殺人者の記憶法 (新しい韓国の文学 17)

  • CUON
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感想 : 56
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  • Amazon.co.jp ・本 (167ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784904855645

作品紹介・あらすじ

田舎の獣医キム・ビョンスの裏の顔は、冷徹な殺人犯だった。現在は引退して古典や経典に親しみ詩を書きながら平穏な日々を送る彼には認知症の兆候が現れ始めている。そんな時、偶然出会った男が連続殺人犯だと直感し、次の狙いが愛娘のウニだと確信したビョンスは、混濁していく記憶力と格闘しながら人生最後の殺人を企てる―-。
虚と実のあわいをさまよう記憶に翻弄される人間を見事に描き、結末に向かって読み進める読者の記憶までをも翻弄する韓国長編ミステリー小説の傑作。

【映画化情報】
ソル・ギョング、キム・ナムギル、ソリョン(AOA)出演、映画『殺人者の記憶法』
2018年1月27日よりシネマート新宿ほか全国にて順次公開決定!

感想・レビュー・書評

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  • 純文学っぽい韓国のミステリー。
    キム・ビョンスはかつて田舎の獣医、裏の顔は冷徹な殺人犯であった。
    現在は平穏な日々を送るが、アルツハイマーと診断され記憶が混沌としていく。
    娘をつけ狙う別の殺人者から守るために、人生最後の殺人を企てる。
    これからすべきことだけは忘れてはならないーこれは「未来の記憶」だと。

    殺人犯の混沌とした記憶に乗せられ、共に迷宮を彷徨う面白さがある。
    この人物に同情はできないけれど、記憶の虚と実を彷徨う描写が見事であった。
    訳者あとがき「記憶をなくしてしまっても、私は私でいられるか」、「その記憶が信用できないものであれば、今もこれからも意味を失う」「『真実』はどこにもなかったのではないか」に頷けた。そんな体験ができる一冊。

    (その他)
    “新しい韓国の文学シリーズ”は、本の表紙や扉がオシャレ。特に扉は切り取って何か細工したくなる可愛さ♡(そんなことしませんが^^;)
    表紙に合わせたスピンの色にも注目!

    • なおなおさん
      栗!ファイナルアンサー?
      ……なおなお的には正解です!
      私も一見栗が並んでいると思った…^^;
      やはり1Qさんと私、どうかしてるよ…絵を見る...
      栗!ファイナルアンサー?
      ……なおなお的には正解です!
      私も一見栗が並んでいると思った…^^;
      やはり1Qさんと私、どうかしてるよ…絵を見る目がないよ……_| ̄|○ il||li
      2023/09/03
    • 1Q84O1さん
      なおなおさん、今さら何をおっしゃいますか!
      だって我々は画伯ではないですか!w
      ついでに音痴な画伯ではないですか!w
      なおなおさん、今さら何をおっしゃいますか!
      だって我々は画伯ではないですか!w
      ついでに音痴な画伯ではないですか!w
      2023/09/03
    • なおなおさん
      絵心ない上に音痴…
      そんな1Qさんとなおなおの傷の舐め合い
      ( ¯ ¨̯ ¯̥̥ )◟( ᵒ̴̶̷̥́ ·̫ ᵒ̴̶̷̣̥̀ )ポンポン...
      絵心ない上に音痴…
      そんな1Qさんとなおなおの傷の舐め合い
      ( ¯ ¨̯ ¯̥̥ )◟( ᵒ̴̶̷̥́ ·̫ ᵒ̴̶̷̣̥̀ )ポンポン…
      2023/09/03
  • 「恐ろしいのは悪では無い、時間だ。誰もそれに勝つことはできないからね。」
    サスペンスでもあり、哲学書のようでもある今までに出会った事のない本でした。

    お世話になっているなおなおさんに教えて頂いた映画化もされている本作、予想と全然違って面白かったです。

    主人公のビョンスは獣医を営みながら希望を殺人に求め人を自分の敷地内の林に埋め続けていましたが、殺人の帰りに交通事故に遭ってからその希望も失いパタリと殺人を止めてしまいました。
    70歳になり、なんとアルツハイマーの診断。養女な為に微妙な関係の植物改良の研究員である娘のウニが居ますが離れて暮らしているので記憶を保つ為に日記を書いたり、レコーダーを持ち歩いて会話を録音したり工夫しています。
    昔に犯した殺人の記憶はハッキリしているのに最近の事は忘れていく。
    そんなある日、また接触事故を起こしたのですがその相手の車のトランクから血が滴っているのを目にするビョンス。
    同族の匂いを嗅ぎ付け警戒していたのですが、なんと、ある日ウニが結婚する予定だとその男、ジュテを連れて来ます。
    このままではウニも殺されるかも知れない。ウニを守る為に最後の殺人を決意するビョンス。ですが彼はアルツハイマーなので記憶が続かず…。

