ちょっと踊ったりすぐにかけだす

著者 :
  • 素粒社
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本棚登録 : 726
感想 : 30
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784910413105

作品紹介・あらすじ

ウェブメディア「デイリーポータルZ」編集部員・ライターの著者による大人気ウェブ日記を書籍化。書き下ろしを含む2018年から2022年までの日記より、103日分をあつめた傑作選がついに刊行!

母・息子・娘、3人暮らしの
愉快で多感な〈日記エッセイ〉

生活の、愛おしい機微

【推薦のことば】
実験室みたいな、
RPGみたいな、
部室みたいな親子の時間。
あー、今からでも古賀さん家の子に生まれたい!
――岸本佐知子(翻訳家)

感想・レビュー・書評

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  •  「母の友」で知った本書、図書館で実物を見るまではエッセイかと思っていたら、日記だったことにまずは驚き、しかも、割と分厚いその約300ページの中には、古賀さんの家族の歴史がそのままぎっしりと詰まっているんだなといった、しみじみとした感慨を読み終えた時に抱くことができた。

     「母の友」の紹介では、子育てに長けた印象を抱いた私であったが、読んでみると素の姿が面白く、自分を偽ることなく極力自然体で、それなりに自分の欲に従いながら、子どもとは対等な接し方で毎日を過ごされている、そんな印象を受け、本書が2018年~2022年(息子さんが小五~中三、娘さんが小二~小六)と、子育ての大変さやコロナ禍もあったとは思うのだが、ある意味、それを殆ど感じさせないところに、本書の凄さがあるのだと思う。

     そして、最も印象深かったのが、毎日の生活には、こんなにいろんな発見や面白いことがあるんだなということであり、独り身の私には、ここまでの新鮮さは得られないだろうなと感じ、正直なところ他人様の家族って、どうでもいいと思っているのだが(失礼)、ここまで愛着心を持つことができたことに我ながら驚いており、それはそのまま、古賀さんと、その息子さん、娘さんの人間性に惹かれるものがあったということなのだろう。

     例えば、2018年12/25(火)の日記一つとっても、息子さんは既にサンタの謎に気付いていたが、娘さんは信じており、そのサンタに書いた手紙の内容、『私は奥に寝ています、兄は二段ベッドの上に寝ています』のいじらしさと、元来人見知りなので、起きて見つけたプレゼントを警戒している姿の対照性と、「わーっ! サンタさんきたよ~~っ」といったテンションの高い朝ではない、古賀家のクリスマスであっても、娘さんはお母さんにプレゼントを開封させて、静かに手に取って眺めた、これらの出来事は、もしかしたら全く気にかけられず、日々の目まぐるしさに紛れ込まれてしまうのかもしれないが、こうして日記という形にすることで、その時の出来事が、決して一つの感情だけで終わる単純なものでは無かったことを知り、人間の奥深さや面白さを窺えることが、ある意味フィクションよりも心を動かされる要因なのではないかと思われた、事実であることの強みであり、それが、娘さんの存在はフェアリーテイルではなく、現実に同じ世界で生きていることの感動を、改めて呼び起こしてくれる。

     また、そうした思いは、何気ないささやかな日常の中にこそ、素敵なものが潜まれていることの証明にもなるようで、書くときりが無いのだが、特に心に残ったことをいくつか。


     娘さんに関しては、他にもいくつかあり、茨城県について勉強した時、その地形のカッコよさが嬉しくて、お母さんに絵を描いてくれた後、最近お母さんと遊んでいないから遊ぼうとオセロをしたことは、二回アドバイスしたらお母さんが負けたエピソード込みで、改めて何気ない一日の話だと思うのに、なぜかグッとくるものがある。

     また、上記のクリスマスプレゼントとは対照的に、今度はお母さんの誕生日プレゼントについて、店で買ったものは朝のうちに自信をもって渡せたけれど、手作りのものは、自信の無さと照れくさかったのがあったと思われて、寝ようとする時間に渡したことに加えて、その手紙の内容である、『いつも私たちの幸せ“お”(を)考えてくれてありがとう』には、時にお母さんと言い合ったりすることもあるだけに、その健気で可愛らしい思いには余計に泣けるものがあり、それは朝食を食べながら「いいね、いいわ、たたみせいかつ」と口ずさむ、子どもならではの愛らしさでもある。

