じぶん時間を生きる TRANSITION

著者 :
  • あさま社
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感想 : 35
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784910827018

作品紹介・あらすじ

「時間が足りない!」

24時間 追い立てられる、すべての人へ。



トップ企業のマーケティング・ビジョン策定に伴走する戦略デザイナーが

自身の「移住体験」をベースに紐解いた!

圧倒的説得力の<新しい時代>の生き方・働き方!



「このままの働き方を続けていいのか?」

「自分らしい生き方とはなんだろう?」

パンデミックは「人生の時間」の使い方について

考え直す大きなきっかけとなりました。

二拠点生活や移住をはじめる人、

転職・独立などのキャリアチェンジを考える人、

その多くがトランジション(転換)の渦中にいます。

これまで「他人時間」で生きてきた人たちが

内発的動機(=じぶん時間)を起点に生きるようになったのです。

「生産性」を突き詰め、「効率化」だけを追求する生き方は

もはや通用しない。

では、新しい自分に生まれ変わるには、何をどう考えればいいのか?



自身も戦略デザイナーとして「生産性の罠」に嵌っていた著者が、

その体験と実践者へのインタビューをもとに、新しい生き方を徹底的に思索しました。

たどり着いたのは、新しい時間感覚「じぶん時間」を生きることだったのです。



「トランジション」3つのステップと「じぶん時間」へシフトする具体的アクションで

誰もが「豊かさ」を稼ぐ生き方へと人生をシフトすることができる。



本書は「他人時間」から「じぶん時間」へのトランジションを希求するすべての人の背中を押す、

これまでなかったまったく新しいビジネス書です。

感想・レビュー・書評

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  • タイトルに惹かれて購入。
    この本の著者は、企業のブランドデザインなどを手掛ける、佐宗さんという方。長年、都内で「生産性」を追い求めてバリバリ働き続けてきたが、コロナ禍を経て軽井沢に移住。それまで持っていた仕事への価値観や、時間の概念が変わっていった様子が綴られている。
    移住に至るまでの経緯や、長所と短所を含めた移住生活のリアル、子育てや教育環境など…についても詳しく書かれていて、興味深く読んだ。

    人間には1日24時間が等しく与えられているが、その体感時間は人それぞれ違う。私たちはその感じ方を、自分の心で決めることができるし、生活を選びとってデザインすることができる。私たちの人生は、成長の歯車を回すためだけにあるのではなく、ひとりひとりが人生の豊かさを感じとるためにある。
    といった内容が心に残った。

    自分にとって、自分らしく、心身ともに良い状態で過ごせるのはどういった環境なのか。今一度、考えてみたいと思った。

  • 佐宗さんの時間に関する本。
    自分時間の一端ではあるが多分に移住関連の話も含んだ本

    メモ
    ・他人時間からじぶん時間へ
    ・外出自粛期間に行われた普段行わない行動
     何かを生み出す
     自己を表現する
     家族や近所とつながる
     自然と親しむ

    ・人生の転機には三つの段階がある
      終わらせる時期 惰性で続けている生活や習慣
      ニュートラルな段階 
      次のステージを始める段階

    ・方向は決めずに動きまくる

    ・不安を飼い慣らす三つの方法
      自分の感情をジャーナリングする
      誰かに聞いてもらう
      不安の正体と正面から向き合う 人は不安に対してアクションすると不安をコントロールできるやうになる

    ・人生を変えるには会う人を変えることがひとつのきっかけに

    ・東洋思想 陰が極まると陽が生まれてくるという

    ・doではなくbeの肩書き。どうあると自分らしいか

    ・食べるはメディア

    ・地域コミュニティに属する時は、そこから何を得るか以上に、いかに参画するかという意識が大切
    ・移住がうまくいく二つのパターン
      コミュニティのハブとなる人と繋がること
      最初からコミュニティに所属すること

