原典 ユダの福音書

制作 : ロドルフ・カッセル  マービン・マイヤー  グレゴール・ウルスト  バート・D・アーマン 
  • 日経ナショナルジオグラフィック社
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784931450615

感想・レビュー・書評

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  • イエスがユダに自分を裏切るように言った、ユダは唯一イエスを理解した使徒だった、そう主張する文書について書かれたものです。発見された写本は、初期キリスト教についても重要な資料だとありました。ユダの福音書の原典(翻訳)は最初に載っていて、その解説や写本の発見に至る経緯なども書かれています。ユダの福音書について知るのはもちろん、読み物としても十分楽しめると思います。

  • Key
    グノーシス派、カイン派、ナグハマディ文書、セキ

    コプト語で書かれている。ギリシア語のものはすでに無い。ギリシア語からの写本である。古文書は文化的(これは宗教的だ)遺産も、学術的に利用するのであっても発見者から高額で買う物なのだろう。買えない場合には資料はなくなってしまうのか。価値があることが分かると盗まれてしまう場合も多いようだ。
    グノーシス主義は、キリスト教に限ったことではないようだ。初期キリスト教では、同族の中で葬り去られた宗派(教義)があることが予測される。力による同族間での争いである。
    新訳聖書のイスカリオテのユダには興味を駆り立てる何かがある。裏切り@イエスに最も近い使途の一人、やるべきことをすぐに実行@イエスが指示。
    ユダの福音書は、グノーシス派に分類される。

    グノーシス=「知識」-神はおのれの中に存在する魂であり、内なる光である-異端狩りの対象になる。

    アダムとイブ⇒アベルとカイン⇒その後セツ

    イエスは救済者ではなく教師、原罪ではなく無知

  • どの程度の意外性を発見できるのか? 読みはじめた理由はそれに尽きる。基本的にはユダヤ教に近いグノーシス主義とプラトン哲学の合体だということだが、例えば人々を救う使命を持ったイエスが十字架にかけられて(この世の)生を失うのと同じように、そのイエスを裏切るという唾棄すべき行ないによってこの世から追放されるユダもまた、究極の贖いをしているという。その背景には、救われる人というのは決まっていて、それ以外の人はどのように足掻いてもその対象とはならない。「悔い改めよ、さらば救われん」という今日の聖書の対極にある思想を通じて、あるべき人の姿を問うていると言える。しかし数多い聖書外典のひとつの域を超えず、訴えるものを感じなかったのは残念だ。「なるほどね」という以上の感情移入は残念ながらできなかった。引き続きアポクリファ(旧約聖書外典)へ進もうと思っていたが、今はその意欲がない。

  • 読了。わたしが生まれる1年前に発見されたキリスト教聖典(外典)。考古学者がようやく手にしたのはその20年後、世界公開は更に数年の後。この経緯をわざわざ書き残していて読むのが面倒だと思ったが、死海文書と同様、かなり悲運な流れを以て考古学者に渡ったようで、改めて一般庶民が重要文化財など手にしない方が良いと思わされた(つまり、金に目が眩んだのです)。キリスト教(元)聖典のうちの一冊だが、キリスト教について語るのは昨今ではかなり難しいと思われる。特にわたしの世代などは、藤子不二雄系列ドラえもんなどによって、誤ったキリスト像が刻み込まれている。考古学番組等を稀に見るので大分前から払拭されているが、国内の一般庶民は関心がないだろうから、なんとなく話が合わない。ユダの福音書については、番組で特集されることもあるから、ユダの裏切りはイエスの指示によるものだったということは割と知られていることかも知れない。が、読んでみるとそれよりも、イエスの教えが完全にグノーシス主義的立場によるものであったことに驚きを隠せない。これで、わたしのなかでは、プラトン、釈迦、イエスの三者が、それぞれおおよそにおいて同様の事柄を語っていることとなり、プラトンに及ばずとも真っ当な評価をイエスに送ることができた。この世界(宇宙)は不具であって、生きるに値するようなものではない。しかし、イエスを何一つ理解しなかった十一人の使徒のうちペトロは最初の教皇となった。5世紀、キリスト教の集団はアレクサンドリア図書館を打ち滅ぼしてプラトンの知識がヨーロッパから失われる。8世紀、ニカイア公会議においてローマ人の手によって聖書が誕生し、グノーシス主義の流れを組んだ聖典は除外され、信奉者は処刑された。暗黒と不毛のキリスト教時代が1000年も続き、イスラムの世界から再びプラトンの知識がもたらされるとようやくルネサンスが起きた。しかしそれでもキリスト教は終わらなかった。大統領は戦争をするたびにgod bless youと大衆に向けて演説をする。繰り返すが、キリスト教の歴史では、まず始めの教皇が既にイエスを何一つ理解していなかった。日本の仏教に仏陀の教えが含まれないことを大乗非仏説論と言うが、同様に、歴史はいつも何も伝わらないことを伝えている。

