団地のふたり

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  • Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784910207322

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  • 団地版50代の八月の鯨かな。

  • 団地のふたり

    著者:藤野千夜
    発行:2022年3月31日
    U-NEXT
    初出:電子書籍2022年3月1日(書き下ろし)

    随分、プロから評判のいい小説。この人(「夏の約束」で芥川賞)の小説は読んだ記憶がない。僕好みの楽しく面白い小説だった。それと北澤平祐氏の画が最高。毎日新聞でこの前まで連載していた「水車小屋のネネ」(津村記久子著)でも、味のある画を毎日楽しませてくれた。こういう日常の営みをごくごく大人しく表していく小説には、まさにぴったりの人選かと。

    人生には大きめの節目があり、さらには一生に1回か2回あるかないかという〝大事件〟もあったりする。以前の小説はそんなトピックを描くのが主流だったように思う。でも、なんでもない日常生活においても、小さな山や谷は起きている。当人にすると、それは結構大きな出来事のようにも感じるし、それなりに深刻な思いをしたりもする。それでも、例えば夫婦なら、総体的、相対的に言えば、仲のいい夫婦ということになる。

    昭和30年代半ばに出来た古い団地。建て替えの計画はあるが諸事情でストップしている。主人公の奈津子は、同じ団地に住むノエチ(野枝)と親友だ。かつて団地内にあった保育園に通い、それ以後もずっと一緒だった。保育園には空ちゃんという仲良しがいたが、彼女は小学生の時に死んでしまった。命日にはまだ団地内に住み続ける空ちゃんの母親を訪ねて昔話に花を咲かせる。主人公たちは50歳。

    主人公の奈津子は母親と二人暮らしだが、70歳の母親は親族の介護で1年以上、不在にしているので実質的に一人暮らし。ノエチは両親と住み続けている。彼女は大学院を出て学者の道を歩もうとしていたが、大学で職が得られず、やっと決まりかけたときに不倫を疑われて追い出され、今は別の大学で非常勤の職についている。ただし、人間関係にうんざりして足取りは重い。

    主人公はイラストを描く仕事をしていて、一時はたくさん仕事があったが、今は年に何回かという程度。不要品をネットオークションで処分したお金、団地の人から頼まれた不要品のオークションでの処分(送料を引いた儲けを折半)、団地の人たちに頼まれたおつかいなどで生活費を補っている。一時は家を出て一人暮らしをしていたが、何らかの事情で戻ってきている。20代の頃はまだぎりぎり電車に乗れた、とか、車にも気分が悪くなるからほとんど乗れないというようなことが書かれているので、何らかの体調不良で戻ってきたのかもしれない。

    2人は、毎日のように会う。主にノエチがやってくる。こたつに入ったりして、話をしたり、断捨離のテレビを見たりして過ごす。あるとき、ノエチの家に行き、彼女の兄の〝宝物〟から大量のギターの楽譜を見つける。ノエチの兄は20年以上前に結婚して出て行っているが、荷物をそのまま残している。そのなかから見繕って、ノエチは奈津子にオークションで売ってもらっている。楽譜を売ることにした。

    楽譜は予想外の値段で売れ始めた。しかし、ちっとも売れないものもある。値段を下げ始めると売れたが、期限ギリギリで値下げ前の値段をつけてくる人も現れた。もうなくなるかもと思うと欲しくなるのだろうか、と2人は分析をするが、よく分からない。最後まで売れ残ったサイモンとガーファンクルの楽譜。それもついに売れた。こんどは自分たちが寂しくなり、惜しくなるのではと心配していたが・・・そうでもなかったようだ。

    団地の中は高齢者が中心、しかも男性は少ない。おばちゃんたちは、奈津子を見かけると話しかけて相談をしてくる。あるとき、網戸が破れたけどどうしようと相談される。様子を見に行くと、成り行きで奈津子が張り替えるはめになった。ノエチと2人でなんとかやってみる。出来た。時給1000円ずつをもらう。さらに、ピザを取るから食べようと誘われる。3人で食べて、楽しく話して帰る。

