リスク大国 日本 : 国防 感染症 災害

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  • グッドブックス
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  • Amazon.co.jp ・本 (216ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784907461355

作品紹介・あらすじ

国難級の災害が起きる危険度が世界一で、パンデミック等の緊急事態にも対応できる法律もなく、中国・北朝鮮の暴走にも国家として対応できない我が国・日本。
国防、さらにはあらゆる災害、感染症というオールハザードの視点で、日本のおかれた恐るべき現実と、現状打破の視点を示した、画期的書。

感想・レビュー・書評

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  • 日ごろからの防災・減災の取り組みが必要となる。加えて知災・備災も含めた「4つの災」(防災・減災・知災・備災)が、生命を守るうえでは必要となってくるだろう。
    (引用)国防 感染症 災害 リスク大国日本、著者:濱口和久、発行所:株式会社グッドブックス、2022年、36

    2022年の梅雨は、全国的に早く明けたが、その後の“戻り梅雨”は、全国で大気が非常に不安定になり、各地で浸水被害が多発している。この時期(7月上旬)の雨は、地球温暖化の影響からか、昨年の熱海市伊豆山土石流災害のとおり、各地で甚大な被害をもたらすようになってきた。
    また、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻は、我が国においても対岸の火事ではなくなってきた。
    さらに新型コロナウイルスについては、新規感染者が全国で5ヵ月ぶりに10万人を超すなど(2022.7.16)、第7波ともいうべき状況になっている。

    これらの脅威をどのように理解し、私たちは行動すべきか。私たちの身に迫りくる3つの大きな危機(国防、感染症、災害)をどのように乗り越えていくべきなのか。そう考えていたときに、書店で拓殖大学大学院教授の濱口和久氏による「国防 感染症 災害 リスク大国日本(グッドブックス、2022年)」というタイトルの書籍に出会った。

    私も仕事で防災に携わっている一人であるが、濱口氏による書籍の「はじめに」から感銘を受けた。「戦後、日本国内では戦争による日本人の犠牲者は1人も出していないが、自然災害による犠牲者は5万人を超えている(本書、2)」。

    なるほど。

    冒頭から説得力のある言葉であり、書籍では我が国のおかれた災害リスクとともに暮らしていかなければならないということが実感できる。
    特に、戊辰戦争の敗北だけで徳川幕府が終焉したわけではなく、幕末期に日本を襲った地震や風水害、感染症の流行などのくだり(本書、26)は参考になる。我が国の歴史においても、国家を脅かす危機が一度に襲い、幕府の財政が逼迫してしまったことは、私たちも過去の歴史から学ぶべきことであろう。事実、本書では、平成30年に土木学会が公表した「首都直下地震や南海トラフ巨大地震が起きた後の長期的な経済被害の推計」の数字を紹介している。その経済被害は、最悪の場合1410兆円にものぼるという衝撃的な数字であった。

    本書では、災害対策の分野に限っても、我が国のおかれた現状、災害の歴史から学ぶ行動原理、ハザードマップは万全か、消防団や自衛隊、そして政府・自治体の危機管理の現状など、多岐にわたる角度から学ぶことができる。この内容は、とてもベーシックなものであり、国民であれば最低限知っていなければならない内容であろう。

    また、書籍は、自治体防災担当者にも役に立つものである。例えば、本書には、「日本の避難所環境は世界最低レベル」という項目が登場する。国では、平成25年8月に「避難所における良好な生活環境の確保に向けた取組指針」を公表している。しかし、近年の災害による避難所の実態は、どうであろうか。相変わらず、学校の体育館や公民館が圧倒的に多い。また、昨今の新型コロナウイルス感染拡大により、避難所における3密を避けなければならない(自治体によっては、新型コロナウイルス陽性者専用の避難所を設けているところもある)。この避難所の項目では、イタリアの事例とともに、国際基準の「スフィア基準」が紹介されている。この基準では、1人あたりの居住スペースは3.5平方メートル以上、天井の高さは2メートル以上などが示されている。

