大江戸トイレ事情 (36) (同成社江戸時代史叢書 36)

著者 :
  • 同成社
3.50
  • (0)
  • (1)
  • (1)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 29
感想 : 2
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (258ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784886219282

作品紹介・あらすじ

大都市江戸の町のトイレ事情と、それにまつわる人や政治・経済のしくみをとりあげながら、物質循環型社会が成立していた様子を紹介。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • ===qte===
    大江戸トイレ事情 根崎光男著 隠れた日常 資料で明らかに
    2024/2/17付日本経済新聞 朝刊
    どの噺(はなし)だったか、落語で、大家と喧嘩(けんか)をした長屋の住人が「もう長屋のはばかりで糞(くそ)をたれてやらないぞ」と啖呵(たんか)を切る場面があった。長屋のトイレを使わないことがどうして大家のダメージになるのか、意味がわからなかった。その後、江戸時代には大便がお金になったということを知った。農村に運ばれて下肥(しもごえ)(肥料)として使用されたのだ。同じく落語で、家賃を払わない長屋の住民について大家が「糞取りで飼っとく」という言い方もしている。大便の分だけは大家の収入になったわけだ。


    現代では廃棄物として処理される糞尿(ふんにょう)が、商品価値を持っていたというのは、とても意外で、いちど詳しく知りたいと思っていた。そこに、なんともちょうどいい本が現れてくれた。本書は、歴史学者の根崎光男が、大都市・江戸の人々のトイレ観やトイレ事情、下肥の取引の実態などを解説した本だ。根崎光男はNHKの番組「ブラタモリ」の「江戸のゴミ」(2011年3月3日放送)の回にも出演していた。ゴミとかトイレとか、着眼点の面白い先生だ。

    映画監督の黒澤明が、侍の1日をテーマに映画を撮ろうとしたとき、侍の日常生活の資料がなくて困ったそうだ。事件などは記録されていても、平凡な日常は記録されない。トイレ事情に関しては、ましてそうだろう。ところが、自分の排便について記録していた人がいたのだ! 大和(現奈良県)郡山藩主柳沢(松平)信鴻(のぶとき)の「宴遊日記」だ。「隠居大名がみずからの排泄(はいせつ)をこれほど詳細に書き留めていることに驚き」と著者も書いている。下痢をして、どこのトイレに入ったとか詳しく書いてある。これがめっぽう面白い。

    著者はさらにさまざまな資料を見つけ出している。下肥の確保で競争が起き、値段が高騰したこともあったそうだ。それが明治時代の東京になって、皇居のあるところで糞尿を運ぶのはどうなのかと公衆衛生的措置が講じられるようになり、昭和9年(1934年)から糞尿の下水処理が開始する。

    江戸時代の小咄(こばなし)で、下肥を使った野菜を初めて食べて、そのおいしさに驚いた殿様が、下肥を使ってない野菜を突き出して、「下肥をかけてまいれ」と命じる。笑うと同時に、そんなに味がちがうものなのかと、食べてみたくなる。

    《評》文学紹介者 頭木 弘樹

    (同成社・2640円)

    ねさき・みつお 54年茨城県生まれ。法政大学教授。博士(歴史学)。著書に『生類憐みの世界』『江戸幕府放鷹制度の研究』など。

    ===unqte===

全2件中 1 - 2件を表示

根崎光男の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×