知の冒険者たち: 蘭学事始を読む

  • 八坂書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (326ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784896946499

作品紹介・あらすじ

『蘭学事始』は、洋学史上重要な位置をしめる蘭方医、杉田玄白が晩年、文化十二年(一八一五)につづった回想録である。自ら語るように子孫のために、そして蘭学のために書きのこした学究の遺書でもある。玄白が同志、前野良沢(蘭化)とともに『解体新書』の翻訳に苦心した苦闘と歓喜とを一つの頂点として、いかに蘭学が起こり、発展して盛時を迎えたかについて、彼の史観をまじえ、記憶をたどり、上・下二巻にまとめた自分史である。その間、玄白とともに協力し活躍し努力した彼の同志、知友、関係者などを紹介しつつ、蘭学の勃興、興隆の人的資源について熱っぽく語りかけている。本書は一面では、日本の近代化がどのうように推進されたか、その要因がどこにあるかを玄白一個人の体験をとおして、書きつづった近代日本、青春の書でもある。

感想・レビュー・書評

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  •  杉田玄白と言えば、オランダ語の医学書を『解体新書』という形で日本語でまとめた江戸期の先進知識人として広く知られている。その彼が晩年、蘭学創生期における学者達の世界を書き留めたとされるものが『蘭学事始』だ。既に岩波文庫から現代語訳が出版されているが、著者はその訳の不満な部分を補った訳出を試みた。この新訳と古文本文が、本書の前半部を占めている。長崎通詞らを通して蓄積されていった知識を用いながら、新しい学問を切り開いた杉田の蘭学への思いが伝わり、読み物としてもなかなか面白い。

     一方で『蘭学事始』は、箒で掃いたゴミの様子から「鼻」を形容する言葉の意味を思いついた、というような今世で知られている杉田の逸話の出所となっている。だが、この杉田の記述には疑問な点、事実関係の食い違いが多く見られる物となっており、筆者は史料批判を的確に加えていく。更に写本の版による相異や伝わる書名の流れを通じて、『蘭学事始』の歴史的変遷と意義について考察する部分が本書の後半部となる。書誌学・文献学の手法に基づいたかなり専門的な話となるため、こちらはやや退屈に感じられるかも知れない。

     だが原典は原典、注釈本は注釈本、という分冊が当然基本となるなかにあって、原典・現代語訳・注釈・批判まで一冊でまとめた本書の形態はユニークだ。読みやすさという点ではなかなかのものなので、他の古典もこうした本が出てくるとありがたい。

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