危機の時代を生き延びるアートプロジェクト (EDIT LOCAL BOOKS)
- 千十一編集室 (2021年12月5日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (244ページ)
- / ISBN・EAN: 9784991011115
作品紹介・あらすじ
東日本大震災から10年。全国に広がるアートプロジェクトの取り組みから、社会×アートの未来を展望する。災害や感染症、分断や不寛容が広がる中“アートは社会の役に立つ”のか? それとも“今改めて自分を見つめなおすために”アートが必要なのか? 各地の事例から見えてくる、プロセスを重視するアートプロジェクトの可能性。
座談会:芹沢高志×若林朋子×橋本誠×影山裕樹
せんだいメディアテーク/おじさんの顔が空に浮かぶ日/あいちトリエンナーレ/クリエイティブサポートレッツ/ホハル/ココルーム/城崎国際アートセンター/瀬戸内国際芸術祭/水曜日郵便局/BEPPU PROJECT ほか
橋本誠・影山裕樹 編著
石神夏希・中嶋希実・はがみちこ・橋爪亜衣子・南裕子・谷津智里 著
ウェブマガジン「EDIT LOCAL」による、地域と文化について考えるシリーズ「EDIT LOCAL BOOKS」第一弾。
感想・レビュー・書評
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近年の様々な国内アートプロジェクトが起こした効果を具体的に紹介する書。だが後半の対談やコラムでは、この本を作ろうとした動機として、固定化され閉鎖的なアート村や、アートメディアを強く告発するラディカルな内容が明らかになる(特に影山)。
アートプロジェクトにおいてアーカイブは非常に重要な仕事40
「災害ユートピア」災害が起きて社会の秩序やルールが崩壊したとき、人と人との間に優しさが生まれる。信号が壊れた街で人々が自然に譲り合うことになる。が信号が治ったとたんに「我先に」になるー滝沢達史46
墨東まち見世は、戦災を免れた貴重な物件を保存・活用したい。⇔ 外部者が魅力的な物件をカフェやアトリエとしてセルフリノベして活用したい。そんな街の状況から始まった。そこで行われた各種イベントで代々の地元民と新しい住民・参加者のコラボが生まれた。これが今に続くものになる。
このアートフェスの特徴的意義は「元のコミュニティと新たな参入者とのつながりや協働の醸成」である。また都市型アートフェスのありかたとしての事例である62
「たけし文化センター(たけぶん)」深澤孝史が関わったプロジェクト。他者に「迷惑行為」をしてしまうある障がい者個人(たけし)を基準とした場づくり。70
アーティストはクライアントに頼まれなくても勝手にやっちゃう。
コストに対してベネフィットがどれくらいかっていう、デザインやクリエイティブによる社会課題の解決と、アートの持つ問題生成的な方向性は異なる(芹沢高志)211
アートはどうやって作る?私も関われるの?これはアートなの?と一般市民が参加してアーティストと距離感が縮まる。そして市民がアートに親近感を覚える。これがこの15~20年のアートプロジェクトが得た手応え。(若林朋子)214
今は臆面も無く言える。アーティスティックな感覚がなければ、社会デザイン、社会運営、企業経営全部成立しないと自信を持って言える。目先の問題解決に追われるのではなく、本質的な問題は何なのか、発見すべき時なんだ(芹沢)217
現在のアートメディアには問題がある。いまだに、作家個人の作品か、キュレーターや学芸員がキュレーションした企画展としてしかアートを消費できていない(それしか評価軸が無い)。アートプロジェクトのアクターがアート専門家の外に広がっているのに、伝統的な「作品に向き合う」が固定化している。これからはそれら複数のアクターが相互作用を軸に批評、記述していくべき。それが本書を作った理由(影山)219
もはやアートは教養でも道楽でもなく、社会を駆動し、社会構成員一人一人の生き方に作用するOSだ(若林)220
「経済は文化(アートを含む)の僕である」福武総一郎221
ソーシャルエンゲージドアート(SEA)がここ数年で注目されてきたが、それを議論するのはコアなアートファンや学術関係者だけ。市民の様々な動きをホワイトキューブ内の作品の如く批評するような形で捉え、かつ議論を市民に開くことはせず、閉じた業界の中のみで議論している。アートメディアも芸術祭主催者の「完成後のプレスツアー」のみ参加して記事を書いている、これにも責任がある(影山)229
作品批評というエコシステムからはみ出し、社会に実装されうる「アイディア」を投げかけるプロジェクト、それがアートプロジェクトという概念の持つ可能性の中心(アートプロジェクトの本質)だ(影山)236詳細をみるコメント0件をすべて表示