作品紹介・あらすじ
19世紀から20世紀にかけてフランス海軍士官として世界中を巡航した異色作家ロチが変幻自在な対話形式で繰り広げる、奇妙きてれつな回想/夢/紀行/小話の数々。ユニークな長文解説を付した本邦初訳作品。
感想・レビュー・書評
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ピエール・ロチまたは、ピエール・ロティの名前を知っている日本人がどれくらいいるだろう。
芥川や三島に詳しい人ならご存知なのかもしれない。
ピエール・ロチは、フランス海軍の軍人であった。彼は職業柄、世界中を旅し、そこそこで経験したこと(虚構も交え)を書物にして発表した。
時は19世紀、パリをエグゾティスムという風が席巻していた。次から次へと世界を案内してくれるロチにフランス人たちは大いなる異国趣味を益々掻き立てられ、評価は高まり、ロチはアカデミー・フランセーズの会員となった。
アルジェリア、ブラジル、NY、チリ、イースター島、タヒチ、ハワイ、シスコ、セネガル、トルコ、トンキン、モロッコ、エルサレム、ペルシア、インド、中国、エジプト、アラビア他、日本にも2度来日している。
最初の来日の折、鹿鳴館の舞踏会にも出席している。当時、西洋のものを取り入れるのに必死だった日本人に世界中を回っているロチは、さぞや洗練された紳士にみえたであろう。
2年位前に、ロチの著作を5.6冊読んでみた。 処女作の『アジヤデ』は、工藤庸子さんの訳で新書館から新しく出されていて読みやすいが、ほかの著作は入手しにくいものも多かった。
殆ど、時系列に読んでいった。トルコ、アフリカ、ブルターニュと読み進み(肝心の『ロティの結婚』は手に入らなかった)、『お菊さん』『お梅が三度目の春』で日本に至ったときは失笑するしかなかった。
彼は日本に憧憬を抱いていたが、来日して、私たち日本人を見、文化に触れるなり、強烈にこきおろし、ロチが日本でメジャーでない理由はこれかと(笑)しかし、なかなかロチの文章は抱腹絶倒の域にも達していて、ロチも単にお金目的だった期間限定のお妾さんを再来日の時に尋ねてみたりと憎めないところがある。
さて、そのロチの新しい訳書が出版されたというのでワクワクしながら手にとった。
『倦怠の華』 ん、、、何とも惹かれるタイトルじゃないか。
「君の倦怠と僕のそれとでもってちょっとした花束をこしらえてみよう」
ますます惹かれる主題だ。彼らにとっての花とは「話」のこと。ロチの花は「たんぽぽ」相手のプラムケットは「マリーゴールド」。
プラムケットとは、リュシアン・エルヴェ・ジュスランのことで、ロチより1つ年下で海軍士官学校の後輩にあたる。
ロチが海上で描くものは真っ先にプラムケットが目を通し、アドバイスや感想や批評を与えたらしい。プラムケットは作中にも登場し、『倦怠の華』では、対話の相手として登場する。したがって、この書物は共著ということになる。
『倦怠の華』は、時系列でいけば、『アフリカ騎兵』の次の著作にあたる。作品集4編の中の1編で、内容も異色ということでマイナーな作品となっている。日本では尚更だろう。
内容は、世界を回っている二人の会話である。脱線多発。最後はプラムケットの遺言で終わっているが、現実に彼が死ぬのは81歳である。
著者プロフィール
ピエール・ロチ
本名ジュリアン・ヴィヨー(Julien Viaud)。フランス大西洋岸の港町ロシュフォールで生まれ、幼少の頃から海と瞑想を愛した。海軍士官として世界各地を周遊して、その風物を繊細な筆致で描出し、また異国女性との交渉を自叙伝風に、告白的に語った。『アジヤデ』『ロチの結婚』『氷島の漁夫』『お菊さん』などの小説のほか、『モロッコにて』『北京最後の日』『アンコール詣で』など、多くの旅の印象記を書いたが、それらは情熱的な官能の奥底に、〈滅びゆくもの〉への独特の哀感をただよわせて、自然主義文学の退潮する世紀末の文壇に異国情緒の鮮烈な新風を送った。
「2020年 『日本秋景 ピエール・ロチの日本印象記』 で使われていた紹介文から引用しています。」
ピエール・ロチの作品