「小児性愛」という病 ―それは愛ではない

著者 :
  • ブックマン社
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784893089267

作品紹介・あらすじ

精神保健福祉士として様々な依存症治療に携わる著者。自らが数多くの「性加害者」の治療にあたった経験から導き出された各種の性犯罪者の傾向に関する考察。精神疾患である「小児性愛」であるが故に犯罪が起きるのか、性犯罪者は病気を理由に同じ罪を重ねるのか。

感想・レビュー・書評

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  • 『「小児性愛」という病』書評 「再犯しない」を確立する社会へ|好書好日
    https://book.asahi.com/article/13070822

    「小児性愛」という病――それは、愛ではない - ブックマン社
    https://bookman.co.jp/book/b487260.html

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      要は、自分自身より非力な者にしか、、、(気分が悪くなってる)
      要は、自分自身より非力な者にしか、、、(気分が悪くなってる)
      2022/12/06
  • 先日読んだ『しくじらない飲み方――酒に逃げずに生きるには』がよかったので、著者の前作に当たる本書を読んでみた。

    著者は、アジア最大規模の依存症施設「榎本クリニック」でソーシャルワーカーとして働き、さまざまな依存症の問題に携わってきた。
    榎本クリニックは2006年から、性犯罪をやめられない人を対象とした専門外来を開設している。本書は、そこでの著者の臨床経験をふまえ、ペドフィリア(小児性愛者)の病理に迫った一冊だ。

    2006年から(本書執筆時点の)2019年までの13年間で、榎本クリニックでは「子どもへの性加害経験者117人の治療に当たってき」たという。その蓄積が本書のベースになっている。

    題材が題材だけに、読んでいて胸が悪くなるような記述もある。が、内容は重要である。

    本書のテーマは、子どもへの性加害をくり返す者たちの「認知の歪み」。
    彼らの多くは、「(加害行為によって)子どもは喜んでいる」「僕たち(加害者である自分と被害児童)は愛し合っている」と思い込んでおり、そこにこそ根本的な問題がある、というのだ。
    そうした「認知の歪み」について、「1冊を費やして解き明かし」た本なのである。

    通常、日本ではペドフィリアは「小児性愛者」と呼ばれるが、著者はその呼称に疑問を呈す。彼らの加害行為に「愛」などなく、愛という語を用いるのは「加害者視点からの発想でしかない」からだ。
    被害者支援、加害者臨床の現場では、「小児性犯罪」「小児性暴力」という呼称が一般的だという。

    あえてタイトルに「小児性愛」という語が用いられているのは、いまはまだ一般的呼称だからだろう。著者の真意は、「それは、愛ではない」という副題に込められている。

    第1章「純愛幻想と飼育欲――その身勝手な論理」では、実例を元に、ペドフィリアたちの「認知の歪み」のすさまじさが紹介されている。この章が本書でいちばん衝撃的だ。

    何より恐ろしいのは、そうした「認知の歪み」が性加害行動を重ねるごとに強化されていく点である。次のように……。

    《何をしても騒がなかったってことは、この子は自分のことが好きに違いない。ふたりは純愛で結ばれている!》
    《やっぱり今回も無抵抗だったから、あの子も僕との関係を望んでいたんだね!》39~40ページ

    だが、そのような「認知の歪み」はストーカーにもあるだろうし、DVをくり返す者の心にもあるだろう。その意味で、けっして特殊なことではない。
    人間は自らの暴力を、認知を歪めてでも正当化せずにはいられない生き物なのだ。

    2章以降では、犯行の態様、児童ポルノが彼らに及ぼす影響、認知の歪みを正すことによる再発防止の取り組みなどが、それぞれ綴られていく。

    著者は本書で、ペドフィリアを生む社会構造の病理にまで迫っている。
    ペドフィリアを〝人間離れしたモンスター〟として描くのではなく、社会全体の「認知の歪み」によって作り出された存在として捉えるのだ。

    著者は、「日本は〝男尊女卑依存症社会〟である」と喝破し、次のように言う。

    《性暴力には、男尊女卑社会の問題が集約しています。男性が優位でなければならないとする社会が認知の歪みを強化し、性暴力を助長しているともいえます。そしてそれがもっとも苛酷な形で表れたのが、子どもへの性加害であると考えます。
     これは裏を返せば、日本社会に男性と女性は対等であるという考えが浸透し、男性が「常に優位でいなければならない」という強迫的な思い込みから解放される日がくれば、この国の性暴力は減るということです。子どもへの性加害も減るでしょう。》246ページ