  • ユダの福音書の発見の経緯はハーバート・クロスニーの「ユダの福音書を追え」の方に詳しい。1978年ごろ中部エジプトで盗掘されたナイル右岸の洞窟の墓からパピルス写本が見つかった。エジプト人古美術商のハンナはこの写本を手に入れた。1945年に見つかったナグ・ハマディ写本や47年に見つかった死海文書(紀元1世紀に書かれた最古の聖書写本その次の写本は1000年近く後のものしかない)に比べどれだけの価値があるのか、ハンナはユダの福音書がこの写本に含まれていることは知らなかったがその言い値は学者達が用意した5万ドルとはお喜久かけ離れており、学者達もわずか1時間の調査では調べきれなかった。その後パピルスで出来た写本は湿度の高いニューヨークの銀行の貸金庫の中で放置され、写真を撮るためにぞんざいに扱われほぼ全ページ二つ折りにした様な亀裂が入りページの入った上部と文書の書かれた下部がバラバラになっていた。写本は2000年にスイスの古美術商チャコスの手に渡り(以降チャコス写本と呼ばれることになる)、9月にアメリカの古美術商フェリーニに転売された。このフェリーニが冷凍保存でさらに写本を劣化させ、しかも購入代金が払えずチャコスに返却するがそのとき一部を内緒で手元に残していた。2001年スイスのマエケナス財団が写本を購入し解読、復元と保存措置をとってエジプトに返却することを決める。本書はその解読を指揮したジュネーブ大学のロドルフ・カッセルによるユダの福音書の現代語訳とグノーシス主義とナグ・ハマディ文書や新約聖書外典の権威マービン・マイヤーの解説などからなる。

    マイヤーは以下のように解説している。キリスト教セツ派グノーシス主義者集団に属するナグ・ハマディ文書の研究からグノーシス主義はキリスト教の異端というだけではなく神秘主義者の大きな宗派だった。紀元二世紀のリヨンの神父エイレナイオスはその著書「異端反駁」で「ユダの福音書」を創作したのは旧約聖書に登場するアベルの兄カインを擁護する者たちだと述べている。エイレナイオスをはじめとする異端糾弾者たちはカイン派と呼ばれたこの一派をカイン、エサウ、コラ、ソドムの住人、そしてイスカリオテのユダといった、聖書に登場する悪名高き人物を擁護しているとして非難した。「ユダの福音書」では英雄として描かれているユダの供述の核心部分を読むと、この福音書がセツ派グノーシス主義の伝承に含まれていることが分かる。この福音書では、ユダ以外の弟子たちがイエスの本性を理解しておらず、イエスが彼らの神、すなわちこの世界を支配する神の息子であると主張する。だが、ユダはイエスに向かってきっぱりと次のように言う。

    あなたが誰か、どこから来たのか私は知っています。あなたは不滅の王国バルベーローから来ました。そして、私にはあなたを遣わした方の名前を口にするだけの価値がありません。

    ユダヤ教の口にするのもはばかられる神の名を意味する四文字YHWH(ヤハウェまたはエホバ)、バルベーローの起源として一説では古代ヘブライ語でarba(四)が聖なる意味を表すとされb(接頭語in)-arba-El(神)と考えられる。ユダは、イエスが神聖な場所からやって来たと告げるが、神聖なるものの名前をみだりに口にしたりはしない。そしてこの写本ではイエスはユダにだけ宇宙の神秘を明かしている。