    ビョンスが詩の教室に通っているのでニーチェ等有名な詩人が出てきます。
    俺の詩を褒めてくれたので生かしておいてやった、と言う理由には笑ってしまいましたが、このいくつか出てくる詩がビョンスの独自の哲学と相まって非常に良い味を出しています。
    その中に韓国の詩人の『花嫁』と言う詩が出てくるのですが、以下のような内容です。

    「初夜に厠に行く花婿の服が門の取っ手に引っかかった。花婿は花嫁が淫乱なために自分の袖を引っ張ったと勘違いし花婿は逃げた。40年程後に偶然そこを通りかかると花嫁が初夜の姿のままでそこに座っていた。ぽんと叩いてみると灰になって崩れ落ちてしまった」

    これをビョンスの講師や受講生は美しいと褒め讃えていたのに対して「初夜に花嫁を殺害して逃走した花婿の話だと解釈した」とビョンス。
    実は私もこれに似たような解釈をしたので、やばい、魔界に居すぎて思考が危なくなってきた、とカフェの片隅で震えていたのですが(本日は優雅にカフェで読書してました。電車と同じく隅っこで縮こまってましたが)どんどんビョンスのアルツハイマーは進行して行きます。

    ウニが心配でジュテの動向を探ろうと住所を調べて向かったのに途中でその目的自体を忘れて警察に保護されてしまう。ウニには突然自分の首を絞めてきたと泣かれてしまう。老人ホームに入る事も勧められる自体に。
    もう駄目だとビョンスはとある行動に出るのですが…

    終盤でどんでん返し!
    全編、ビョンスの日記のような形で綴られていますので読んでいるこちらもビョンスと同じように混乱し、本当にアルツハイマーのせいなのかどうなのか分からなくなる自体に。
    ここがよく出来ていて、そのまま余韻の残るラストへと向かうので、ちょっと呆然としてしまいました。

    韓国の小説は3冊目ですが前の『僕の狂ったフェミ彼女』に続いて非常に読みやすく、小雨そぼ降る午後の、優雅な珈琲タイムにピッタリの作品でした。(もうこの辺も魔界の影響でおかしくなって来ている)

    図書館で探した際に、もっと暗めの装丁を想像していたので表紙がポップでお洒落過ぎて見逃し、本棚を3回位行ったり来たりしてしまいました。
    色んな意味で既成概念を覆してくれる良書でした。

    私信になりますが、なおなおさん、ありがとうございます。仰る通り読みやすかったです!
    1Qさんに教えていただいた『あの子はもういない』もゲットしたので楽しみです。
    『彼と彼女のなんたら』(私の鳥頭もいよいよ極まってきた)は貸出中なので予約済みです。

    • yukimisakeさん
      schieleさん、映画まだ観てなくて、読んだ後に気になって30分程見たんですよ。そしたら最早設定が大分変わっててびっくりしました!
      ラスト...
      schieleさん、映画まだ観てなくて、読んだ後に気になって30分程見たんですよ。そしたら最早設定が大分変わっててびっくりしました!
      ラストはまだ分からないんですが、映画の方がより一般向けにエンタメ化されてます。
      でもschieleさんなら原作の良さも分かって頂けそうなので、いつか読んでみて下さい(*´ω`*)薄くてすぐ読めちゃいます。
      僕も続きまた見ますね(^^)ラスト本当にどうするんだろ…
      2024/03/05
    • schieleさん
      なるほど〜やっぱり原作とは変えられてるんですね映画の方はw
      どちらの良さもあると思うので楽しみにしておきます☆
      なるほど〜やっぱり原作とは変えられてるんですね映画の方はw
      どちらの良さもあると思うので楽しみにしておきます☆
      2024/03/05
    • yukimisakeさん
      schieleさん、俳優さんもカッコよくて映画は映画で凄く楽しめそうでした!
      僕も続きみるの楽しみです♪暗数殺人も大分原作は違うのかなーって...
      schieleさん、俳優さんもカッコよくて映画は映画で凄く楽しめそうでした!
      僕も続きみるの楽しみです♪暗数殺人も大分原作は違うのかなーって。
      2024/03/06
  • ひえー、ここまでのラストは想像してませんでした。
    人間の記憶、存在の危うさ…。

    何が正しいのか、間違っているのか、だけでなくて存在しているのかという疑問。
    これは人にすすめたい!

    最近韓国文学が熱い(私の中で)のでCHEKCCORIという専門店に行き、出会った一冊。このCUONのシリーズ全巻よみたい。

  • 韓国の作家、キム・ヨンハの異色クライム・サスペンス。映画化もされている。

    主人公の「俺」はかつての連続殺人犯。実の父親を始め、多くの人を手にかけてきたが、あるきっかけでしばらく殺人は犯していない。
    1人娘のウニは実は養女で、年は祖父と孫ほども離れている。
    「俺」はアルツハイマー病と診断されている。
    ある日、街に連続殺人事件が起こる。もしやその犯人は「俺」なのか?
    消えゆく記憶。ウニに迫る魔の手。「俺」はウニを守りきれるのか。