    後日、別のおばちゃんから、うちの網戸も張り替えて欲しいと相談される。筋肉痛がひどかったのでもう二度としないと2人で誓い合っていたので断ったが、断り切れずにやるはめに。前回より短時間でできた。なにも言わないのに時給とピザがついてきた。そして、その後も別の2人から依頼が。いつのまにか、時給とピザでやってくれるという話になっていた。

    2人がちょっと喧嘩する場面もある。しかし、仲直りも自然に。とくに謝ることもなく、予想したとおりに元通りになっていく。正月は奈津子の部屋でこたつに入り、デパ地下とスーパーで夕方に安売りをしていたカニや料理を食べながら迎える。そして、奈津子は今年の目標も書く。同じことの繰り返しだが、今年こそはという細やかな思いもある。

    本日(1月1日)のオークションの売上 未定
    本日(1月1日)のお買い物 未定
    そんな下りで小説は終わる。
    さすがのテクニックを持った小説家だと思う。うまくて、素敵な小説。

  • 特に事件の起こらない淡々とした日常。
    主人公とノエチのゆるやかな友情が心地よい。

    とはいうものの、コロナ禍を舞台にしているのに頻繁に人と密に会い過ぎな気がして、話に深く関わらないならコロナ前か収束後にしてくれたら良かったのにと引っかかる。
    2021年が舞台なら今よりもっと三密を避けることにみんなピリピリしていた気がするのに、ここだけユートピアみたいで奇妙に思う。

  • 淡々としているけど平和

  • のほほんとしてる。
    特別何か起きる訳じゃないけど、微笑ましくて良い。
    二人の関係に少し憧れてしまう。

  • 顔見知りの人々や幼なじみ(ノエチ)がいる団地に戻ってきた奈津子。賑やかな団地仲間に囲まれて、自由気儘な一人暮らしの生活に羨望を覚えた。ふたりの絆と幸福が続くよう想いながらの読了。

  •  実は読みえ終えていない。一度に3冊も予約本がきてしまい、読み切れなかった。
     仲の良い幼馴染の二人。いいなあ。老後はこうした気の置けない友人と暮らしたいなあと思いましたよ。もうほとんど老後ですが。

  • 2022/06/05
    すぐ読めた。
    団地の幼なじみ50歳の2人のはなし。

  • 4,5歳まで団地で住んでたうっすらとした記憶がある。

    なんだか、今になって憧れる~
    そして気が置けない人がいることで安心感も。

    老人有料ホームや介護付き有料マンションとかでなく、団地の再利用をもっと真剣に考えるべきなんだろうな。

  • 日本のそこかしこでありそうな設定。
    団地で育ったおばさん。
    そして同じ団地の中の別の棟に暮らす同級生は毎日うちでご飯を食べていく。
    彼女とは保育園(これも団地の中にある)から一緒。
    暮らしている人は何十年も前から同じで、みんな年を重ねている。

    なんていうか都会の中にある「村」のよう。
    だからこそ日本のそこかしこにありそうだなと思う。

    主人公が何故電車に乗れないのかのネタバラシはされないまま物語は閉じる。
    劇的なことは起きない。
    それが現実だよね。と思う。
    そしてだからこそ考えることが沢山ある。

    読みやすい言葉で書かれていてするりと体に入ってくる。
    でもこれは今の日本の話できっと結構リアルで、だからこそ色々考える。

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著者プロフィール

1962年福岡県生まれ。千葉大学教育学部卒。95年「午後の時間割」で第14回海燕新人文学賞、98年『おしゃべり怪談』で第20回野間文芸新人賞、2000年『夏の約束』で第122回芥川賞を受賞。その他の著書に『ルート225』『中等部超能力戦争』『D菩薩峠漫研夏合宿』『編集ども集まれ!』などがある。家族をテーマにした直近刊『じい散歩』は各所で話題になった。

「2022年 『団地のふたり』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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