     それから息子さんについて、腹筋をするとき母(お母さんて書くの面倒くさくて、ここから母表記で失礼)に足をおさえてもらったが、笑わせてくる母に普段の家族関係が窺えたり、これは娘さんもだが、母がメラミンスポンジの活用法を見直し、ごみ箱のふたをきれいにしたら、学校から帰ってきたときに「きれいになってるね」と言ってくれた、そんな優しさの極みは『英検4級に落ちて暗転したお母さんかっこよかったな』の言葉で母が感じた、28年の月日を経て落第が報われた瞬間であり、何が凄いって、母のこれまで抱いていた人生のわだかまりを息子さんが解消してくれたことであり、家族っていいなと、これは思ってしまった。

     また、家族の良さとして、コロナ禍での外出自粛の在宅生活はいがみ合うことも多かった兄妹だったが、同じものを観て聴いて、共通の言語を日々獲得していることを母は実感し、それは『良し悪しではなく、単純に、一緒に過ごした思い出が作られていってる』ことの素晴らしさであり、コロナ禍であってもマイナスなのではなく、変わらずにいて、しかも新しい何かを得ることはできるのだということを教えてくれる。

     そこに母も加わった、まさに二人三脚ならぬ三人四脚(?)の素敵な思い出は、公文の迎えの時、いつもは娘さんが気付くが今日は母が先に気付いて手を振ったことや、息子さんが部活で軽い怪我をした知らせで同時に知った、いつも息子さんの書く文章が愉快で新鮮であることに母が喜んだことや、娘さんにスラムダンクのオープニングの歌(大黒摩季の「あなただけ見つめてる」)をせがまれて、寝ながら熱唱した母や、大きなスーパーの別のフロアでより安いマスクを見つけ「ひーっ!」と叫んだ母に「おかあさん静かに」といさめた娘さんや、安いジャムと高いジャムでそれぞれの人としての尊厳を確かめ合うことや、晩ごはんはいつも丸いちゃぶ台で食べるから、夜は陣形がいつも輪であること等々、挙げると本当にきりが無いのだが、それくらい何気ない日々には、こんなにも愛しさが満ちていたことを、改めて私に実感させてくれた、生きていくことの素晴らしさである。

     そして、その素晴らしさは家族でありながら、ひとつの個をもった人間として認めることが大切であることも教えてくれて、それは古賀さんのあとがきの、『私が見た娘を私が言葉にして書くことと娘自身は別体である』からも分かるように、ここに書かれていることは、あくまでも母から見た娘さんであり、現実に生きている娘さんとは異なるのかもしれないことを認識している点に、本書はより説得力を増しているのだと思われる。

     と書くと、上記したことと矛盾しているのかもしれないが、本書がこのような形で出版されていることを考慮することによって、これは、やはり価値のあるものだということに何ら異存はないし、本書に対して、娘さんがどのような心境を抱いているのか想像してみるのも、きっと楽しくて素敵なことなんだと思う。

  • 古賀及子さん「ちょっと踊ったりすぐにかけだす」 ウェブライターの観察眼が光る、ささいな日常の面白さ|好書好日
    https://book.asahi.com/article/14851802

    ライタープロフィール :: 古賀及子 の記事いちらん :: 古賀及子 の記事いちらん :: デイリーポータルZ
    https://dailyportalz.jp/writer/kijilist/200

    古賀及子(こがちかこ)|note
    https://note.com/eatmorecakes/

    ちょっと踊ったりすぐにかけだす | 素粒社
    https://soryusha.co.jp/books/011_chottoodottari_910413105/

  • いつまでも読んでいたい、お母さんと子ども二人の日々。切り口がいちいちみずみずしい。「人というのは、決定に体力を使いストレスを感じるものだ」

  • 宝物。宝物!!宝物!!!!この本は宝物である。
    書かれていることのほとんどが家の中で起こったことと思うが、こんなにおもしろいのか。人と生活することの醍醐味。古賀さんの飾らなさ、清々しさ、気持ちよさ。
    「家族はそれぞれ持ち場へ散り」「人々は家を出た」「週末に誕生日ケーキを食べようと約束して人は散った」「わいわい子らはそれぞれ学校に行って私は仕事」「それぞれの持ち場に散り散りになる」「夏じゃんねと言い合ってそれぞれの持ち場へ」と朝会社/学校へ行くだけでもう楽しい。
    引用で各日にタイトルがつけられているのも良い。まずタイトルから文脈を想像してみるが、まったく想像が及ばない楽しさ。途中でタイトルに出会った時のうれしさ。このうれしさは、映画をみているときにポスターに切り抜かれてるシーンに遭遇した時のうれしさといっしょ。1日分読み終わったときにタイトルなんやったっけとページを戻す楽しさ。
    ブルボン小林(長嶋有)さんがこの本を語る採用ラジオvol28もめちゃくちゃ良い。「"素敵な"とかがつかない生活の話」「"やったぜ!"が素敵な暮らし的エッセイにない、古賀エッセイの本領」「(素敵な暮らしエッセイは)うまく行くことに対する当然という見栄を張っている、良くも悪くも澄ましている、上品」「よくできるだけのスキルがあるのにそのスキルを信じてない人」「うまく行ったという結果に対して過去の自分を信じてない」という的確さよ。しびれる。

