第三の新人で、いつか読みたかった人。前半は海を舞台にした話が三つ並ぶ。とくに芥川賞受賞作の「海人舟」が印象的で、読み終わったあとにすぐ選評を読んだ。選評を読みたいがために本作を読んでいるまである。
選考委員の一人に途中から結末が分かってしまうといわれている。それでも海へひたすら飛びこみつづける青年が、最後恋する女性に結婚を受諾されたときに「おら、ナギやんと結婚したかったんだった。そんでそのために村一番の漁師になろうとして、こんなに苦労していたんだっけ」と自分が今どこにいるのか分からなくなっている姿は印象に残った。
海に男女がいる話というのをこの話を読みながら思い出した。コレットの「青い麦」やマラマッドの短編の一つ(名前は忘れてしまった)。海に男女というのはどうも画になるらしい。
後半二作が妻を題材においた私小説で、これがとてもよかった。やはりこういうものに心を打たれる。とくに「職人」で最後に寿司職人が主人公宅に寿司を作りにくる場面は沁みた。寿司職人は妻が亡くなって一年経ってからやっと意を決して主人公宅を訪問する。今までに見たことのない場面だったけれど、なんだかよかった。