残響のハーレム: ストリートに生きるムスリムたちの声

著者 :
  • 共和国
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  • Amazon.co.jp ・本 (465ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784907986155

作品紹介・あらすじ

9.11直後のニューヨーク、その最深部に低く響くさけび、そしてうめき。

2002 年晩秋、フィールドワークに訪れたNY・ハーレム地区で僕が出会ったのは、マルコム・X 暗殺の容疑者だった……。差別や貧困、暴力が根強く残る都市の日常をみずみずしい文体で活写した、気鋭の人類学者によるエスノグラフィ。

感想・レビュー・書評

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  • 著者の冷静な筆致の中に、ひんやりとした熱情が冷気を漂わせながら燻っている。

    マルコムX暗殺の容疑者とされてきた男、カリル。彼は冤罪としか言いようのない仕打ちを受けていた。アフリカン・アメリカンの彼らが、政府や警察から受けてきた暴力的介入。それを示すことも当然ながら一つの研究となるだろう。だが、著者が本書で試みようとすることは違う。言葉を借りよう。

    「僕はその〔ハーレムに生きたアフリカン・アメリカン達の〕頭の中を知りたかったのだった。仮に誤解や間違いを含み、偏見に凝り固まっていたとしても、じっさいに生きられている歴史を知りたいと思った。記録されなかった記憶を語る言葉に耳を傾けたいと思った。誰もがアクセス可能な資料など、なにも僕が読まなくてもよいのではないかとさえ思った。記録に残らないもの、はかなく消えていくもの、忘れ去られてゆくもの、そういうものに強く惹かれていた。マルコム・Xについての書籍は、今後も書かれ続けるだろう。しかし、カリルのことを誰が書くのだろうか...」(pp.87-88)

    著者はあらゆる暴力への怒りと抵抗を、「書く」ことで成し遂げようと試みている。著者は、ある種の好ましくない力を、すべて暴力という言葉で規定することも一つの暴力なのだと知っている。それでも、安易な一般化をせずに暴力を示し、語り、書くことを試みる。

    たとえばこうだ。知人が貧困故に死んだ。そのを、著者はこう語る。彼の貧困は、もろもろの社会的な力がそうさせるのだと。
    「出身地に暮らすという単純な願いをかなわなくさせる力、肉体と精神を含む身体の健康上の問題を若い頃から抱えざるを得なくさせる力、そうした(暴)力を明るみに出し、法廷でその罪と責任とを問うことは、多くの場合、難しい。だが、法的には裁ききれない問題に踏み込むことを人類学がやめたら、いったい誰がやるのだろうか。すでに認められた文法以外で問題を描くことを人文・社会学者がやめ、政治家や法曹やビジネスマンと同様にふるまいはじめたら、いったいなんのための学問なのだろうか」(p.406)。

    この鮮烈な怒りと問題提起を、自分のうちにも共有しておきたい。

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著者プロフィール

多摩美術大学准教授。一橋大学大学院社会学研究科・地球社会研究専攻博士後期課程修了。博士(社会学)。専門は文化人類学で、「周縁」における暴力や社会的痛苦、差別と同化のメカニズム、コミュニケーションなどのテーマに取り組む一方、「人間学工房」を通じてさまざまなジャンルのつくり手たちと文化運動を展開する。訳書に、『アップタウン・キッズ――ニューヨーク・ハーレムの公営団地とストリート文化』(大月書店、2010年)がある。

「2015年 『残響のハーレム』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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