  • 自分の開放の仕方、自分の人生への向き合い方を噛み砕き、実践可能となるよう諭してくださる様な本

    自身の棚卸しにモヤモヤしている方にオススメ

    通勤時間はスマホで執筆活動や読書タイムなので全く無駄な時間とは現状、感じていない

    定年退職後、子育てが落ち着いたら軽井沢への地方移住とか良いかも!と、夫に提案してみました

  • 他人時間に支配されている、その言葉に惹かれて読んだ。
    今の自分はまさに、他人が起点の他人時間の生き方であると思う。
    目の前のことに集中する、自分を主語に生きていく、そんな価値観を大切にしたい。

  • 未来や過去でなく、今、ここを味わう。
    じぶん時間のために、いい人をやめる

  • 読みにくい

  • まさしく今私はニュートラルゾーンの真っ最中で社会的に何者でもない人、という漠然とした不安を毎日感じる状態から月日、とか時間っていう決められた時の流れに縛られず好きなことを好きなようにしようとしてる自分が好き〜という状態まできている。

    ここまで8ヶ月程かかったけど振り返るととっても楽しかったしこれからも楽しいんだろうなぁ

    幸せねぇ

  •  メールボックスは空に、午前中に頭を使う仕事を入れる、全ての予定をスケジューラに入れろ、等々、過去から時間術、仕事術には非常に効率的な時間の使い方が載っていて、その通りだと思う。SNSが蔓延る社会では、自分以外の体験が自分の体験のように感じる効果がある。よって、自分自身の体験を差し置いて、スマホが手元にあることが最も大事なんだとなる。SNSをほぼ絶ったことで大きな変化があったし、水曜日の夜は1人時間を楽しむ、金曜日は家族と食事、ここからスタートした2022年。非常に自分自身も変わった。土日は、少なくともスマホは開かない。これが2023年にやっていることだけど、これも非常に効果ある。
    じぶん時間を生きるとは、きっとこういう自分の中での結論をサポートしてくれるような気がして手にとった。
    仕事一本足打法、という表現は非常にいい得て妙だし、よくそんな話をした。心を病む瞬間は、アイデンティティを折られた瞬間に起きやすい。これだと思っていたものが、ポキッと折られる。大事な仕事だと思って没頭してきたが、否定された時、ポキッと枝が折れる。家庭でもそうだろう。趣味がたくさんあればいいというわけではないが、アイデンティティを多く枝のように持つことが、心の強さを持つ基盤になっている、というのが自分の新しい個人としての強さのデザインだ。
     途中から、本人の軽井沢移住ストーリーに移る。実際に、移り住んでみて、トレンドから遅れるのではないかとか、気を揉んだ部分はほとんど関係なかったということ。逆に自然が近くなり、キャンプとか都会生活でスペシャルなことにはあまりイントがなくなってきたこと。そして、何よりオフィス勤務の意味が出てきたこと。どうしても、ウェブ同窓会とかって、やらなくなる。そして、インパーソンの意味が大きくなってくることに気がつく。早々に気がついているアメリカでは、週五日オフィスに戻す動きに完全になっていて、Return to officeが進む。つまり、軽井沢だろうが、熱海だろうが、一回引っ越してもまた戻るしかない。それはビジネスの中心に人が集まることを意味する。一方で、自分という内発的動機を軸にした選択肢が日本人に出てきたということになる。元々アメリカにはそういう発想しかなかったため、他人時間で仕事する人も、プライベートを割く人もいないので、アメリカ(というには限定的すぎるかもしれないので欧米とかそういう)的な価値観に近付くのかどうか。
     もしかしたら、軽井沢だけでなく、海外の事情も正しく情報としても体験としても入れていったらより良いかもと思った。プレイデートの概念は、実は違う。(間違いを指摘したのではなくて、実はその本質は違うという意味で)プレイデートは非常に重要だ。学校帰りに限らず、友達同士で遊ぶことをさすが、アメリカではドロップオフ方式、親がおらず子供だけ、一つの家庭にお世話になるパターン。もう一つは、親も一緒に遊ぶパターンで、公園、家に行く、ボーリング場などの施設に行くというようなパターンがある。いずれも、親の信頼関係が絶対で、プレイデートで人間関係を深めていく。親の情報交換も相当重要で、その中で学校関連、育児、その他の情報が交わされていく。価値観が合わなければ、またバリューがなければ、次からは呼ばれなかったりするし、結構シビアな印象だ。
     おすすめの方法ということで、スマホの通知を切る、これはやっているというか土日は必要なければ、充電器に置いて見ない。時計から離れるのも同じだろう。ゆっくり深呼吸、ボディスキャニング、ストレッチをする。これも、今は毎晩やっているが、全く違うし、めちゃくちゃ眠くなる。散歩、これもセントラルパークがあるのは強い。公園の多いNYは、基本散歩して、歩く歩く。
     外的な変化Changeではなく、内的な変化Transition。これを起こすことで、行動が変わる、時間を過ごし、その時間を感じることができること、時間自体を豊かに過ごすことができること。大前研一氏の引用も懐かしい、自分の人生を変えるには、時間配分を変えるか、住む場所を変えるか、付き合う人を変えるかしかない。決意を新たにするのは、全く意味がない。また同じ一年がやってくる。というもの。私もこの話を直接お聞きした2015年、一年の計で、決意を新たにすることは全くなくなった。1年に一度、何かを変えることだけを決めている。


