山學ノオト

  • エイチアンドエスカンパニー
3.50
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本棚登録 : 119
感想 : 9
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784990759636

作品紹介・あらすじ

“自分としては、ただ生産性のない日々を生活しているだけなのです”

奈良県東吉野村。人口一七〇〇人の村の山あいの、道から離れその先の、川にかかる橋を渡った石碑の隣。ひっそりとたたずむ一軒家、人文系私設図書館「ルチャ・リブロ」。
自宅を開放して図書館を運営する夫婦がその生活を綴った一年間の日記に、書き下ろしエッセイと、山地での生活を考察した草稿「研究ノオト」を追加収録。

感想・レビュー・書評

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  • わたしは、都会の歩いても歩いても町がずっと続いているところが好き。
    昔の人の行動範囲は極端に狭く、田舎はその前提で作られているから、ある程度歩くと川や山や海にぶつかって、車を使わないと出られなくなっている(例えば、松下村塾の近くの宿の高齢の中居さんは、松蔭が繋がれていた牢へは「そんな遠いところへは行ったことがない」と言った、というような感覚のこと)。
    その閉塞感が本当に怖くて、あのままだったら病気になってたと思う。
    だから町に出られてよかった。
    都会の人は地域を食い物にしてはいけないけれど、地域の人も都市を攻撃することで価値を見出してはいけない。
    過疎化が進む理由のひとつは、この閉塞感への回答がないからじゃないですか。

    と同時に、お金がないと何もできないという無力感が怖くて、就職してないと自分には価値がないんだろうか、と疑問を感じていた時でもあり。
    税金保険料年金の支払いを考えると就職は楽だけど。就職してない人だってたくさんいる。仕事って何?
    というタイミングだったのでちょうど読みたかった内容で面白かったです。

    ただ、3月のライオンで「地位と名誉と金のために」対局に臨む、という発言もとてもかっこよくて心に残っている。
    死ぬ気で、殺す気で書く、ってかっこよくないですか。それは美しく生きる、ってことじゃないですか。

    あと、消費する時は、自分も消費される覚悟をもて、とは思うかな。

    文系の人間は、現代社会で使われている技術をほとんど理解できないので恐怖や嫌悪感を表現しがちだけど、理系の人間は、論理的に理解した上で、ほほう、そんな工夫をするのですね、とかよりよいアイデアもある、とかいった感想をもつのは面白いと思いました。

    最初好きだと思ったのに読みながらだんだん懐疑的になってきたのは、素直にうらやましい、素敵な暮らし、と思えないのは、不安を煽る話し方をする人は信頼できないからかな。
    二項対立が全てじゃないし、急いで答えを出す必要もない。
    でも実験途中なのはみんなお互い様だから、私も勇気をもって、失敗に怯えすぎず、くさらず軽やかに生きていきたいと思いました。

  • 本屋に飾ってあったのを、紙質と活字とその並びの綺麗さで、衝動買いしました。奈良県の東吉野村に移住、障害者の方のための就労支援というカタギの仕事をしながら、自宅を「図書館(本屋ではない)」として解放、イベント、雑誌発行、ポッドキャスト(オムラヂ)をやっている方の日記。
    情報発信している方ならでは、人的ネットワークの広がりが感じられます。都市=経済合理的な行動原理に疑問を感じ、そうじゃない非合理的なところも感じながら生きる日々が綴られています。
    ただ、合理的ー非合理的という二項対立は良くないと言いつつ、たまに垣間見えるのは、都市・金・経済・合理的に対する「そうじゃないよ」という心持ち。「ゴールを決めて意識高く自己啓発」の逆、ユルく、もやっと、頑張らない。。
    そんな文章の箇所に来ると、これはこれで「ユルさ」の「意識高い系」って感じで、またありがちな仮想敵である「都市・合理性」の分析、解像度の低さに「うっ」となります。
    ここに出てくる政治家・編集者への嫌悪や、好きな本など趣味は自分と似てますが、都市に住み暮らしてる自分にとって、どうしても気が合わないのが、この「ユル意識の高い系」という人たち。。途中何回か、ヌルっとしたとこを感じながら、でものんびり読んでしまいました。
    青木さんのいいところは、仕事を持ってるとこ、プロレス好きなとこ、伊集院光好き、ステーキ好き、温泉などなど、結構「俗」なところ。
    この本がほのぼの面白いのは、頭で考える「山学」論でなく、日々の日記=身体性のある記述が中心だからだと思います!
    とても楽しめました。
    「彼岸」本も読みたくなりました。

  • 御書印をもらいに行った三鷹・よもぎブックスに置いてあったので購入した。内田樹氏のツイッターなどで見かけていた人文系私設図書館「ルチャ・リブロ」などの活動を知りたいと思ったので読んだもの。結論としては読む順番が違った模様。こちらは2018年末~2019年の日記と一部まとまった文章で構成されたもの。活動内容を知った人向けのよう。『彼岸の図書館: ぼくたちの「移住」のかたち』を読むのが先のようでした。
    ということで星評価3は暫定的なもの。本の中でも「星〇個で評価することに躊躇いがない感覚は、ちょっと危うい」と書かれていますしね(ギクッ)。