    (来なさい)、いまだかつて何びとも目にしたことのない(秘密)をお前に教えよう。それは果てしなく広がる永遠の地だ。そこには天使ですらその広がりをとらえきれない御国があり。(そこには)偉大な見えざる(霊)が存在する。そこはいかなる天使でさえ見たことがなく、いかなる心の思念によっても理解されず、いかなる名前でも呼ばれたことがない。(カッコ内は欠落を補筆している)

    あらゆる人間の世代の魂は死ぬ。しかし、これらの人々は、王国の時が終わりを告げ、霊がその人たちから去る時、肉体が死ぬのであって、その魂は死なず、天へと引き上げられる。

    この写本にはユダの裏切りが詳しく語られるが中心は宇宙論とこの世界の神秘についてであり明確にキリスト教的と言えるものはほとんど含まれていない。この宇宙論の部分はユダヤ教に取り込まれていた斬新な概念とユダヤ教の経典が土台でプラトンの思想が加味されている。

    ユダの福音書のイエスは「あなたの故郷の星は誉め称えられるだろう」とユダに告げ、苦難を受けるべく運命付けられたユダを「13番目の精霊」と呼び「あらゆる種類の困難や障害に直面するにもかかわらず、祝福と喜びに満ちた未来がユダにもたらされると約束する。すべてを放棄することになる犠牲を心からの友であり洞察力に優れた弟子に求める。イエスは、自分を官憲に引き渡し、肉体から己を開放する手助けをユダに求めるのだ。他の弟子達も犠牲を払うが、ユダが差し出すほど価値が高いものではないとイエスはユダに告げる。

    お前は13番目となり、のちの世代の非難の的となりーそして彼らの上に君臨するだろう。最後の日々には、聖なる(世代)のもとに引き上げられるお前を彼らは罵るだろう

    だが、お前は真の私を包むこの肉体を犠牲にし、すべての弟子達を越える存在になるだろう

    さあ、これでお前にはすべてを語ったことになる。目を上げ、雲とその光の中、それを囲む星々を見なさい。皆を導くあの星が、お前の星だ

    ユダは心の底からの友のためだからこそ手助けできた。そして、ユダはイエスを密告する。
    これが「ユダの福音書」の良き報せ(福音)である。

    「去れ、行きて汝のなすことをなせ」がこういう解釈になるのだ。ユダの福音書は2世紀には編纂されていたと考えられている。2〜4世紀に起こった神学論争の中でユダの福音書は敗北し廃れた。

  • うわ、私には難しすぎた。
    もうちょっと前知識なしでも理解できる、または楽しめるものだとうれしいが。

  • グノーシス派ってのもどうゆうのか初めて知ったし、原始キリスト教っていろいろあって奥が深いんだなと思った。

  • 『ぼくらの頭脳の鍛え方』
    書斎の本棚から百冊(立花隆選)42
    基礎的古典
    新約聖書の読み方がまったく変わってくる。

  • 2006年に復元された古代のパピルス。
    内容は初期キリスト教グノーシス派の福音書です。

    ユダの名前のとおりグノーシス派は異端とされ、
    すでに正統派によって撲滅されていますが、
    キリストを裏切ったユダをもっとも忠実な弟子とする話は興味深い。
    その他、キリストがユダに神秘的な教えを語る場面が描かれている。

    残念なのはパピルス自体が相当痛んでいたようで、
    福音書の欠損箇所がかなり多いこと。

    内容について共感できるかは人それぞれですが、
    裏切り者ではなく、与えられた責務を全うした人として、
    12使徒のユダに新しい視点を向けられる。

    [2006年、アメリカ、240P]

  • ユダの福音書の翻訳した中身。破損が激しいためにところどころ欠けているが、現在の「正統派」のキリスト教とは全く違う世界がそこには書かれている。
    ユダの福音書に関係した研究者の小論も、その背景がわかっておもしろい。

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