- Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
- / ISBN・EAN: 9784907497040
作品紹介・あらすじ
●「早春スケッチブック」(TV放送 1983年1月7日〜3月25日 フジテレビ系列) 「お前らは、骨の髄まで、ありきたりだ」
感想・レビュー・書評
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山田太一、逝く。彼のドラマは自分の心が柔らかかった時代に強いトラウマとして刺さっています。でも「早春スケッチブック」は見てないのです。実家を離れ暮らしの中でテレビドラマを見るという習慣から離れた頃…だったからかも。追悼の気持ちでこのシナリオ読みました。なんだ、この熱さは。なんだ、この強さは。読んでいる満員電車の中で心拍数が上がりました。今、コンプライアンスとか気にしていなかった時代のタイムスリップドラマが大人気ですが、それとは違う懐かしさとそして現代性に揺さぶられました。この時代を超えた普遍性は「いつか自分自身を、もはや軽蔑することの出来ないような、最も軽蔑すべき人間の時代が来るだろう」ー(『ツァラトゥストラかく語りき』)という山田太一を支えた言葉から生まれているのでしょう。その言葉がそのままシナリオになっています。きっとドラマも凄かったのだと思いますが、著者の前書き「一ワットの魂を持ち寄って」を読めたことは本で山田太一に触れたご褒美かも知れません。1983年に吐き出された「お前らは、骨の髄まで、ありきたりだ」というセリフに2024年早春、殴られました。
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「お前らは、骨の髄まで、ありきたりだ」
望月和彦の血縁上の父親である沢田竜彦は、傲慢で嫌みったらしくてありきたりを良しとしない。死期の迫った竜彦のほとばしる感情の言霊は、安穏とした望月家を揺さぶり続ける。「ありふれた家族」であることを最優先にしてきた一家は、あわや崩壊するかに見えたが、ある思いがけない行動により...。
怒りや嫉妬って生きる原動力だなぁ。そして生きていくことは、恥ずかしいことの連続なんだ。シナリオを読んでいて、時々声に出して笑ってしまいました。人と人が真正面にぶつかってもがき苦しむ様って、傍から見たらこんなにコメディなのかと。だったら無様で情けないことも多いけど、それが生きていくということなら、開き直るしかないんじゃないのか?
この時代の作家たちはドラマの中で、いい意味でも悪い意味でも変わっていくことを恐れない。それこそがドラマの神髄であって、そこに生きていく美しさがあるんだと改めて思いました。現在の脚本家や演出家は己の世界観を恐れずに描くべきだと思う。ブレるから、炎上しちゃうんじゃないかな?