエトの指導者、レーニンの非常なお気に入りとなり、新生国家ソビエトの国威を示すために格好の道具として、国家の庇護を受けながらヨーロッパやアメリカといった国に演奏旅行が行われた。余談であるが、第二次世界大戦を前にしたこの時代において、テルミンは盗聴器も発明したりしていたということであり、そこからも彼が生粋の音楽家というよりもむしろ研究者であったことが伺われる。
ところで、国家の庇護下の元に広められた『テルミン』が、生まれたロシアではなくアメリカのハリウッド映画音楽によって発展したことも興味深い。
『テルミン』はその音の独自性およびピッチの不安定さが映画において恐怖や驚き、不安を表現するのに効果的であったからだという。ロシアの技術を見せつけるためにレーニンが送り出した楽器が、その技術的側面もさることながら、やはり楽器として一番重要な音としての効能によってアメリカ文化に普及していった事実に、レーニンも苦笑いしているのではないかと想像する。
また、テルミンを語る上で忘れてはならないのが、その電気と音楽を結び付けるマジックのような技術が、ロバート・モーグ博士によるシンセサイザーの発明に大きく影響をあたえたことである。
『テルミン』との出会いがなければモーグ・シンセサイザーの発明もなかったであろうといわれており、そういったことを知るにつれても、テルミン博士、そして『テルミン』という若干マイナーな楽器が音楽の世界に実は大きな影響を与える存在であったことが感じられるのである。
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