たそがれ (新しい韓国の文学 22)

  • CUON
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  • Amazon.co.jp ・本 (216ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784910214221

作品紹介・あらすじ

「わたしたちはいったい何を間違えてしまったのでしょう」
取り返しのつかない過去を思いつつ、さまよう人々の叫びと祈りの物語

1960年代以降、大学進学によって貧しさから脱け出し、軍事政権による開発経済の恩恵を受け、建築家として成功した初老の男性。
急速な発展の結果として拡大した現在の格差の中で、多くをあきらめながら苦しい生活を送る劇作家の若き女性。
持てる者が失わなければならなかったものは何か。
持たざる者がなお手放さないものは何か――。
韓国文学を代表する作家が、現代社会に生きる人間の魂の痛みを静かに描き出す。

ブッカー国際賞の候補作にも選ばれた、
韓国文学を代表する作家 黄晳暎による中編小説 

感想・レビュー・書評

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  • 「金持ちでも、貧乏でも、うわべはなんでもないふりして暮らしているけれど、本当はみんなわびしいものなのよ。わたしたちみたいな者たちはいつも同じね。よくもならないし、変わることもない」

    タイトルに惹かれて読んだのだけれど、韓国社会を覆い尽くす諦めと新自由主義がもたらした超格差社会は、まもなく日本社会にも訪れるのかもしれない。「近代のたそがれでただ流されて生きる」ことしかできない若者たちは日本にも現在進行形で数多くいるだろうし、流されながらなんとか生き延びてきたかつての若者たちもいる。韓国は日本に数年先の自国の未来を見ているだろうし、日本に生きる自分は韓国の人々にこの国の未来を見る。

    「前の世代の過去は、めぐる因果となって若い世代の現在に還ってゆく」
    「困難のときを迎え、私たちはもっと早くに振り返らなければならなかった」

    ファン・ソギョンはあとがきにこう記した。何度目かになるこの「因果」のめぐりは今まさに日本社会に訪れているものだが、この国、この社会ではどうにも振り返られる様子がないことに焦りを覚える。

    一方、本作では建築家である主人公、パク・ミヌの人生を通して振り返りがなされる。貧民街(サンドンネ)で育ち、なんとかその泥濘から抜け出し、身を立てて、貧困から逃れて逃れて生きてきた人生に、どこか自分を重ねてしまう。パク・ミヌは自らを育てたサンドンネを再開発の名目で、跡形もなく破壊する。サンドンネは年から姿を消したが、半地下という新しい貧民街が形成された。もう一人の主人公、チョン・ウヒはそこに暮らす。

    住居を通じて世代を越えた「因果」が表現されるが、パク・ミヌとチョン・ウヒはチャ・スナを通じて直接繋がっていく。そこがこの物語の核になっていると思うが、この因果自体も、因果を生産し続けるシステム自体にも、個人の小さな力では立ち向かいようがない。持たざる者は諦めてなんとか生き延びる以外に選択肢がないという過酷さ、熾烈な社会のありようを、名もなき小さな者たちのささやかな人生を通して描いていく筆力に唸らされた。イ・チャンドン監督『バーニング』と同じようにズシンとくるものがあった。

  • 建築家のパク・ミヌは、講演会が終わった時に、若い女性からメモを渡された。「先生の古くからのお知り合いだと…必ずお電話してほしいとおっしゃっていました。」そのメモには、チャ・スナという名前と電話番号が書かれていた。数十年前の貧しいサンドンネ(산동네 山の町)で暮らしていた記憶が…。サンドンネを抜け出して大学に入り、そして建築家になり成功したパク・ミヌの人生と。芸術大学の演劇科を卒業して、演劇では食べていけないので、数十の履歴書を出して落ち続け、ようやく零細な出版社に入り、苦しい格差生活の中でもがく若い劇作家であるチョン・ウヒの人生が交差する。

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著者プロフィール

【著者:黄晳暎】 
高校在学中に『思想界』新人文学賞を受賞。
短編小説「塔」が1970年朝鮮日報新春文芸に当選し、本格的な作家活動をはじめた。
世界各地で多くの作品が翻訳、出版されており
日本ではこれまでに『懐かしの庭』(2002年)、『客人』(2004)、
『パリデギ─ 脱北少女の物語』(2008年、以上岩波書店)、
『モレ村の子どもたち』(2019年、新幹社)『囚人 黄晳暎自伝』(2020年、明石書店)などが刊行されている。

「2021年 『たそがれ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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