新装完全版 大国政治の悲劇

制作 : 杉原 修 
  • 五月書房新社
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感想 : 8
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  • Amazon.co.jp ・本 (672ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784909542175

作品紹介・あらすじ

好評につき、装い新たに完全復刊!
“リアル・ポリティクスの国際標準"

今、最も注目すべき国際政治学者ミアシャイマーの主著。
原著オリジナル版に書き下ろし「日本語版に寄せて」を加え、
2014年改訂版ヴァージョンの最終章「中国は平和的に台頭できるか?」も収載。
さらに、従来版で割愛されていた注釈や表の出典などもすべて訳出掲載した『完全版』、ついに刊行!
訳者奥山真司による解説も充実。

米中の衝突を確実視し、世界各国の外交戦略を揺るがす、“攻撃的現実主義(オフェンシヴ・リアリズム)"とは!?
過去200年間の世界史的事実の検証から、きわめて明晰、冷徹、論理的に国際システムの構造を分析、北東アジアの危機と日本の運命も的確に予測する。

ミアシャイマーによる北東アジアの将来の見通しはあまり華やかなものではなく、むしろ彼自身が認めているように「悲劇的」なのだ。そしてこの「悲劇」は、モーゲンソーの言うような「人間の愚かさ」にあるのではなく、国際社会(国際システム)の構造による、人間の意志ではコントロールできないところで引き起こされるものだ。......本書のタイトルが『大国政治の“悲劇"』である理由は、まさにここにある。(「訳者解説」より)


《内容紹介》
■改訂版のまえがき / 日本語版に寄せて
■はじめに
■第1章〈イントロダクション〉
(オフェンシヴ・リアリズム(攻撃的現実主義) / リベラリズム 対 リアリズム / リベラルなアメリカにおける権力政治(パワー・ポリティクス))
■第2章〈アナーキーとパワーをめぐる争い〉
(国家はなぜパワーを求めるのか / 覇権の限界 / パワーと恐怖 / 国家目標の優先順位 / 世界秩序の創造 / 国家間の協力)
■第3章〈富とパワー〉
(パワーの物質的な基盤 / 人口と富:軍事力の根源 / 軍事力の経済的基礎 / 軍事的潜在力と軍事力のギャップ)
■第4章〈ランドパワーの優位〉
(征服 対 強制 / 独立シーパワーの限界 / 戦略エアーパワーの限界 / 陸軍の圧倒的な影響力 / 水の制止力 / 核兵器とバランス・オブ・パワー / 軍事力の計測の仕方)
■第5章〈生き残りのための戦略〉
(実践的な国家の目標 / パワー獲得のための戦略 / 侵略国を抑止するための戦略 / 避けるべき戦略 / リアリスト的な理由によるパワーの譲歩)
■第6章〈大国の実際の行動〉
(日本 1868〜1945年 / ドイツ 1862〜1945年 / ソヴィエト連邦 1917〜91年 / イタリア 1861〜1943年 / 自滅的な行動? / 核武装競争)
■第7章〈イギリスとアメリカ:オフショア・バランサー〉
(アメリカのパワーの勃興 1800〜1900年 / アメリカとヨーロッパ 1900〜90年 / アメリカと北東アジア1900〜90年 / イギリスのグランドストラテジー 1792〜1999年)
■第8章〈バランシング 対 バック・パッシング〉
(どのような時に国家はバック・パッシングをするのか / 革命・ナポレオン時代のフランス 1789〜1815年 / ビスマルク時代のプロイセン 1862〜70年 / ヴィルヘルム皇帝時代のドイツ 1890〜1914年 / ナチス・ドイツ 1933〜41年 / 冷戦 1945〜90年)
■第9章〈大国間戦争の原因〉
(構造(structure)と戦争 /「二極システム」対「多極システム」/「安定した多極システム」対「不安定な多極システム」/ 近代ヨーロッパの大国間戦争 1792〜1990年 / 分析と結論)
■第10章〈中国は平和的に台頭できるか?〉
(オフェンシヴ・リアリズムのまとめ / アメリカの覇権の追求 / サムおじさんの後を追って / 来るべきバランシング同盟 / 戦争は起こるか? / 平和的台頭の希望)
■原注
■訳者解説とあとがき

