少年が来る (新しい韓国の文学 15)

  • CUON
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  • Amazon.co.jp ・本 (275ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784904855409

作品紹介・あらすじ

1980 年5月18 日、韓国全羅南道の光州を中心として起きた民主化抗争、光州事件。戒厳軍の武力鎮圧によって5月27日に終息するまでに、夥しい数の活動家や学生や市民が犠牲になった。抗争で命を落とした者がその時何を想い、生存者や家族は事件後どんな生を余儀なくされたのか。その一人一人の生を深く見つめ描き出すことで、「韓国の地方で起きた過去の話」ではなく、時間や地域を越えた鎮魂の物語となっている。

感想・レビュー・書評

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  • 光州事件の被害者への鎮魂の物語。
    こんなにひどいことが…
    中学生の息子を亡くしたお母さんが語る息子の思い出。つつましい生活をしていた姉弟の生活。誰にも打ち明けられなかった屈辱的被害を受けた女性の静かな語り。
    こんなことが、同じ国民同士で行われたことの恐ろしさ。
    エピローグに作者のこの事件に対する深い想いがあふれている。

  • 1980年韓国の光州で、軍が民主化を訴えていた市民達を武力で制圧する。ただ主張を訴えてデモをしただけの10代半ばの子供や若者たちが多数殺され残酷な暴力に晒された。
    作品は、殺された子どもや拷問に遭った末に生き延びた者や関係者たちが代わる代わる語り手となる連作短編集だ。語り手の1人が言っているが、何故人はここまで残酷な行為ができるのだろう。この事件に留まらず日本でも世界でも同じようなことは起きている。語り手たちの声があまりにも痛ましくて、なかなか読み進められなかった。現代の高度に発展した韓国にこんな時代があったなんてなかなか信じられない気持ちだが、一方でいつ何時韓国も日本も再び権力が暴走する時代がやってくるか分からないし、果たして自分は絶対に暴力を振るう側の人間にならないと言い切れるのかとも考えてしまう。
    社会の中で大きな声を挙げられない市井の人々の心の内を、丁寧に簡易な表現で的確に読者の心に訴えているこの作品に出会えて本当に良かった。少しずつ、ハン・ガンの他の作品も読んでみたい。

  • 何を言ってもうまく伝わらない気がする。読んで良かった。

  • 光州生まれの著者が、幼少期の記憶をたどりつつ描いた光州事件。当時中学生だった少年を軸に、資料と証言をもとに、淡々と軍事政権の市民虐殺を物語っていく。英雄は登場せず、普通の市民が逡巡しながらもいかに抑圧に抵抗し、殺されていったか、周囲で生き残った者がどれだけ深い心の傷を引きずって生きているかが、読み手に染みわたるような語り。彼女の本をまた読みたいと思わせる。
    救いのない話が詰まっている。もっとも、特別に残忍な軍人もいたが、特別に消極的な軍人もいたという記述に唯一救われた。「集団発砲の命令が下された時、人に弾を当てないように銃身を上げて撃った兵士たちがいた」と。
    事件関連では「タクシー運転手」などの映画も見たが、詳細を活字で読んだのは初めて。同時代をバブル景気で平和な隣国で生きていて、伝えられていたであろう民主化運動に血を流した人々の話には関心が向いていなかった、と恥じつつ読了。
    ちなみに映画では、「1987 ある闘いの真実」「大統領の理髪師」などがチョン・ドファン、パク・チョンヒ大統領の時代を描いていて見応えがあった。

  • 韓国の作家ハン・ガンの小説。初めて読んだ。
    韓国の友人がちょうど韓国語で読んでいて、話を聞いてたら読みたくなった。

    本作は1980年に起きたいわゆる5.18、光州事件を題材にした小説だ。民主化を求める学生たちから始まった運動が光州市民たちの間にも広がっていくと、当時の軍事政権が送り込んだ軍隊は、誰彼構わず市民を虐殺した。

    ハン・ガンの生まれはこの光州だ。私の友人も育ちは光州。ここには書けないが驚くようなエピソードや体験談を聞くにつけ、まだこの事件は終わっていないのだと実感。

    じっさい、本書を読めば、真の悲劇というのは、当の出来事が終わってから始まるのだということがわかる。
    過去というのはたいてい、現在によって塗り替えられていくものだが、本書に描かれる事件の当事者たちは、つまり家族を虐殺され生き残った者たちは、凍結した過去にたえず追いかけられ、それは日常の襞に細かく根を張り、蝕み、やがてその人を殺すのだ。
    時が経つほどに傷は深くなっていく。

    ほんとうに読んでいて苦しかった。この本の中には、生やさしい絶望もなければ、生やさしい希望もないから。
    各章ごとに視点は変わる。しかしいずれにも救いはない。前に進む物語もない。ただ、生ける者、死んだ者の魂が、ページの中を彷徨っているだけ。

    この作家の書く文章の純度が高いだけに、断片的に描かれる場面がガラスの破片のように胸に刺さる。

  • 音のしない水のなかを長く長く、息も潜めて潜航しているような気分になった。読み終わってからもまだ水の膜が張り付いてるような。

  • 李恢成の本で光州事件を知り、どんな事件かなとこの本を読んでみた。

  • 「良心の宝石を死と引き換えにしてもいい」

    「膝を折った生よりも すっくと立った死を望む
     我々は正義派だ」

    正義を美化していいものだろうか。

    残虐になり人の命を奪うときにも
    崇高になり自ら命を捨てるときにも
    それぞれに陶酔があって
    頭が変になっているんじゃないかな。

    特に10代の若者は。
    特に暖かい春の終わりには。

  • 喫茶店で、ぼたぼたと流れ落ちる涙をどうにもとめることができずに読了。
    筆者の覚悟が伝わってくる力強い小説だった。

    今、K-POPや韓流ドラマ等を私たちは手軽に楽しんでいるけれど、こういう抑圧された歴史があって、今の文化が花開いていることを私たちはもっと知るべきだと思う。

  • 光州事件を題材とした物語と、音楽にまつわるエッセイ集と。
    どちらも、簡潔で的を射た描写が世界を押し拡げ、描かれている場の空気を感じられる。淡々と静かにぐるりを観察して、一番大事なものを逃さない。

    いくつかの視点から物語られる#少年が来る #소년이온다 は、胸の真ん中にどすんと何かを投げ込まれたよう。人間の、こわいところ、醜いところと、その反対にある清らかさとを静かに指し示されて、私はそれとどう向き合えば良いのか途方に暮れる。それでもまた読みたいと思う物語。

    #ハンガン #한강 さんの本、邦訳されているもの全部読みたい…。

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著者プロフィール

著者:ハン・ガン
1970年、韓国・光州生まれ。延世大学国文学科卒業。
1993年、季刊『文学と社会』に詩を発表し、翌年ソウル新聞の新春文芸に短編小説「赤い碇」が当選し作家としてデビューする。2005年、中編「蒙古斑」で韓国最高峰の文学賞である李箱文学賞を受賞、同作を含む3つの中編小説をまとめた『菜食主義者』で2016年にア
ジア人初のマン・ブッカー国際賞を受賞する。邦訳に『菜食主義者』(きむ ふな訳)、『少年が来る』(井手俊作訳)、『そっと 静かに』(古川綾子訳、以上クオン)、『ギリシャ語の時間』(斎藤真理子訳、晶文社)、『すべての、白いものたちの』(斎藤真理子訳、河出書房新社)、『回復する人間』(斎藤真理子訳、白水社)などがある。

「2022年 『引き出しに夕方をしまっておいた』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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