  • 日々仕事に追われている人へ
    不思議と時間の流れを変えてくれるような本。自分が本当に大切にしたいものは何か考える時間を与えてくれる。ふとした時に手に取りたいと思える本でした。

  • じぶん時間を生きる TRANSITION

    英語では、2 種類の「変化」があると言われている。
    外的要因による変化を「チェンジ」という。それに対して、もうひとつの変化がある。それが、内的要因による変化「トランジション」である。

    今・ここに流れている「時間をどう感じたいか」という意思を持つことから、変化は始まるのではないか。大事なのは、時間を「効率的に」使うかではない。自分が過ごしている時間を、「自分を主語に」今を感じて豊かに過ごせるか。「他人に支配された時間で生きる世界」から、「自分の時間を生きる世界」への転換ではないか。

    これまで何の疑問も抱かず取り組んでいた仕事が手につかなくなったことも、自分が本当に住みたい場所を探し始めたことも、子どもの未来や家族のライフスタイルについて真剣に悩むのも、「他人と比跋して生きる人生」から、「自分の尺度で生きる人生」へのトランジションが起きている証拠だ。

    1章 グレートリセット 生まれた4つの「内省」

    グレートリセットが起こった結果、訪れたのは長い内省の時間、つまり自分と向き合う時間だった。日本の社会で(おそらく)初めて、等身大の自分で、やりたいことに正直に生きること、< 自分モード> で過ごすことが、当たり前になった瞬間だったのではないか。

    安宅和人さんはこう予測する コロナ前の世界が都市化、すなわち「密閉かける 密」というトレンドだとすれば、ウィズコロナの世界は、地方を含む「開放 」かける「疎」の方向に舵を切るだろうと。彼はこれを「開疎化」と名づけている。

    コロナ禍をきっかけに、人々(特にビジネスパーソン)は今までやらなかった様々な行動をとった。それを分類すると以下のようになる。
    ①何かを生み出す
    ②自己を表現する
    ③家族や近听とつながる
    ④自然と親しむ

    社会学の泰斗、見田宗介先生は、社会が成熟化すると、人は特別ではない日常の楽しみを求めるようになると主張した。そこで大事になる営みは、人とつながること、自然と触れ合うこと、文化をつくることだと喝破している。

    作家の村上春樹さんは、毎朝4時に起床し、小説を書き始め、4 〜5時間、ひたすらパソコンに向かうという。その後、ジョギングや水泳など必ず1時間程度の運動をして、昼すぎからは本を読んだり、 音楽を聴いたり、レコードを買いに行ったり、料理をしたり、自由に時間を過ごす。

