- Amazon.co.jp ・本 (271ページ)
- / ISBN・EAN: 9784896376326
感想・レビュー・書評
-
様々なバイアスがかかって論じられてしまうバブルという時代の、もっと生々しい姿」を書こうという目的のもと、膨大な雑誌記事を参考に紡がれたバブル研究本。
詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
「ゆとりでしょ? そう言うあなたは バブルでしょ?」
今年のサラリーマン川柳の第1位には、こんな作品が選ばれた。今では、すっかり揶揄の対象となっている「バブル」。日本中が好景気に沸いた30年前、日経平均株価は38000円を超え、「ジャパンアズナンバーワン」「24時間戦えますか?」といった言葉を胸に、日本人が最も自信にあふれていた時代。そんな時代の姿を、今一度捉えなおそうという試みが、ルポライターの昼間たかし氏による本書『1985-1991 東京バブルの正体』だ。
いったい、なぜ今、バブルを再興する必要があるのだろうか?
まさに「狂乱」という言葉が相応しかったバブル時代のライフスタイル。男子はイッセイミヤケやヨウジヤマモトなどのDCブランドに身を包み、女子は身体のラインを強調するボディコンに、髪型はもちろんワンレン。デートには、『GORO』や『Hanako』などの雑誌で話題の(雑誌によって流行が生み出されていたというだけでも隔世の感があるが……)高級レストランにクルマで乗り付け、休日はスキー場やゴルフ場で謳歌した。2017年の今、当時のライフスタイルを列挙しているだけでも、冷笑しか浮かばない……。
しかし、本書を読んでいると、冷笑だけでバブルを語ることはできないことに気づくだろう。
当時まだ珍しかったコンビニエンスストアの業績は、バブル期に一気に伸長し、アルバイト情報誌『フロムエー』は1987年に「フリーター」という言葉を生み出した。近年では「JK」という言葉はすっかり定着した女子高生に対する眼差しが生まれたのもこの頃。85年に森信之の『東京女子高制服図鑑』(弓立社)が刊行され、93年まで改訂版が出されるロングセラーを記録する。当時の雑誌『GORO』ではこう書かれている。
「女子大生・OLがおやじギャル化し、オジサマ族の愛玩具となりつつある現在、オレたちの目は、その下の女子高生へと向きつつあるよな」(1989年11月23日号)
また、中森明夫は83年から『漫画ブリッコ』誌上で「おたくの研究」の連載を開始。89年に宮崎勤による連続幼女誘拐殺人事件が起きると、その存在が社会的に可視化されることとなる。だが、そんな陰惨な事件によって注目を浴びたオタクという存在に同調し、事件の翌年に行われたコミケの来場者数はそれまでの10万人の倍以上となる23万人を記録した。ここから、「クールジャパン」と呼ばれる現在の施策が生み出されていることは言うまでもない。冷笑とともに語られるバブルは、現在まで続く文化の数々を揺藍する場所でもあったのだ。
バブル期の雑誌の数々を読み漁り、昼間が見出したのは「現代には存在しない圧倒的な開放感と自由」だった、と振り返る。
「現代の人々が、バブル時代の羨ましさとしてあげるのは、いつも会社で経費が使い放題とか、就職活動が楽勝といった安易な部分ばかりだ。しかし、現代人が本当にうらやましいと思うことは、なんの抑圧も感じず、誰の目も気にすることのない世界が広がっていたことなのではないだろうか」
SNSで炎上が相次ぎ、人の目を気にしながら生きる現代から30年前のバブルに目を向けると、そこにはきらびやかで狂乱なだけではない人々の姿が浮かび上がってくるだろう。