- Amazon.co.jp ・本 (176ページ)
- / ISBN・EAN: 9784909394996
作品紹介・あらすじ
あの介護の日々は、母から私への教育だった――。
『絶対音感』『星新一』など傑作ノンフィクションの書き手であり、新聞の人生案内も人気な著者の、半生にじみ溢れる名エッセイ集。珠玉の47本。
最相葉月デビュー30周年記念企画
●本文より
「約三十年、介護とそれに伴う諸問題で心身共に限界だった時期もあるが、不思議なことに最近は、母が身をもって私を鍛えてくれていると思えるようになった。いざとなっても人工呼吸器や胃ろうはせず、自然に任せようと思っている。覚悟はあるのか、私。」(p26「母の最終講義が始まった」より)
「ああもう限界。酸素不足の水槽で口をパクパクさせる金魚のようになったら、一刻も早く東京に戻らねばならない。人に会い、原稿を書き、心を立て直す。その繰り返しである。交通費は、心身を健康に保つための必要経費と考えるようにした。」(p6「『余命』という名の時間」より)
「ひかえめだけど芯の強い自分と、出しゃばりだけど脆い自分は、一人の人間の中に共存している。仕事や家庭でさまざまな困難に向き合い、へこんだり笑ったりする時間を積み重ねるうちに鍛えられていく。」(p40「揺るがぬ岩より高野豆腐」)
感想・レビュー・書評
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最相葉月(1963年~)氏は、関西学院大学法学部卒、広告会社、出版社、PR誌編集事務所勤務を経て、フリーのノンフィクションライター。『絶対音感』で小学館ノンフィクション大賞(1998年)、『星新一 一〇〇一話をつくった人』で講談社ノンフィクション賞(2007年)を受賞。そのほか、大佛次郎賞、日本SF大賞等を受賞。
本書は、2010年以降(大半は2015年以降)に、南日本新聞、山陽新聞、日経新聞等の新聞及び雑誌に掲載されたエッセイをまとめ、2024年に出版されたものである。
私は、十年ほど前に、エッセイ集『なんといふ空』(PHP研究所発行の増補復刊版)を読んで以来の最相さんのファンで、その後も、『れるられる』や、ノンフィクションの『絶対音感』、『東京大学応援部物語』、『セラピスト』、『青いバラ』等を読んできた。(最新刊の『証し』は、あまりの大部ゆえに二の足を踏んでいるが)
また、私は元来、小説よりもノンフィクションやエッセイが好きで、支持する書き手は、沢木耕太郎、藤原新也、佐々涼子など、いわゆるノンフィクション作家ばかりなのだが、その中で、最相さんに惹かれるところは、その感性と徹底した取材スタイルである。
(失礼を覚悟の上で言わせていただくと)最相さんは、シャイで、朴訥で、不器用な方ではないかと想像するが、それ故に取材相手の気持ちを聞き出せるというようなこともあるのではないかと思う。本書にある、北海道の公共交通機関のない所で、車で往復1時間かかる取材先に、自転車!(最相さんは車の運転をしないのだそう)で向かおうとしたところ、取材相手から、クマに襲われる可能性があるから止めて欲しいと言われたというエピソードなどは、最相さんの人となりを端的に表すものと言えるだろう。
尚、本書の書名である『母の最終講義』というのは、50代前半で脳出血で倒れ、認知症となった母親を、30年に亘り介護しながら(その間、がんで声を失い、流動食生活を送るようになった父親の介護も、10年ほどあった)、仕事を続けてきた最相さんが、母親の症状が進行するにつれて、「今、私の心境は大きく変化しつつある。この日々は母が私に与えた最後の教育ではないかと思うようになっているのだ。」と感じるようになったということから付けられており、本書に通底するテーマとなっている。
また、大半のエッセイの初出は新聞なので、東日本大震災、はやぶさ2、ヤングケアラー、コロナ禍等の時事テーマに関わるものもあれば、最相さんが手掛けたノンフィクション作品に関わるエピソードも含まれている。
私は最相さんと同い年で、当然ながら、環境は全く異なるのだが、多くの点で共感を覚えたし、また、いくつもの気付きを得ることができた。
(2024年2月了) -
ベテラン・ノンフィクション作家のエッセイ集。
柱となるのは亡き両親の思い出、特に母親への介護の日々だ。50代の若さで認知症を発症した母への介護は30年に及び、それは著者の作家歴にほぼ等しいという。
珠玉の文章が多い、
タイトルは、介護が続くうち、《母が身をもって私を鍛えてくれていると思えるようになった》こと――つまりそれ自体が長い「最終講義」だと感じたことに由来している。
ただし、内容は多岐にわたり、介護の話ばかりが続くわけではない。ノンフィクション取材の舞台裏を綴った文章にも、よいものが多い。
私は日々のよしなし事を綴った軽エッセイも好きだが、本書はずしりと重い内容のエッセイが多い。介護や両親の死、さらにはコロナ禍と、重いテーマを扱った文章が多いという事情にもよるだろう。
物事の本質を衝く、ハッとする一節も随所にある。
読み流せない重厚さを湛えた、第一級のエッセイ集である。 -
あとがきがグッとくる。
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ノンフィクション作家らしい重みのあるエッセイ。近い将来、自分も関わるであろう介護について考えさせられた。自分が介護される立場も想定しながら、少しでも前向きに思えるよう今から心の準備しよう。
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背ラベル:914.6-サ
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介護など
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母の最終講義が始まった。
介護技術を家庭や施設内に閉じ込めず公的財産にする。
悩みを分かち合えるだけでも少しは気が晴れる。 -
20代の頃からのご両親の病気や介護のことに関するエッセイと
ノンフィクション作家としての半生のエッセイが入っている。
『星新一1001話を作った人』の作者である最相さんだが、私はこの本に出会うまで、そういう本のことも全く知らなかった。
競輪の予想屋さんとの話が一番好きだった。