    週5 日、1日8 時間以上働くビジネスパーソンの多くは、「仕事イコールアイデンティティ」という「一本足打法」で打席に立っている状態である。だから、本当の意味で生産性が向
    上し、労働時間が少なくなったとき、大きな不安に襲われる。社会とのつながりを失うとすら感じるかもしれない。

    2章 トランジション 新しい自分に出会う

    『変化から意味を見出す唯一の方法は、変化に飛び込み、行動し、(そのダンスに)参加することなのです』
    アラン・ワッツ

    人生における転機には3 つの段階があるという。第1 段階は「終わらせる時期」だ。第2 段階は「ニュートラルな段階(ニュートラルゾーン)」。最後の第3 段階が「次のステージを始める段階(再生期)」。

    トランジションのタイミングだと感じたら、勇気を出して終わらせたり、手放して、やめてみたりすることが大切になる。それが仕事なのか、都会での生活なのかは人それぞれだが、何かを終わらせることで新しい余白は生まれ、人生が変わっていくだろう。

    ワーカホリックとは「自分は役に立つ存在でありたい。そうでなければならない」という不安からくるものなのだ。
    依存症のもうひとつの特徴は、「私は状況をコントロールできている」と思い込んでしまっていることだ

    何かをやめると、「自分は何者でもない」という、ふわふわした時期を過ごすことになる。これを「ニュートラルゾーン」と呼ぶ。何かをやめて生まれた空白の時期。終わらせることで、新しいものが入ってくるのを待つ時期だ。

    何者でもない不安や恐れへの対処の仕方はいくつかある。
    1 自分の感情をジャーナリングする
    2 誰かに聞いてもらう
    3 不安の正体と正面から向き合う

    まずは方向を決めずに動いてみることが大事だ。自分が持つ無意識の果たさなければいけない役割を手放し、自分のメンタルブロックを取っ払って考えてみると、これまでとは異なる景色が見えるかもしれない。

    ニュートラルゾーンにいる時期には、あえて、新しいコミユニティとつながりをもつことが重要だと言えるだろう。今までの慣れ親しんだコミュニティとは違う人の輪へ、あえて飛び込んでみてはどうだろうか。

    マインドフルネスというアプローチがあるが、これも課題を課題として見ないという、仏教の考え方を基にしている。「課題があろうがなかろうが、それを感じつつやりすごせばいい」という考えだ。

    キリスト教などの一神教は、大まかにいうならば「人間にはもともと罪があり、罪を解消するために頑張る」という考え方だ。人間には課題があるという前提から始めるイシュー・ドリブンで、近代科学の源流にもなった考え方だ。

    仏教の考え方はこれとは異なり、ありのままに生きていくものといえる。課題はあってもいい、ただやり過ごしていけばいい、という考え方。そして、不完全な自分を受け入れ、囚われから逃れるといった常に環境に適応し続けていくスタンスだ。

    東洋思想では、陰が極まると陽が生まれてくるという。明るい世界にいると、そこで価値のあるものが明確になりすぎる。どうしても相対的に価値の低いものに意識が向かなくなり、優先順位が下がりがちだ。すると、本来ワクワクするかもしれないことも、明るい世界の中では視界に入ってこない。

    一方で、ニュートラルゾーンに入ると、それまで見えていなかった「自分にとって価値のあるもの」が、視界に浮かび上がってくる。ニュートラルゾ—ンの時期に現れる、この何かを生み出すリソースとなりうる余白は、「ビジョンのアトリエ」として呼ばれている。

    ビジョンづくりは決して楽なプロセスではない。ここでは、多くの人が直面する典型的な壁を5 つ挙げておこう。
    ひとつ目の壁は、そもそも考える時間を確保できないという課題。
    2つ目は、現実思考の課題。
    3つ目が、ビジョンを具体化できない課題。
    4つ目は、独自性の課題
    最後は、人にわかりやすく伝えられないという課題だ。