    「小児性愛なんて、想像するだにおぞましい」と思っている男性にこそ、一読を薦めたい。

  • 小児性愛者、ペドフィリア、ロリコン。
    彼らの認知は歪んでいる。フリーズした状態を受け入れた、同意があったと思い込み、子供から求めてきたと信じ込む。
    挙げ句の果てに、LGBTと同じ文脈で語られるべき、とまで。
    本書には、実際の加害者の言葉も綴られている。
    もし、自分が被害者なら、知人の子が被害に遭ったら、ありとあらゆる暴言を浴びせ、GPSで管理し、人権を剥奪しろと言われたら同意してしまうかもしれない。
    でも、心を落ち着かせて読んでみよう。
    彼らの論理は何か。
    なぜ独特の思い込みに至るのか。
    何が問題か、再犯防止のために何が必要か。
    そういった論点を非常に丁寧に、かつわかりやすく書いている。
    扱う内容は悍しく、苦しい箇所もあったが、これらを知ることで、何かが、変わるかもしれない。

    本書で議論になりそうな箇所は「児童ポルノ」について。
    著者は「児童ポルノは確実にトリガーになりうる」(119頁)と断言する。
    表現の自由との兼ね合い、また、単純所持だけなら犯罪抑止になるという反論についても、臨床の立場から異論を唱える。
    「現実とファンタジーの区別はつく」という抗弁に対しても、真っ向から批判する。
    欲望は増幅する。
    初めは2次元で我慢していても、だんだん欲求が高まり、ばれなかったことに味を占めるものがいることは間違いない。

    206頁、「被害者が加害者を許さなければならない謂れは、全くありません」
    257頁、「日本は、「女性は男性の性を受け入れなければならない」という社会通念がとても根強い国です。」
    258頁、「日本は女性にかわいさと未熟さを求める社会であり、女性に男性の性欲を引き受けさせる社会です。どちらも、女性と男性が同等であれば起こりえないことです」
    260頁「自分の中にある加害者性と向き合う必要があります」
    私たちが生きる社会はとても未熟だ。
    だからこそ、こういった指摘を真摯に受け止め改善していくべきだ。
    もし、それが果たされないのであれば、こどもたちだけではなく、私たち大人にとっても決して安全ではなく、また過ごしやすい社会にはなりえないだろう。

  • 2020-09-21 読了
    書かれている、主張している内容は、間違いなく正しい。それを前提として。
    主張の仕方があまりにも雑。
    『データでは少ないが、おそらく表に出てきていないものが沢山あるので、非常に多い」とか、
    「Aをしている者の全てがBするわけではないが、Bした者は全てAしているので、Aは害悪」とか、
    主観的な主張をしたいがために客観的な事実を挙げておきながら、それを否定する文脈のなんと多いことか。
    せっかくの現場の声なのだから、臆することなく主観的な主張をすればよいのに。あーあ。

  • 児童わいせつを犯してしまった人たちが、どのような心境で実行に至ったのか、逮捕や服役した後のことなどとても詳細に書かれていた。本の中での使われ方は違えど、児童へのわいせつを起こす原因として「ケーキの切れない非行少年」にもあった「認知の歪み」という表現が使われているのが興味深かった。

    ・盗撮や痴漢といったAVを好む人と実際に犯罪を犯す人の統計には関係がみられなかったのに、児童ポルノの所持と児童わいせつの実行率には様々な調査で関係がみられる。児童ポルノの規制は事件の防止のために不可欠。
    ・小児性愛に目覚めてしまった原因に家庭環境やモテない思いをしたことによる劣等感などがあるが、「原因」があっても罪を犯した「責任」は本人にある、という認識でないと治療につながらない。
    ・児童わいせつは特に釈放されてからの再犯率が高い。加害者への治療は、本人や家族のためでもあるが、それ以上に新たな被害者を増やさないためのものである。
    ・かわいい=自分より小さい、弱いものに対して心引かれる感情、を抱く時点で人は対象を弱い(下の)存在だと無意識に認識している。性犯罪に限らず、自分もふとしたきっかけで加害者になるかもと自覚的であるべき。
    ・性犯罪者にGPSをつけるなどの対策を行う国もあるが、コストに対して再犯率が減少しているとは言いがたい。

    「こんな事件が二度と起きないように、同じような法律を日本にも導入しろ」と反射的に言うのではなく、事件を防ぐには何が必要なのか、を考えるのにとても参考になる。
    「うちの子に限って」というのは被害者・加害者家族が言う常套句である。最悪の事態を少しでも防ぐために、教育関係者や子をもつ人など、できるだけ多くの大人に読んでもらいたい一冊。