  • Podcast「採用ラジオ」で古賀さんのことを知り、番組にハマるとともに書籍も購入。
    適当に開いたページから何度も読み返してる。

    雨粒のついた網戸に消しゴムを投げたり、走り終えた子に優勝インタビューをしたり。こんな風に子どもたちと「意味わかんないけど面白い」感覚を共有できるの素敵だな。
    そして一緒になってわいわいしながらも、子の安全や尊厳を守る番人のまなざしももっていて、大人ってすごいと思わされる。ちゃんと大人になれてる人だ。

    漠然と疲労しながら生活するんじゃなくて、疲れを面白がるくらいの心意気でいたい。見過ごしていた日常の細部に目を向けてみようと思った。

  • とても面白かった!日記なので少しずつ読み進めようかな、と思っていたのにぐんぐん読んでしまった。

    娘さんと息子さんがとても可愛らしいし、とにかく発想が面白い。時折「そんなところに目をつけただと…?!」とハッとさせられた。子供の感性って面白い。
    息子さん、娘さんの成長見たさに、「おくれ毛で~」の方も早く読みたい。

    私だったらただただネガティブに捉えてしまいそうな物事を前向きに受け止めている古賀さんの姿勢に目からウロコだった。なにごとも考え方次第だなぁ!

  • 日記を読む人なら必ず知ってるであろうこの本
    ライターの古賀及子さんの日記

    息子さんと娘さんと3人で暮らす家が
    ほとんどの日常の舞台。
    コロナ禍だけじゃなく、生活のメインは
    やっぱり家だし、台所だし、家族だ。

    ここのうちの子になりたい
    よく聞く感想だけど、私も思った
    ここのうちの子になりたい

    自分の子供だから、というよりも
    古賀さんはこの人たちのことが大好きで
    愛しくて、尊敬している

    その様子がチラチラと
    また、だばだばと文章から漏れ出ている

    出てくるご飯も、すごく凝ってるわけじゃない
    日常の家庭料理で
    家族でわいわいしながら食べるその様子は
    本当に楽しそうで美味しそう

    日常ってこういうことで
    あらためてやっぱり、日常っていいなあ

    なにか特別なことがあったときは
    写真やスケジュール帳を見返すと思い出せたりするけど
    こういう日常こそ、さらさらと過ぎていって
    忘れてしまう

    でも確実に自分を作っているのは
    こういう日常だし
    忘れてしまうような小さなことを
    書いておける場所が日記なのかもしれない

    古賀さんはサインする時に、日記の中に出てくるキーワードを書いてくれる

    「まったくわからなくてすごい」

    これだけ読むのと
    全て読み終わって
    前後の流れがわかるのとでは
    言葉の見え方が違って本当におもしろい

    “タイトルつけるの得意です!”とおっしゃってただけのことはある。見習いたい。

    “これからも見て聞いて感じてとらえ、たゆまずおもしろがり書き続けます。それが自分のいたしかたない生命です”

  • すごく好きな本だった!!
    古賀及子さんのお子さんとのやり取りや言葉のセンスが抜群に好きだった
    文章のリズムが良くて、日記なのにぐんぐん読める。全然飽きが来なかった
    瑞々しい感性で描かれる日常は、私なら沈んでしまいそうなこともなんだか楽しそうに綴られている
    なんて素敵な本なんだろう、読み終わった後かなり元気になった
    新刊も早く読みたい!

  • とても愛おしい日々の記録。子育てが「子のため」オンリーになっていない、自らの楽しみも込みで実践されているのがとてもすてき。デイリーポータルの記事も好きだけど、この本を読んでますます古賀さんのファンになった。

  • 大好きなデイリーポータルの古賀さんの本がまさか図書館の新刊コーナーに並ぶことになるなんて!と思いつつ、速読。読んでたものもあるけど、あーいいなー。毎日噛み締めたら、こんな穏やかに子育てが出来るかもしれない。日々の肩肘はらない感じが好き。

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著者プロフィール

ライター、エッセイスト。1979年東京都生まれ。2003年よりウェブメディア「デイリーポータルZ」に参加。2018年よりはてなブログ、noteで日記の公開をはじめる。著書に日記エッセイ『ちょっと踊ったりすぐにかけだす』(素粒社)。

「2024年 『おくれ毛で風を切れ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

古賀及子の作品

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