    キャリアをつくる最初は、強みであるグッドアットを特定して、世の中のニーズとマッチングさせていく。そのことで、経験を増やしたり人脈を増やしていき、リソースを増やしていくことが有効だ。ある程度、生計を立てていくことは必須だろう。
    そして、ビジョンを大事にしたキャリアづくりの上では、ラブを起点にスタ—卜する。

    キャリア論では、キャリア・トランジションという考え方がある。大きなキャリアチェンジはいきなり変化するのではなく、移行先の新しいキャリアを少しずつ生活の一部に取り入れていき、その割合を広げていくことでスムーズにいくといわれている。

    3章 新世界 24時間のポートフォリオを書き換える

    『人の目なんか気にしないで、思うとおりに暮らしていればいいのさ』
    スナフキン

    大前研一さんの言葉に、このような言葉がある。
    「人間が変わる方法は三つしかない。ひとつは時間配分を変える、二番目は住む場所を変える、三番目は付き合う人を変える、この三つの要素でしか人間は変わらない。もっとも無意味なのは、『決意を新たにする』ことだ。かつて決意して何か変わっただろうか。行動を具体的に変えない限り、決意だけでは何も変わらない」

    僕は1 日を3 ブロックくらいに分けて、それぞれで違ったモードで仕事をする。誰かと話したりメールやスラックのメッセージを返す「対面モード」。調べ物をしたり、資料づくりをする「作業モード」。そして、文章を書く「執筆モード」。1 日がひとつの仕事に終始することはほぼないため、3 つのモードをいかに切り替えるかというのが重要になる。そこでやっているのは、自宅書斎、コワーキングスペース、カフェという3 つの場を使い分けるということだ。

    仕事の性質上、複数のプロジェクトを同時進行させていることもあり、複数の仕事場を切り替えられる環境があるかどうかが自分にとって仕事が捗るかどうかに大きく影響することがわかった。

    都会で働く人にとって「レジャー」とは、ただの休暇ではない。「仕事のための余暇」を意味する。
    あくまでも仕事を頑張るために、レジャーに出かけて英気を養うという感覚なのだ。

    東京に住んでいたときに温泉に行っていたのは、突き詰めていうと仕事のパフォーマンスを上げることが目的だった。趣味も同じだ。筋トレやラン二ングを趣味としている人も、どこか仕事のパフォーマンスを上げるためにやっている節がある。

    トランジション後の「じぶん時間」を生きる暮らしでは、仕事のパフォーマンスを上げるための「休暇」という「仕事一本足打法」の発想ではなく、「休暇」を仕事、趣味、家族、旅などすべてが人生の時間を形成する要素としてフラットに考えるようになる。いわゆるホールネス(全体性) という概念だ。

    このような世界では、「やりたいこと格差」が生まれる。やりたいことが明確にある人はどんどん自分で学び、アウトプットを発信する。アウトプットがさらに人を集める好循環につながる。一方でやりたいことがない人は、 日々何も起こらない。

    山極器一氏は、人間の社会は「移動する自由、集まる自由、対話する自由」によって成り立ってきたという。そのうちの、「集まり、対話する」とは、「人と関わること」だ人間にとって「人とかかわること」が、 幸福や生きがいを左右する大きなできごとなのは動物的本能のようなものかもしれない。

    移住の先輩の不動産屋さんに、こんなアドバイスをされたことがある。
    「東京の時間をもちこまないほうがいい。東京と軽井沢では流れる時間の速さが違う。軽井沢では時間をかけて物事が自然に整っていくようなところがあるから、東京の時間感覚を捨てたほうがこっちでは過ごしやすい」

    僕の経験からいっても、教育のどこかのタイミングで競争をする経験は必要であり、そこで勝つには自分のやりたいことや強みに基づいた自信を育てたうえで競争に参戦することが必要になる。そして競争を戦い抜き、地力がついたら、今度は自分でやりたいことを見つけて実現する。このように、基本的には2つの世界を往復することが必要不可欠で、どのタイミングでどちらの世界を選ぶかということも重要だ。

