ゾラ・セレクション 5

  • 藤原書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (651ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784894343757

作品紹介・あらすじ

ノルマンディーの田舎町から叔父を頼って上京してきた孤児の娘ドゥニーズは、パリに着いた朝、生まれてはじめて目にしたデパートの華麗なショーウィンドーに心底から魅惑される。デパートの名前は「ボヌール・デ・ダム」、すなわち「ご婦人方の幸福」百貨店。これは活動的で野心家、そして名だたるプレイボーイであるオクターヴ・ムーレが、大量の魅力的な商品とさまざまな近代商法によってパリ中の女性を誘惑し、驚異的に売上げを伸ばしている店である。ドゥニーズはこの店で、一介の女店員として働きはじめることになる。華やかなデパートは、婦人客を食いものにし、近隣の小商店を押しつぶす巨大で怪物的な機械装置でもあった。この小説はゾラが、同時代のデパートの躍進を、ムーレとドゥニーズの恋愛を横糸にしながら描き出した大作である。

感想・レビュー・書評

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  •  ゾラの小説としてはあまり知られていない作品だが、意外に面白い。日本でドラマ化してもイケるのではないか…とすら思える。
     二十歳の貧しい女性ドゥ二ーズが、地方からパリへと“上京”、壮麗巨大な百貨店「ボヌール・デ・ダム」で、いじめやいびりに遭いながらも健気に働き続け、やがて売り場主任にまで出世する。
    そのプロセスは大いにドラマチックなのである。

     “舞台背景”もまた、劇的。巨大百貨店(商業資本)が勢力を拡大し、周辺街区の小さな専門店舗(前時代的な経営)を圧迫し、蹂躙・壊滅させていく。そのダイナミズムもまた、ドラマチックなのであった。(はじめドゥ二ーズが幼い弟ら2人と共に身を寄せる、叔父ポーデュの「エルブフ本舗」(生地屋)も、やがて「ボヌール・デ・ダム百貨店」に圧迫されて経営が破綻。長女と夫人は失意のうちに世を去る。)
     近代的でスピード感あふれる新しい経営手法を次々にうち出す壮麗な巨大百貨店は、巨大な機械として繰り返し表象される。一方、周辺の旧い店舗は巨人に踏み潰されるごとくに没落してゆく小さき弱者なのであった。両者のその対比は、少々劇的にすぎるほど象徴的に描かかれるのであった。

     ちなみに、時代は19世紀末の1880年ころ(新聞連載1882-83年)。商業資本が隆盛し、市場経済、消費経済が発展していた時代のようである。(ガス灯から電気照明への過渡期。都市間では汽車が走るが、市内の交通は馬車が主役。)

     巻末解説によれば、著者ゾラは本作の執筆に先立ち、服飾業界、百貨店業界に綿密なリサーチを行ったという。そのため、各種生地・織物の名前から、百貨店の売り子従業員の生活まで、詳細なディテールで描きこまれる。現代のノンフィクション作家を連想させる細部のリアリティ、分厚い取材量を感じさせる。ゾラに「ジャーナリスト」の性格を評する者がいるのもこのためである。

     さて“主人公”はドゥ二ーズという若い女性である。あまり美人でもなく、素朴で不器用な売り子の1人にすぎなかったが、やがて社長オクターヴ・ムーレに見染められる。ムーレ社長はその後、ドゥ二ーズに夢中になり、アタックを繰り返す。だが、ドゥ二ーズは頑なにムーレの求愛を拒み続ける。
     私は読み進めながら、このドゥ二ーズの拒絶に、なぜ?と腑に落ちない感を抱いた。(求愛に対する本能的不安、他者に人生を委ねることへの不安、だというのだが…) 。 私は、このドゥ二ーズの心理描写に関しては、リアリティを感じえなかった。

     余談だが、本書では作中、フーリエに言及する一節がある。従業員の解雇や中小店舗の閉店など、経済的弱者を描くところも多く、ゾラの社会主義に近い目線を感じさせる。

    第十二章 p524
    ( 時には彼女は(ドゥ二ーズ)興奮して、理想の巨大なデパートを思い描いた。それはフーリエの提唱した協同組合社会(ファランステール)のような商業で、各自が能力に応じて利益の正確な配分を受け、契約によって保証されて、将来への確信を持てるというものだった。)

    memo 
    ・「ボヌール・デ・ダム」は、[ ご婦人方の幸福 ]の意とのこと。
    ・「プランタン百貨店」も登場。オリジナルはこれだったのか…。 他にも、「キャトルセゾン百貨店」も。
    ・現代のデパートではおなじみの“戦術”の数々が発案されてゆく様も興味深い。返品制度(→消費の欲望を抑制させる最後のブレーキを突破させる心理的機制として発案)。通販や宅配のサービス。顧客を店内くまなく回遊させるため、陳列レイアウトをあえてシャッフルし顧客を回り道させる目論見。原価割れの安売り目玉商品で損をしても、総合集客でがっちり補填する戦略。 …などなど。 
    ・流通・百貨店業界の諸兄には、ためになる内容でもある。

  • 長い……厚い……と思ったけれど、挿絵も適度に入り19世紀の生活がわかって面白かったし、ドゥニーズの実直な働きが認められるストーリーが痛快で、ディテールを読み込まなければそんなに辛くなかった。(ジャン、調子いいんだから……)
    解説(女性を食う機械たるデパートと、最後には愛する女性に征服されるムーレの対比)を読んでなるほどなーと、フランスにおける女性の賢い生き方のようなものは『フランス人の性』で読んだばかりだったので、なるほどと思った。

  • ルーゴンマッカールを読み進めておりますが、ゾラは小説家というかジャーナリストのような気がします。当時の時代についてとても詳しい描写が特徴の作家です。学生の時にエミールゾラを読んでいればなぁと思います。ボヌールデダム百貨店は、お買い物中毒なあなた!に必読の一冊です。

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著者プロフィール

エミール・ゾラ
1840年、パリに生まれる。フランスの作家・批評家。22歳ごろから小説や評論を書き始め、美術批評の筆も執り、マネを擁護した。1862年、アシェット書店広報部に就職するが、1866年に退職。1864年に短編集『ニノンへのコント』を出版、1865年に処女長編『クロードの告白』を出版。自然主義文学の総帥として論陣を張り、『実験小説論』(1880年)を書いた。1891年には文芸家協会会長に選出される。

「2023年 『ボヌール・デ・ダム百貨店』 で使われていた紹介文から引用しています。」

エミール・ゾラの作品

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