憂い顔の「星の王子さま」: 続出誤訳のケーススタディと翻訳者のメチエ

著者 :
  • 書肆心水
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感想 : 6
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  • Amazon.co.jp ・本 (255ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784902854305

作品紹介・あらすじ

よい翻訳とは先ず第一に正しい翻訳であること。『星の王子さま』を真摯に愛する読者のために、「定番」内藤濯訳と、新訳14点を具体的に検証。問題箇所を理解して、あなたの『王子さま』を笑顔に変えるガイドブック。

感想・レビュー・書評

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  • 『星の王子さま』の翻訳に一石を超剛速球で投じた一冊。

    『星の王子さま』は1953年岩波少年文庫から出版され(改版1976年発行)、2005年の独占的出版権の期限以降、次々に出版された日本語訳本は2006年11月時点で最初の内藤訳を含めて15点、ということにまず驚きます(その後も増えています)。それほどに訳し甲斐のある作品なんでしょうね。

    本書は(『星の王子さま』への愛ゆえに)著者さんが持てる知見で思い切りぶん殴ってくるスタイルなので内藤訳がお好きな方にはちょっとお勧めしづらいです。(著者の加藤さんの経歴はこちら。
    https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8A%A0%E8%97%A4%E6%99%B4%E4%B9%85

    第Ⅰ部「批評はハッタリか?」
    ・『星の王子さま』は「オトナのための小説」ではない
    ・キーワードである「apprivoiser(飼いならす)」について。

    第Ⅱ部「翻訳者の務め」
    ・内藤訳の誤り、適切ではない箇所について。「かなり早くから広く言われていた」(P61)そうです。そういった箇所に訂正は入らないんですね。

    著者は『星の王子さま』を読んだ学生からピンと来ないと言われたそうですが、私も『星の王子さま』を初めて読んだとき(手元にあるのは内藤訳で10代最後あたりに初めて読んだと思います)「とても良い話だけど分かりづらいところもあるなぁ。フランス語というのは難しい言語と聞くしそのせいだろうか」と思い、何度か再読したときも所々に「?」となる箇所があったりしました。私の読む力の限界と言えば限界なんですが(;'∀')

    ・ミラン・クンデラ『冗談』のフランス語訳の有名な事件について。クンデラも驚愕するほどバロックな文体に変えられてしまっていたらしい…。確かに挙げられた直訳と翻訳を読み比べたらめちゃくちゃゴテゴテと飾り付けられていて気の毒でした。クンデラはフランス語訳を自身で修正したそうです。


    ・著者のお勧め訳。
    稲垣直樹『星の王子さま』平凡社ライブラリー
    河野万里子『星の王子さま』新潮文庫
    谷川かおる『星の王子さま』ポプラポケット文庫

    野崎歓『ちいさな王子』光文社古典新訳文庫
    出版が後のほうだったので間違いが少ない、勉強に使うにはこちらが良いかもしれません。

    第Ⅲ部「憂い顔の『星の王子さま』」
    主に最初に出された内藤氏訳を筆頭にこの15点と英訳3点の訳をチェックし、いくつかの原文とこれらの訳文の対応する箇所を取り上げて、正誤を〇×で付けている。しかし、新訳でも誤訳があるのは驚きで、『星の王子さま』は全世界でベストセラーでありながら、真意を読み取る難しさを実感しました。

    仏→英は誤訳が少ない。私は原文を読むのはかなり無理がありそうなので、原文を味わうために読むならまず英語かな。

    今回は
    内藤訳(岩波少年文庫)再読
    https://booklog.jp/users/kei1122/archives/1/4001140012
    稲垣訳(平凡社ライブラリー)
    https://booklog.jp/users/kei1122/archives/1/4582765629
    大久保ゆう訳(青空文庫)
    https://booklog.jp/users/kei1122/archives/1/B00KY448LY
    を併読しました。


    Etre homme, c’est précisément être responsable. C’est connaître la honte en face d’une misère qui ne semblait pas dépendre de soi. (人間であるとは、まさに、責任を自覚するということである。それは、自分は関与していないと思われた悲惨を前にしては時の何たるかを認識することである。)(P7)

  • 面白かった!
    「星の王子さま」の誤訳を、一番浸透している内藤訳を中心に、その後の新訳もかなりの数網羅して指摘の嵐。
    かなり口が悪いので、少し読むのが辛くもあったのだけど、私がピンと来なかったところも的確に突かれていて、訳によってこんなに印象が変わって来るのかと驚いた。
    著者はかなりの覚悟で書いているのだろう。
    英訳まで数冊読み比べていて、英語ではどう訳されているのか見られるのも興味深かった。

  • 請求記号:857.5カ
    資料番号:010999910

  • 最初はこんなに攻撃的でええんかいとビックリします。

    で、読み進むにつれ、
    今まで断念した星の数ほどのフランス文学作品の数々を思い出します。
    そうかー。翻訳が悪かったんだなー。(-s-)

    なんて調子のった私は甘い!
    にしても作品の色をこうも変えてしまう翻訳。恐るべし。

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著者プロフィール

1935年東京に生まれる。仏文学専攻。東京大学・恵泉女学園大学名誉教授。著書『ブルデュー 闘う知識人』(講談社、2015)『《ル・モンド》から世界を読む』(藤原書店、2016)ほか。訳書 ファノン『黒い皮膚・白い仮面』(共訳、みすず書房、1968、1998)ほか。

「2020年 『黒い皮膚・白い仮面 【新装版】』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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