    4章 「じぶん時間」を取り戻す

    『時間とは、生きることそのもの。人のいのちは心を住みかとしている』
    モモ

    「東京はとにかくスピードが速い街だ。その理由は、便利だからだと思う。ヨーロッパに移住することで、不便になったけど、それだけ多くの予定を入れられない分、時間をゆったりと過ごすことができるようになった」

    「他人」という存在が目に入りにくく、競争の感覚が薄くなるということだ。他人からのプレッシャーを受け、時間に追い立てられて過ごしていく感覚も減っていく。一方で、ちょっとした自然の変化に畋感になり、毎日を自分のペースで過ごすようになる。自分の身に起こったトランジション、それは、「時間感覚の変化」だったのだ。

    他人のペースに合わせて過ごす「他人時間で生きる時間」よりも、自分の身体が感じるペ—スで今・ここの瞬間を楽しむ、「じぶん時間を生きる時間」に、より渇望が強まっている動きなのではないかと思う。

    仕事の場が、職場からオンラインに移行すると価値基準が「外の規範」から「内の価値観」に向いてくる。
    自分がやりたいと思えない他人事の案件は、なかなか進まない。一方で、自分がやりたいプロジェクトはどんどん進む。進拔を左右するものが、場の「空気」から、個人の「内発的なモチベーション」に移行してしまっているのだ。これは、テレワークにより、場所のくびきが外れてしまった現在の日本における、不可逆的な変化だといえる。

    極端なことをいえば、テレワ—ク時代は「会社にいくかどうか」を自分で決めるのが、当たり前になりつつある。他者から決められた「ルーティン」がない。出社するかどうかの意思決定を自分の軸で行う。「じぶん時間」は、自分の意思で増やすことができる。それが今の時代なのだ。

    ギリシャ時代に遡ると、時間とは2種類あるとされていた。時計によって刻々と動いていく定量的で数えられる時間である「クロノス時間」と、身体で感じる主観的な時間「カイロス時間」だ。クロノスとは、現在を中心にして、過去から未来へと直線的に流れていく時の流れのことをいう。それに対して、現在という瞬間、つまり「今・ここ」に意識を向けた時間意識をカイロスという。

    暝想に代表されるマインドフルネスは、未来のことを考えずに、「今・ここ」に意識を向ける。世の中には様々なマインドフルネスの方法があるが、その共通点は、呼吸に意識を向けるものであることが多い。この理由は、身体が感じている「今・ここ」に意識を向けるようにするためだ。これは、カイロス時間への切り替えをするためのひとつの方法だろう。

    暝想のようなアプロ — チをとらなくても、日常の中でカイロス時間に入ってしまうこともある。フロー状態という言葉があるが、没頭して絵を描いたり、何かをつくっている時間というのはあっという間に過ぎてしまう。これは身体が感じている内的な時間の知覚によるものだ。そして、重要なのは、カイロス時間というのは、幸せを感じる時間の使い方だということだ。

    時間感竟の研究で有名な社会心理学者ロバート・レヴィンは、「クロックタイム」と「イベントタイム」という考え方を提唱した。
    クロックタイムは、アメリカ、ドイツや日本に多い時間のとらえ方で、「朝8 時に起床しよう」「昼食は12時」など時計の表示にしたがって生活を組み立てていく考え方だ。

    それに対して、「イベントタイム」とは、南米や東南アジアに見られる時間の過ごし方で、その時々に起こる出来事に対応する形で時間を過ごすという。「お腹が空いたからご飯を食べる」「目的が終わったので会議を終える」というような時間の過ごし方だ。

    日々が繰り返しの中で過ぎていく中で、未来から逆算して今の時間を過ごすのではなくむしろ今この瞬間に生きている感覚に意識を向ける。自分自身の昨日との変化や進拔に意識を向ける。季節のちよつとした変化に目を向ける。未来のことを考えずに、今・ここを味わう時間感覚。派手じゃないかもしれないが、むしろ微細な違いを感じ、愛で楽しむような時間の感覚が、大きく成長しない時代をより豊かに過ごす心持ちなのではないか。そしてこれこそが、持続可能社会へのトランジションに生きる僕ら一人ひとりが、意識して生み出すことのできる「トランジション」なのではないか。