感想・レビュー・書評

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  • 国際関係のアナーキー性に着目し国家間の競争に焦点を当てて分析する「リアリズム」の立場に立つ本書。著者は、自説を「オフェンシヴ・リアリズム」と称し、大国がパワーを求めることを前提にその理論を展開する。その理論では国家がパワーを求めるのは生来備わった性質ではなく、アナーキーな国際システムによる構造的なものだとする。そのシステムの下で大国の目標は自国の生存を脅かす脅威を取り除いた地域覇権国になることであり、近代以降にこの目標を唯一達成した国はアメリカ合衆国だけであるとする。
    本書の一番の読みどころは、最終章の中国の台頭に関する分析だろう。それまでに近代以降の欧州、米国、日本に対して用いてきた分析枠組みを中国に対して適用し、米中間の対立を鮮やかに分析している。ただ、その結果、「オフェンシヴ・リアリズム」の理論に従えば、米中の競争・衝突は避けなれないという身も蓋もない結論が導かれてしまう。
    最終章手前までの著者の議論は、歴史の事実に強引に自説を当てはめているような印象もあったが、中国の台頭に対する米国や周辺国の反応が著者の理論に沿った動きを示していたことから、一気に説明力が高いもののように感じた。私自身は米中対立はそうは言ってもどこかでエスカレーションが止まり手打ちになる、あるいは世界のために手を取り合うことができるという考えだったが、本書を読むことで悲観的な見方に傾きつつある。もう少し別の視点の著作を読むなどして自身の考えを整理していきたい。

  • 3
    執筆にとりかかったのは1991年末
    ソ連が崩壊した直後
    終えたのは、ほぼ10年後だった

    冷戦の終わりは、大国間戦争が存在せず、バランス・オブ・パワーのような概念が意味を失う新しい時代の始まりだと広く信じられていたから

    リアリズムは世界の動きについて、今後も重要な示唆を与え続けるものであることを論じた。

    ただし私は、本書の大部分を、ハンス・モーゲンソーやケネス・ウォルツのような著名なリアリストたちの議論とは大きく異る、独自の国際政治の理論を提唱することに費やした。

    4
    アメリカがアフガニスタンだけでなく、イラクにおいて負け戦にはまってしまったことが明らかになって

    アメリカの「テロとの戦争」に終わりが見えないことが段々と明らかになってきた。

    アメリカが
    25年前の冷戦終了から、6つの
    戦争を戦っている
    1 イラク 1991年
    2 ボスニアをめぐるセルビアとの戦い 1995年
    3 コソボをめぐるセルビアとの戦い 1999年
    4 アフガニスタン 2001年~現在
    5 イラク 2003年~
    6 リビア 2011年

    米軍は1989年から、3分の2の期間は戦争をしている。
    これらの戦争はすべて小国に対して行われたものであった。

    ビュー研究所の意識調査によれば
    39カ国中の23カ国の過半数や多数派の人々が、中国は超大国として、すでにアメリカを追い抜いた、もしくは最終的に追い抜くだろうと答えている

    アメリカでも 47%の人々が
    中国がナンバーワンになりつつある、と答えており
    同じく、47%がその反対の回答をしている。

    5
    中国が台頭を続ければ、アメリカが西半球で行ったように、アジアを支配しようとするだろう。
    地域覇権国家になることが生き残りの確立を最大化するうえで最適な方法だからだ

    6
    本書は、初版からほとんど何も書き換えていない
    自分の理論であるオフェンシヴ・リアリズムについての考えを変えていない

    中国の台頭は平和的なものだろうか?
    私の答えは「ノー」である。

    19
    20世紀は、国際的に、暴力の時代であった。

    第1次世界対戦1914-1918 約900万人がヨーロッパの洗浄で死んだ
    第2次世界対戦1939-1945 約5000万人が死んだ
                  その半分以上は、一般市民であった。

    第2次世界対戦が終わったとたん、全世界が冷戦に飲み込まれた。

    21
    私が「攻撃的現実主義 Offensive Realism」と名付けた理論は
    本質的には
    現実主義 Realism と呼ばれるものである。

