- Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
- / ISBN・EAN: 9784909125347
作品紹介・あらすじ
クトゥルー神話ファン待望!
怪奇と幻想の豪華短編集
英国南西部、セヴァン・ヴァレーを覆う影——H・P・ラヴクラフトの死から四半世紀を経て、アーカムハウスより鮮烈なデビューを飾ったラムジー・キャンベルの、ラヴクラフトの影響の色濃い初期作品を中心に編まれた珠玉のクトゥルー神話作品集がついに邦訳。湖に棲みつく星界よりの怪物が告げる黙示の数々が、今ここに明かされる。全21編のうち、第1巻には「ハイ・ストリートの教会」「湖の住人」「ムーン・レンズ」など11編を収録。
感想・レビュー・書評
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クトゥルフ神話の啓蒙に努めたダーレスに才能を見出された作家ラムジー・キャンベル。ダーレスの指導により、彼は生まれ育ったイギリスに、ラヴクラフトのように架空の都市を作り上げ、そこを舞台に様々なクトゥルフ神話作品を創作した。本書はキャンベルの初期クトゥルフ神話作品集である『Cold Print』の完全邦訳版である。各作品の邦訳はこれまでも出ていたが完全邦訳は初であり、これは、これまで一品料理でしか味わえなかったものを、初めてコース料理で味わえるようなものだ。
前半である本書には、全21篇の内11篇を収録している。
以下、なるべくネタバレ無しの各話感想。
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『ハイ・ストリートの教会』
友人を頼ってテンプヒルを訪れた私。しかし彼が住んでいるはずの屋敷には誰もいないようだった。そこで私は、友人の消息を知っていると思われる向かいの住人に話を聞いてみることにする。はたして、彼が口にしたのは、中央広場の近くにある教会のことだった――。
(警告を無視したことによる「出口なし」の恐怖を描いている。TRPGでは本作を元に「墓に群れるもの」というクリーチャーが創作された。)
『城の部屋』
友人の依頼で史料集めをしていたわたしは、その途中で友人が住む地にまつわる森に棲む魔物の話を目にする。好奇心からわたしは、その魔物を喚び出した魔術師が住んでいたという城の廃墟を訪れてみることに――。
(ブロックが自作で名前だけ登場させた神格バイアティスを、外見的特徴や設定を肉付けして登場させている。退治する方法が現代的で時代を感じさせる。)
『橋の恐怖』
湖畔にあるクロットンという街で、1931年に起きた怪事件の顛末を綴った手記が発見される。その事件は、1800年にある人物が越してきたことから始まった――。
(一読するとダーレスの『恐怖の巣食う橋』を彷彿とさせるが、これは二人共にラヴクラフトの備忘録を基に創作したからで、キャンベルはそこに『ダニッチの怪』の要素も取り入れている。TRPGでは本作を元に「淵みに棲むもの」というクリーチャーが創作された。)
『昆虫族、シャッガイより来たる』
私は酔った勢いから、妖しい伝承が噂されるゴーツウッドの森の探索をすることになってしまう。そこで木に似た怪物に追われた私は、金属の円錐体が聳え立つ空き地に辿り着く。はたして、その円錐体から現れたのは――。
(『妖虫』という別題がある、キャンベル版『闇に囁くもの』といった趣のSFホラー。これを読むと、時々起きる正気を疑うような事件の遠因はこいつらではないか、とつい思ってしまうかもしれない。)
『ヴェールを剥ぎ取るもの』
我々は本当にありのままを見ているのだろうかということを疑問に思っていたケヴィンは、タクシーで相乗りになったヘンリーから、事象を客観的に見る方法を知っていることを匂わせる発言を聞いて興味を覚え、彼の住まいまで同伴することにする。ヘンリーはある外なる神を召喚することで望みが叶うと言い、二人はその儀式を始めることに――。
(真実を求めて外なる神を召喚した結果、バッドエンドを迎える話。神が見せる本質のイメージだが、作中にもあるダリやボスの絵画が参考になるだろう。最後に登場する怪物は、TRPGでは「夢の結晶器の守護者」という解釈もされている。)
『湖の住人』
創作のひらめきを求めて、湖のほとりにある家に移り住んだトーマス。やがて悪夢に魘されるようになった彼は、原因を明かすために家の周囲や家が建てられた経緯を調べると、あるカルトの存在が浮かび上がってきて――。
(創作に悩む作家が曰く付きの物件に移住する話はクトゥルフ神話においては定番だが、後半の勢いのついた展開は目新しく、映像化しやすい作品と感じた。)
『奏音領域』
道に迷った先で、音源が見当たらないにも関わらず、様々な音が奏でられる平原にたどり着いた大学生たち。視界の先にあった小屋を探索すると、住人のものらしき日記と大型のテレビのような機械を発見する。はたして、ここで何が行われていたのか――。
(『異次元通信機』という別題がある、奇妙な通信機を通して行われる、悍ましい異界との接触を描いた作品。前半に感じられる不気味ながらも幻想的な美しさが、後半の悍ましい現実をより際立たせる。)
『魔女の帰還』
創作のひらめきを求めて、かつて魔女が住んでいたとされる屋敷に移り住んだノーマン。彼が二階の開かずの間を開けた時、何かが始まった――。
(クトゥルフ神話においては定番の妖術師もの。読みようによってはコメディに感じるかもしれない。)
『ユゴスの坑』
オカルティストのテイラーは不老不死を求めて資料を漁り、とある異星にある金属が必要なことと、その異星に行く扉が近くにあることを知る。はたして、その扉をくぐった先にあったのは――。
(『暗黒星の陥穽』という別題があるSFホラー。傲慢さ故にわざわざ深淵まで赴き、わざわざ深淵を覗くまでの過程はいっそ清々しいまである。)
『スタンリー・ブルックの遺志』
病に侵されたスタンリーは死の間際、弁護士のボンドに遺言状の再作成を依頼する。それは、指定した相続人に全ての遺産を相続させるという内容だった。やがて現れたその相続人の容姿は、生前のスタンリーと瓜二つで――。
(術を行使する描写はないが、妖術師ものに分類されるであろう掌編。森瀬繚氏は解説で、作中に登場する存在はTRPGの「這うもの」をイメージさせると指摘しているが、私にはそれに「歩く妖蛆」のイメージも感じられる。)
『ムーン=レンズ』
安楽死肯定派の医師の元を突然に男が訪れ、安楽死を所望する。肯定しているだけで積極的に処置する気はない医師が理由を尋ねると、男はゴーツウッドでの悍ましい体験を語り始めた――。
(渓谷にある村で密かに祀られる、外なる神の贄にされた男の恐怖を描いた作品。これまで濁されてきた神の外見上の特徴が今作では描写されるが、化身の一つと考えれば、創作するに当たってこの描写に固執する必要はないだろう。)