- Amazon.co.jp ・本 (268ページ)
- / ISBN・EAN: 9784931284388
作品紹介・あらすじ
出会いは「草枕」のなかにあった-。カナダの天才ピアニスト、グレン・グールドが15年にわたって愛読していた夏目漱石の小説「草枕」。グールドが共鳴した漱石の人生観、芸術観とは。
感想・レビュー・書評
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グールドが『草枕』の愛読者であったという話はクラシック音楽に多少なりとも通じた人なら聞いたことがあるだろうが、グールドの音楽と『草枕』の関係をとりあげて正面から論じた本は、おそらく本書が最初であろう。
30歳でコンサート活動から引退して録音活動に専念し、演奏する曲目も幅広くなったとはいえ、他のピアニストがテンポ・アップする所で急ブレーキをかけ、音を伸ばしてタータ、タータと弾く所をアッサリとタ、タ、タ、タと弾くかと思えば、急にとてつもないテンポで一気に駆け抜けてしまったりと、その奔放な演奏で聴く人を啞然とさせる天衣無縫のグールド。
ところが、その死の床で発見されたのが古ぼけた聖書と『草枕』であったと聞くと、「智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。兎角に人の世は住みにくい」という有名な一節がグールドのことを書いたように思えてくるのだから不思議である。「非人情」の世界を理解して熱烈な共感を寄せた読者がカナダの天才ピアニストであったということには、冥界の漱石先生もさぞ驚いたことだろう。
余談ながら、グールドは阿部公房原作の映画『砂の女』を百何十回も見たそうで、その話を聞いた勅使川原宏監督は、「監督の俺でさえ、20回ぐらいしか見ていない」と呆れ返ったらしい。おそらくグールドの頭のなかでは、『草枕』と『砂の女』に響きあうものがあったと思われる。
「事実は小説よりも奇なり」というフレーズが昔はやったことがあるが、本書を読むとまさしくその通りという感が湧き起る。詳細をみるコメント0件をすべて表示