    E・H・カー
    ハンス・モーゲンソー
    ケネス・ウォルツ

    などのリアリストの思想家たちの伝統に沿ったものだ。

    大国は、セカイ権力の分け前を常に最大化しようと行動する
    中でも特に強力な大国を含む多極システムでは、戦争の起こる傾向が強まる

    31
    フランシス・フクヤマの言葉を借りれば
    冷戦の集結は「歴史の終わり」をもたらした、ということになる。

    アメリカは
    ソ連の驚異が消滅した後でも、ヨーロッパに10万人、北東アジアにもほぼ同じくらいの規模の軍隊を引き続き維持している。

    もし米軍が撤退すれば、大国の間で危険な高層が起こるだろうと見越しているからだ。

    32
    台湾をめぐるアメリカと中国の衝突の可能性もなくなったとは言い切れない。

    35
    多極システム multipolar systems の場合には
    二極システム bipolar systems の場合よりも戦争が起こりやすい

    覇権国となる可能性を持つ強力な国家、潜在覇権国家 potential hegemons を一つだけ含む「多極システム」こそが、実は一番危険な国際システムである

    38
    社会科学の理論は「現実の世界」で怒っていることとは関係がなく
    ボケた学者たちの暇な推測だ、と思われることが多い

    45
    リベラリズム 対 リアリズム

    20世紀に書かれた最も影響力の大きいリアリストの3つの代表作

    1 E・h・カー 『危機の20年 1919-1939』1939
    2 ハンス・モーゲンソー 『国際政治』1948
    3 ケネス・ウォルツ 『国際政治の理論』1979

    46
    カーとウォルツは、経済による相互依存関係が平和実現の可能性を高めるというリベラリズムの主張を批判している。

    カーとモーゲンソーは、リベラリズムが国際政治に関して大災害を引き起こす可能性のあるユートピア的な視点を持っていることをくり返し批判している

    ウォルツは
    多極システムが、二極システムよりも安定しているというモーゲンソーの意見に対して意義を唱え
    モーゲンソーが
    「国家がパワーを求めるのは、国家にはそもそもパワーを求める欲望が本質的に備わっているからだ」と論じているのに対し
    ウォルツは
    『国家は国際システムの構造による働きのために、自国の存在の確立を上げていこうとしてパワーを求める」と論じている。

    リベラリズムと、リアリストの違い

  •  「フルコースのディナーをワインとともにガッツリいただきました」という読後感です。辞書並みに分厚い本で、読むのを躊躇しましたが、この「新装完全版」には「中国は平和的に台頭できるか?」が追記されているとのことで、思い切って挑戦。発行年は、2019年ですが、歴史を振り返りつつ(日本についても詳述)、いまにも通じる内容です。

     「オフェンシィブ・リアリズム」を主張される著者の要点は、おおよそ以下の3点。①国家を超えて全世界の安全を守る中心的な権威がなく、②どの国もある程度の攻撃的な軍事力を持ち、③国家同士は夫々が何を考え何をしようとしているかを完全に把握できない、なかでは、大国は生き残りのために覇権を求めるというもの。そのため、大国の防御的な対応は、もう一方の大国からは攻撃的と映り、偶発的に紛争に至りかねないと説いています。

     最終章の中国の部分では、この25年間で、過去の中華思想から「列強に支配された『恥辱の世紀』を経験した」と認識を変え、その恥辱を晴らすことが重要目標の一つとなり、「もし中国が劇的な経済成長を今後の数十年間続けられれば、アメリカや周辺国との激しい安全保障競争を展開するようになる」と推論しています。中国も少子高齢化・人口減少などで、今後「劇的な経済成長」を図れるかは怪しくなりつつありますが、(著者も書いているように)この推論が外れることを期待したいところです。

  • 安全保障が単純な経済力で決まるわけでもないことや、倫理的、政治的な正しさに基づくわけでもないリアルを示しており、非常に示唆に富む。なぜ侵略する大国が存在するのかを、過去の歴史や地政学的な合理性から分かりやすく示してくれている。

  • 東2法経図・6F開架:319A/Me11t//K

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/747973

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