    物語の語り手はもちろん、殺人鬼の「俺」である。
    あやふやな記憶をたどる「信用ならない」語り手なのだが、彼のモノローグは淡々としつつ詩的ですらある。
    そもそも殺人を犯すきっかけとなった実父との関係。殺した人たちの思い出。綴ってきた詩のこと。こぼれ落ちてゆく記憶。
    何人もの人を殺してきた極悪人のはずの「俺」の語りは、どこか、生きることの哀しさをまとう。
    「俺」は殺人鬼を突き止める。大切な娘を守ろうと、手がかりを録音し、ノートに書き残す。だが娘はそれを信じない。
    もがくような「俺」の努力は徒労に終わる。

    終盤に、「俺」は怖ろしい事実を知る。それまでの自分の存在が崩れ落ちていく。
    その心許なさは、翻って読者にも突きつけられる。
    お前の信じているものはどれほど正しいのか。
    パズルのピースが1つ1つ抜け落ちていくように、世界が壊れていく。最後に白い虚無が残る。
    不思議な読み口である。

  • 読みやすかったですが、個人的にはラストはなんとなく予想がついたのでそれほど驚きはなかったのと、実際どうだったのかというのがはっきり分かる終わり方のほうが好きなのでそこは少し好みではなかったです。また他の韓国文学にも触れてみたいです。

  • キム・ピョンスは獣医師だった。現在は引退して田舎で暮らしている。そして以前は連続殺人者だった。その彼が娘のウニを狙っている殺人者に気が付いた。ウニを殺させてはならない。その前に自分があいつをやらなければ。しかし、ピョンスは認知症にかかっている。最近のことから忘れて行ってしまう。あいつをやることを忘れてはいけないが…。読み進むうちに、虚と実の間で戸惑う。何が本当で、何が嘘なのか?

  • 1/27から映画が公開されるので、それに合わせて原作を読んでおこうと思って。

    読了して。
    え、そんなハズが。。。という、ラスト。
    後書きにもあったが、狼狽えるラストだった。

    主人公のビョンスがアルツハイマーに苦しみ、必死に色々な事を忘れまいと日記に書いたり、録音したり何とか記憶をとどめようとしていたのに。
    たった1人の娘、ウニのためにー。
    けど、そのウニはー。。。

    ラストを読んでみると、今まで読んできた事の全てが妄想なのか!?と。もう一度、読み直そうかと思ったぐらい。

    なかなか面白い視点で書かれている小説だと思う。

  • 最初は、詩や哲学的な表現、急な場面展開が多くて、話を理解できるか不安になったけど、読み進めるうちにそれが主人公の認知症の症状と重なって擬似体験のような気分になった本(初めての感覚〜!)認知症になっても感情はあるし、誰かを守ろうとする気持ちはあって、言葉にできなくても伝えたい想いはあるんだなと。認知症の人って話を聞いて頷くだけでも安心するから、どうせ分からないから…と思うんじゃなくて気持ちを受けとめていけばもっと優しい社会になると作品を読んで思ったり。(でも個人的に介護福祉士としてはラストはショックだったけど笑) 主人公が認知症で覚えてないからこその内容が分からない所が不気味で、読み応えあるミステリーでした。

  • 設定がおもしろすぎると思って読んでみた。
    主人公の独白がどんどんあやしくなっていって、事実が明らかになるにつれて切なくなった。書かれていることを疑いながら読むのが新鮮でおもしろかった。

  • こころがざわつく。
    まだどう納めたら良いのか、分からない。

    共感してはいけないと思っているのに、
    最初から最後まで、どこかわかると思ってしまう部分と
    それを自信で拒否したくなる部分を持つような、
    ざわつき、心の中の違和感、そしてそれらを綺麗に文章のなかに織り混ぜて、
    まとめあげて、最終的には予感していた結果へと、自然に導かれていく。

    心と思考、記憶に年を取ること、たくさんのフックがあって、どれかひとつでも
    気になることがあると、それはこの作品で引きずり出される気がする。

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著者プロフィール

著者:キム・ヨンハ
1968年生まれ。延世大学経営学科修士課程修了。1995年季刊誌『レビュー』に「鏡についての瞑想」を発表し、作家活動を開始。
文学トンネ作家賞、東仁文学賞、黄順元文学賞、万海文学賞、現代文学賞、李箱文学賞、金裕貞文学賞、呉永寿文学賞などを受賞。著書に、長編小説『お前の声が聞こえて』、『クイズショー』、『光の帝国』(宋美沙訳、二見書房)、『黒い花』、『阿娘はなぜ』(森本由紀子訳、白帝社)、『私は私を破壊する権利がある』、『殺人者の記憶法』(吉川凪訳、クオン)、短編集『何があったのかは、誰も』、『兄さんが帰って来た』、
『エレベーターに挟まったあの男はどうなった』、『呼び出し』、エッセイ『旅行の理由』、エッセイ集三部作『見る』、『語る』、『読む』がある。スコット・フィッツジェラルドの『偉大なるギャツビー』の翻訳も手がけた。

「2020年 『僕は李箱から文学を学んだ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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