  •  エビデンスが少ないなど、気になる点は多少あるがわかりやすく読みやすかった。他の犯罪系の本を読んでも感じるが、犯罪者とわたしたちはほとんど大差ない。というか同じだ。余程の異常者でない限り。誰がいつそちら側に行ってもおかしくないんだと実感する。魔がさしたとはよく言うが、犯罪は、日常のちょっとしたきっかけのなかに多数に潜んでいる。
     著者は、小児性愛は依存症と言っていた。依存症には認知の歪みが深く関係しているが、それは誰にでもある。既にあるかもしれない。そしてそれらが酒や覚醒剤や、小児性愛を引き起こすかもしれない。人は誰でも加害者性をもっていて、優位な立場になると表面化しやすくなる。それをわかっていないといけない。
     改めて、偏見や思い込みでは何の解決にもならないと思った。本質を理解しなければ、永遠になくならない。

  • 小児性愛に特化した防止プログラムがあることを初めて知った。加害者の多くは「僕たちは愛し合っていた」などの認知の歪みがあり、現実が全く見れてないことに絶望した。子どもは無垢な存在であり、そんな子どもと恋愛関係にある。それは成人女性との恋愛と比べようもないほど純度が高く特別。相手よりも性的に優位に立ちたいといった身勝手さが気持ち悪く感じた。吸い込まれるように着いて行った、というところからも依存症なのだろうと感じる。

  • 特に8章は生きていて何度も実感したことのある内容だった。

    全体的に主張はもっともだと思うけどもう少し具体的な事例やデータが挙げられていてほしいという印象。でも統計にあらわれにくく証明しづらい性質のものは確かにあるし、性犯罪の中でも小児に対するものは特に暗数が多いとは想像できる。

    内容はだいたいざっくりとは知っていたことだったけど児童ポルノの知識がなかったので知れてよかった。児童ポルノがトリガーとなる事例が多数あることを鑑みるとポルノによって性犯罪を防ぐというような言説はやはり説得力に欠ける。
    ポルノと性犯罪の関係はずっと考えてるけどもっと掘り下げたいな。

    考えたこと。
    自分の中では性犯罪者に投影という認知の歪みがあるというのはもはや常識というか、性暴力を考える上では前提にあるようなことだったんだけど、『聖なるズー』とかが理性的な批判がなくひろく受け容れられているのって、もしかして一般的に知られてるわけではないってことなのかな。断然を感じる…。そうだとしたら、なおのことそういった視点を欠いたズー関連の危うさは語られるべきだと思う。

    認知の歪み:性的嗜癖行動を継続するための、本人にとって都合のいい認知の枠組み。
    投影というのは自分の欲望を相手の欲望とすること。「向こうから誘ってきた」とか。
     

    • 消えないさん
      田亀源五郎
      @tagagen
      「児童ポルノ」という言葉、そろそろ考え直した方が良いのでは。英語報道だと「child abuse materi...
      田亀源五郎
      @tagagen
      「児童ポルノ」という言葉、そろそろ考え直した方が良いのでは。英語報道だと「child abuse material」といった言葉が使われている。「児童虐待物」といったところか。児童ポルノという言葉、犯罪にカジュアルなイメージを付与するのと、ポルノに犯罪的イメージを付与するという、双方向から私は反対。
      2021/04/03
  • 犯罪者と私は明確に違うつもりで読み始めたが、実は境界は曖昧で私もきっかけがあればそっち側になってしまうかも、、、と不安になってきた。
    弱い者を虐げる犯罪をなくす為には犯罪者を隔離するよりもみんながストレスフリーな世界を目指す必要があるのかな。壮大。

    子どもが性犯罪の被害に遭わないために手に取ったのだが、下記が重要。
    ・犯罪機会論に沿って危険な場所に近づかないよう教える。
    ・どういう行為が性犯罪にあたるか教え、被害に遭ったら親に伝えるよう教える。

    あと小児性愛アニメについては、それが犯罪率を上げる、下げるという明確なエビデンスはないが、臨床の現場にいる筆者としては犯罪率を上げると思われる、とのこと。

  • 勉強になった。

    特に後半と、対話の部分が興味深い。
    認知のゆがみ

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著者プロフィール

精神保健福祉士・社会福祉士。大船榎本クリニック精神保健福祉部長。1979年生まれ。大学卒業後、アジア最大規模と言われる依存症回復施設の榎本クリニックでソーシャルワーカーとして、アルコール依存症をはじめギャンブル・薬物・性犯罪・DV・窃盗症などさまざまな依存症問題に携わる。専門は加害者臨床で、現在までに2500人以上の性犯罪者の治療に関わる。主な著書に『男が痴漢になる理由』『万引き依存症』(ともにイースト・プレス)、『盗撮をやめられない男たち』(扶桑社)、『「小児性愛」という病——それは、愛ではない』(ブックマン社)、『しくじらない飲み方 酒に逃げずに生きるには』(集英社)、『セックス依存症』(幻冬舎新書)、監修に漫画『セックス依存症になりました。』(津島隆太・作、集英社)などがある。

「2023年 『男尊女卑依存症社会』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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