    国家や自治体は、防災対策に予算を費やすことが少ない。しかし、これだけの災害大国日本において、避難所は、国による指針のみならず、ベッドやトイレを充実させたものにしていくべきではないだろうか。特に近年、災害が甚大化し、避難生活も中・長期化する傾向にある。たしかに、中・長期的には仮設住宅を建設すれば済む話かもしれないが、それよりも頻度の高い、短期の災害にも備えた、真の良好な避難所のあり方を国や自治体は真剣に考えていくべき時期が来たのだと感じた。

    また、本書では、サブタイトルにあるように、自然災害のほか、国防、感染症についても話が及ぶ。特に国防については、中国の国防動員法の危うさが勉強になった。果たして、我が国は、国防を強化する近隣諸国に対して、守ることができるのだろうかと不安になった。

    本書では、1854年の安政南海地震のとき、今の和歌山県で村の高台に住む濱口梧陵(はまぐちごりょう)は、海の遠方に見える津波の来襲に気づく。そして、村人たちに危険を知らせるため、自分の田にある刈り取ったばかりの稲の束(稲むら)に松明(たいまつ)で火を付けた。火事と見て、消火のために高台に集まった村人たちの眼下で、津波は猛威を振るう。この実話は、「稲むらの火」として有名である。本書の著者である濱口和久氏は、最終章においても濱口梧陵について触れており、その功績をたたえている。

    濱口梧陵は、「稲村の火」にまつわるエピソードのみならず、ヤマサ醤油7代目当主ということもあってか、私財をなげうって堤防建設を行ったり、村の存亡をかけた救済策(人口流出対策、緊急雇用対策など)をしたりしている。そして、オールハザード型(自然現象や感染症、自己、紛争などすべてを含む概念)防災の先駆者として活躍された。

    本書では、濱口梧陵が著した「支那経営論」についても紹介されている、平常時には、得意の地理学を活かし、あらゆるリスクに備え、そして先見性のある分析をして、その後の日本の行く末を分析していた。

    いま、国や各自治体を始め、自主防災組織などの地域においても、濱口梧陵のような共助の精神を持ち、あらゆるリスクを予見し、我が国の進むべき道を示し、行動し続けた、オールハザード型のリーダーが求められていると感じた。

    冒頭では、防災の4つの「災」。つまり、著者の濱口氏による防災・減災・知災(災害を知る)・備災(災害に備える)の言葉を引用した。この4つの「災」は、リスク大国日本に住む私たちに必要な「災」である。私たちヒトは、自然の脅威や感染症の発生を抑えることができない。しかし、これらのリスクに日頃から知って備えることで、リスクを減らすことができる。本書を読み終え、このリスクを減らすことは、私たち日本人の使命なのかもしれないということに、思い至った。

  • 1章 国難級の災害と隣り合わせの日本
    第2章 災害の歴史から学ぶ行動原理
    第3章 ハザードマップは万全か
    第4章 地域防災力に不可欠な消防団
    第5章 自衛隊の災害派遣のあり方を問う
    第6章 新型コロナウイルスの最大の教訓
    第7章 政府・自治体の危機管理体制の現状
    第8章 「緊急事態」を想定しない日本国憲法
    第9章 中国の「国防動員法」の危険度
    第10章 やられっぱなしの領土問題
    第11章 日本に不可欠な「民間防衛」
    第12章 病院船は無駄なコストか
    第13章 オールハザード型危機管理の先駆者・濱口梧陵

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著者プロフィール

拓殖大学大学院地方政治行政研究科特任教授・防災教育研究センター長。
昭和43年熊本県菊池市生まれ。防衛大学校材料物性工学科卒、日本大学大学院総合社会情報研究科修士課程修了(国際情報修士)。
防衛庁陸上自衛隊、元首相秘書、日本政策研究センター研究員、栃木市首席政策監(防災・危機管理担当兼務)などを経て現職。
一般財団法人防災教育推進協会常務理事・事務局長、ニューレジリエンスフォーラム事務局長、共同PR総合研究所客員研究員、政策研究フォーラム理事。
著書に『だれが日本の領土を守るのか?』(たちばな出版)、『日本の命運 歴史に学ぶ40の危機管理』(育鵬社)、『戦国の城と59人の姫たち』(並木書房)、共著に『日本版 民間防衛』(青林堂)などがある。

「2022年 『リスク大国日本 国防 感染症 災害』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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