カミュ全集〈7〉十字架への献身・精霊たち・夏 (1973年)

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  • カミュといふ人間の軌跡を辿つていくと、彼がいかにひとの死や戦争といふものに対して、作家の使命を果たさうとしたのか、思ひ巡らせられる。
    共産主義の夢が崩壊し、ファシズム同様の残虐性を目の当たりにした彼は、さうした残虐性に肯りとする時代に対して、ことばでもつて、精神の力でもつて、反抗をしたのだ。
    自分の命が他人の命で償われなければならないといふところや、さうまでして反抗しなければならないといふところが、反抗的人間をはじめとするこれまでの作品を読んでいて、煮え切らないでいた。
    しかし、さうまでしないとどうしようもないくらい、世界は二度の大戦を経ても何も変らなかつたのだ。フランコ将軍率いるスペインは何事もなかつたやうにユネスコに加盟する。限界を重ね合せ、互ひの限界を知るところに自由といふ不自由があることも知らず、未来はきつと変はる、あるひは現在こそすべてなどと、能天気なニヒリズムと楽観論が叫ばれる。
    作家として、ことばを職の使命とする彼が声をあげなければ、無数の反抗する精神は埋もれてしまふと感じたのだらう。
    存在とは実体であり、観念である。思想といふ観念もまた、実体である。未来は現在ではない以上存在しないが、未来といふことばがあるのは確かな実体である。自由とは、自由といふことばの制約を受ける不自由である。これだけの話がなぜこれほどまで彼を孤立させるといふのか。精神のバトンは引き継がれるといふのに、なぜ、そのやうな人々は個々にバトンを引き受けてしまふのか。生きる哀しみと、そこに存在する可能性の無限は未だ息づいてゐる。生命の眩い輝きこそ、彼の太陽だつた。

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