    見田宗介氏は、戦争と革命の世紀であった20世紀の反省から、21世紀に持っておくべき考え方として3 つの考え方があると提示している。ひとつ目は「ポジティブ」、2 つ目は「多様性」、そして3 つ目は「コンサーマトリ一」という概念だという。

    特に重要なのは3 つ目のコンサーマトリーだ。これは「現在を楽しむ」という意味で、今行っていることを、未来の目的やゴールに対する「手段」とするのではなく「行為」そのものとして楽しむ姿勢のことだ。20世紀においては手段主義という考え方が優勢で、未来にある目的のために現在生きている生を手段化するとされていた。「コンサーマトリー」はこのことと対比されて語られている。

    僕らは、無意識に未来の目的のために、「今が効率的な時間の使い方かどうか? 」という思考を持ってしまう。見田先生日く、それは20 世紀に優勢だった価値観の遺物なのだ。コンサ— マトリーという考え方は、未来の目的を考えずに「今・ここ」を楽しむことの蓄積の中で、結果的に未来が生まれるという考え方だ。この考え方と出会ったとき、これは紛れもなく「じぶん時間を生きる」ということではないかと思った

    今の時代にじぶん時間を有効に使うためにできることを考えてみよう。
    1 スマホ・PCの通知をすべて切る
    2 ゆっくり深呼吸をして、周囲の景色を見つめる
    3 ボディスキャニング
    4 ビジョン瞑想
    5 時計から離れる時間を決める
    6 ゆっくり歩いて散歩に行く
    7 自然の変化に意識を向ける

    『モモ』の一節にこんな言葉が出てくる。
    「人間には時間を感じとるために心というものがある」
    僕たちは常に時計の時間で、 一人ひとり決まった1 日24時間を生きている。しかしその時間をどのように感じとるかは僕たちの心が決められることなのだ。

    今「チャットジーピーティ」が大きな話題を集めているAIが圧倒的な量の情報を記録し、整理してしまう時代に、シンプルな思考はAIにとって代わられるであろう。
    ホワイトカラーにおいての生産性という目線では、単純な推論では圧倒的すぎて、人間が生産性をちよつと高めることに意味を感じないほどだ。
    そんな時代に、ものすごいスピードで変化する社会に無理についていこうとすることが、果たして幸せなのだろうか?

    この時代に 人間が鍛えるべき能力は何か。それは、 自分の心身で感じ、 自分の好きに忠実に遊び やりたいことをイメージして、そのワクワクすることをやろう.と自己決定する力ではないかと思う。

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著者プロフィール

株式会社BIOTOPE代表/チーフ・ストラテジック・デザイナー/多摩美術大学 特任准教授
東京大学法学部卒業、イリノイ工科大学デザイン研究科修了。P&Gマーケティング部で「ファブリーズ」「レノア」などのヒット商品を担当後、「ジレット」のブランドマネージャーを務める。その後、ソニーに入社。同クリエイティブセンターにて全社の新規事業創出プログラム立ち上げなどに携わる。 ソニー退社後、戦略デザインファーム「BIOTOPE」を起業。BtoC消費財のブランドデザインやハイテクR&Dのコンセプトデザイン、サービスデザインが得意領域。山本山、ぺんてる、NHKエデュケーショナル、クックパッド、NTTドコモ、東急電鉄、日本サッカー協会、ALEなど、バラエティ豊かな企業・組織のイノベーション支援を行うほか、MVV策定・実装プロジェクトについても実績多数。2021年に生活の拠点を軽井沢に移し、東京オフィスとの二拠点を往復する働き方を実践する。教育分野、地域創生分野など活動の幅を広げる。著書に『理念経営2.0 』『直感と論理をつなぐ思考法』ほか。

「2023年 『じぶん時間を生きる TRANSITION』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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