わたしたちはどこから来てどこへ行くのか: 科学が語る人間の意味

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  • ブロンズ新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (141ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784893092076

感想・レビュー・書評

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  •  絵本のような感じ,子どもむけの感じの表紙です。中身も難しい内容をとても易しく書いています。
     この本は2000年8月の初版でぼくはその11月に読んだものですから,詳しい内容は忘れてしまいました。でも,いい本だったなあ,という感想は今も残っています。

     人間って何か? 遺伝って何か? そういったことを科学的に考えてみたい人にぜひお勧めです。

     ほとんど忘れていますが,ある章のタイトルだけだけはしっかり覚えています。

    「現代人は自転車で高速道路を走っているようなもの ・・・・・ 危険がいっぱい!」

     です。そして酒の場などでこういった話が出ると,ぼくはこの言葉を言って,物知り顔で話し始めます。


     この内容,ぼくが語るより,佐倉さんに語ってもらいましょう。このような文です。分かりやすいなあ,おもしろいなあ,と思われた方,ぜひ全文を読んでみてください。


    現代人は自転車で高速道路を走っているようなもの ・・・・・ 危険がいっぱい!

     遺伝的には、人間とチンパンジーはほとんど同じ、という話をしました。 一見おどろくようなこのデータも、いいかえると、それだけ生物の進化に は時間がかかるということを示しています。遺伝子はそう簡単には変わら ないものなのです。人間とチンパンジーが分かれてから今までぐらいの時 間(=500万年)で、やっと1%か2%だけ変化するわけです。

    さて、これは逆にいうと、今の人間がもっている遺伝子、あるいは遺伝 的なプログラムというのは、ずいぶん前から変わっていないということに なります。実際、今の私たちがもっている遺伝子は、何万年か前の環境 − 石器時代の環境 − に適応していたという考えが主流です。たとえば、 chapter5で感情について述べたところでも説明しましたが、恐怖感からパニックになるというのは現代社会では非適応的です。いきなり道路に飛びだして車にはねられたりします。でもこの反応は、大昔、もちろん車なんてなかった石器時代には、それなりに適応的だったはずです。森の中でいきなりクマに出会ったら、大パニックをおこしてとにかく逃げだす方がよかったのではないでしょうか。でも、そういった感情は、自動車が跳梁(ちょうりょう)する現代社会には適したものではありません。感情のもとには遺伝子があるとすると、わたしたちの遺伝子は、現代の環境には適していないのです。

     このことを、アメリカの進化経済学者ボイド・イートンは「現代の人間という生き物は、オンボロ自転車で高速道路を走ってるようなもの」と表現しました。うまいたとえですね。自転車は、田んぼのあぜ道を走るには適した乗り物かもしれません。でも、高速道路を走るのには適していない。現に法律で禁じられています。人間が住む環境は、私たちの遺伝子が適応していた、何万年か前の状態から、大きく変わってしまいました。いや、人間が変えてしまったのです。とくに、産業革命以後の劇的な変化は、それまでにないものでした。その結果、私たち人間は、自転車(のような遺伝的構造)で高速道路(のような環境)を走っているのによく似た状況に直面するようになってしまったのです。現代の人間というのは、それぐらい、現代という環境には合っていないのだ、と。

     たとえば、肥満もそうです。ぼくもちょっと気を抜くとすぐ太るのですが、なぜ人間は太るのか? 病気によるものはのぞいて、食べすぎ飲みすぎによるものを考えましょう。昔の人は、いつも食料が手に入る状況ではありませんでした。だから、たまに獲物があったときは、ここぞとばかりに食べたのです。そして、次に獲物が手に入るまでは、木の実などで飢えをしのいでつなぐ。それでよかったのです。昔の人にとっては。

     ところが今、日本のような先進国では、いつでもどこでも誰でも、食料が簡単に手に入る状況になってしまいました。しかし、私たちの遺伝子は、ドカ食いを望みます。その結果、現代人は太りすぎになってしまうのです。昔の、餌が少ないときの状況に適した遺伝子を私たちがもっているために太りすぎになる。いや、正確にいえば、私たち人間が、脳が、私たちの遺伝子に適していない環境をつくりだしてしまったのです。でも、おそろしがってばかりはいられません。私たちは、自転車で高速道路を走っていかなければならないのです。それが人間の宿命です。何とかして、自転車で高速道路を走れるような方法を考えなければなりません。がんばれ一!

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著者プロフィール

東京大学大学院情報学環教授、理化学研究所革新知能統合研究センター・チームリーダー。もともとの専攻は霊長類学だが、現在は科学技術と社会の関係についての研究考察が専門領域。人類進化の観点から人類の科学技術を定位することが根本の関心。著書に『科学とはなにか』(講談社)など。

「2024年 『抑圧のアルゴリズム』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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