オールディスの『グレイベアド』が面白かった。
子どもが生まれなくなり、少しずつ朽ちて行こうとする人間社会。その点在する集落を渡り行く夫婦の旅路は、度重なる困難に対する疲労感に覆われている一方で、そこから引き出される生の実感が原動力となり、決して悲観的になりすぎない力強さを生み出していた。
とはいっても、この作品で印象的なのはやはり、子どもも若者もいない世界の荒漠としたイメージである。その空虚感は、私たちがいかに「子」というものに「未来」そのものを重ね合わせて見ているかを知らしめてくる。
次代がいない――ただそれだけで、時の歩みは、少しずつ死へと近づいていくだけの無味乾燥なものとなってしまうのかもしれない。かろうじて生まれてきた奇形児に対する、大人たちの身勝手な嫌悪や期待を、醜いと思ういっぽうで何となく理解できてしまうような気もした。
主人公の灰色ひげは、旅のときどきで己の過去を遡るように回想する。旅を続けているうちに徐々に原点に立ち返っていくかのようなその構成を、とても良いと思った。目の前に広がる緩やかな破滅だけを見させられていたら、きっと気持ちが萎えてしまっただろうから。
全てが衰えたとしても、思い出だけは必ずしも衰えない。自らの足跡を一つ一つ確かめるように思い返すことで、灰色ひげは理性的な思考を手放さず確実に前へ進んでいけたのだと思う。そうした意味でも、回想描写の持つ意義は大きかった。
この作品で気に入ったところとしては他に、登場人物が全員憎めないと感じたところにある。インチキ教主のジンガダンジロウは特に、その奇天烈な名前を含め道化じみた言動とその奥底にある孤独、強烈な自我が濃いキャラを作り上げていた。主人公とは異なる方向で世界に適応しきろうとするその在り方は、まさに好対照というべきだった。
ラストは結局拉致したみたいで若干しっくりこなかったけど、おおむね希望のある終わり方だったのでほっとした。
バラードの『結晶世界』は発想ありきといった感じであまり面白くなかった。
あらゆる物質が結晶化していくという美しくもおぞましい光景に全ては集約されており、ストーリー自体が弱いので読み進めるのがだるかった。割り切ったドライな男女関係や、森の中を延々と歩きまわる描写など、全体的にあまりにも淡々としすぎていたのが特に辛かった。