  • 九州産業大学図書館 蔵書検索(OPAC)へ↓
    https://leaf.kyusan-u.ac.jp/opac/volume/1432862

  • たくさん書いてある日も短い文章の日もあって、人が何を残すのか、とても興味深いと感じました。途中からご夫妻で書いてらっしゃるので、同じ日・同じイベントでも、それぞれ書き方が違っていて面白いです。

    個人的には、海青子の長めの文章がすきです。自分の心にスーッと入ってきました。

    真兵さん、淡々と書いてらっしゃるのかと思いきや、だいすきなことや関心のあることは熱い心が伝わってきて、とても良かったです。続編も読みたいです。


    (以前の読書記録は、Twitterで綴っていたものの、アカウントを削除してしまったため省略)


    2022/07/28 p.187-191

    p.187
    “「じゃあ、記憶こそが、人間なのかな?」”
    「その人」と定義するにはどうしたらいいのか、考えることがあります。自分の中では、心と身体、両方そろって「その人」なのでは……とおもいます。
    では、此処で話してらっしゃるように、AIの身体を得たらどうなのか? 死後、自分の記憶はあるけれど肉体はない場合はどうなのか?
    個人的な考えでは、心と身体がそろっている「人」とイコールではない存在だと感じます。同じ思考だけれど、同じ状態ではないから。
    AIや幽霊は「人間」ではないかなぁ……と。

    p.190
    “上りより下りが怖いけれど下りのエスカレーターの方が少ない”
    へぇ……! それは、気づいていませんでした。
    自分の身体は、気にせずとも過ごせるほど恵まれていたのだと感じます。

    p.191
    “どういう時に何故困るのか、何故嬉しいのか等々、経験を通じて自分の状態をつぶさに観察して、その都度言葉にして語ったり、考えていくしかないようです。”
    言語化は重要だと、わたしもおもいます。
    なんとなく感じていたことを、ことばにして再度見つめたとき、以前と違う向き合い方ができます。正誤はともかく。少しだけ、心の整理ができる気がします。

    p.191
    “本を読んでいて「ああ、私が感じていたのはこれに近い」という言葉を、いくつか見つけられることがあります。”
    よく、あります。だからこそ、細かく読書記録を残したくなってしまいます。


    2022/07/29 p.192-193

    p.193
    “うどんと親子丼を食す。はぴねす。”
    いいですね、この表記。“はぴねす”、かわいいです。

    p.193
    “(おくら主任の父。プレイボーイ)”
    ある意味元気なお父さまですね……。


    2022/08/04 p.194-197

    p.197
    “そういう本が売れているということなんだろうけど、売れりゃいいのかね。”
    なかなか儲けるためには厳しい業界で、チェーン店は特に多くの従業員を抱えているから云々……なんて話も聞きますけれども。
    本がすきなひとりの人間としては、ちょっと悲しくなります。本を買っただけなら、何も起こらないですけれど、読んで、覚えて、思考が変わって、行動が変わったら……下手したら国が変わります。
    良い方向に変わってくれるのなら、良いのですけれどね。

    2022/08/14 p.197-198

    2023/01/07 p.198-204

    2023/01/09 p.206-219

    p.209
    “最終ジャッジは就活だ。そこで売れるか売れないかが判断される。売れようが、売れまいが、その責任は「自分自身」にある。”
    しんどいです……。
    働くことがすべてなのでしょうか。働けないと価値がないのでしょうか。

  • 「ひがよ」に移住し図書館を開く夫妻の日誌。
    日々あれこれ働いて、思考して。
    とても「歩いて」いる気がする。
    地に足ついて、何かをきちんと積み上げながら進んでいる。

  • 青木夫妻の日々の様子が綴られた日誌の様な一冊。「彼岸の図書館」の裏側を見せていただく様でした。

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著者プロフィール

青木真兵
1983年生まれ、埼玉県浦和市に育つ。「人文系私設図書館ルチャ・リブロ」キュレーター。古代地中海史(フェニキア・カルタゴ)研究者。博士(文学)。社会福祉士。2014年より実験的ネットラジオ「オムライスラヂオ」の配信をライフワークにしている。2016年より奈良県東吉野村在住。著書に『手づくりのアジール』(晶文社)、妻・青木海青子との共著『彼岸の図書館 ぼくたちの「移住」のかたち』(夕書房)、『山學ノオト』シリーズ(H.A.B)、光嶋裕介との共著『つくる人になるために 若き建築家と思想家の往復書簡』(灯光舎)などがある。

「2023年 『山學ノオト4(二〇二二)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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