ウナギ 大回遊の謎 (PHPサイエンス・ワールド新書) [Kindle]

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  • PHP研究所
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  • ウナギの話であると同時に、研究者の半生記であり、仮説を元にフィールドで実証に至る科学のプロセスを解説した本。著者40年の研究生活を贅沢に素材にした一冊だ。

    ここまで金を使った大規模な研究が行われるのも、みんな大好きなウナギだからだろう。報道でも産卵場発見は知っていたが、そこに至るプロセスにこんな紆余曲折があったとは。

    電子書籍(SONYのReader)で読んだのだが、図表で見にくいものが一部あったのが残念。


    <blockquote>
    太古の昔に、必ず起こったであろう最初の出来事:元いた環境からのランダムな脱出⇒回遊
    脱出行動に走る魚の動因レベルを上げたもの・・・不適な水温、塩分、溶存酸素、pHなどの物理化学的な環境要因や、捕食者の存在、餌不足、個体密度の上昇などの生物要因

    「通し回遊」には、三つのタイプがある。
    ・サケのように産卵のために海から川を上がってくる「遡河回遊」
    ・ウナギのように産卵のため川から海へ下りていく「降河回遊
    ・アユのように産卵とは無関係に海と川を行き来する「両側回遊」
    個体は成熟に伴って生理、生態、形態、行動などあらゆる面で大きな変化が起こる。だから回遊現象を研究する場合には、成熟はむしろノイズとなるおそれがある。両側回遊がそのノイズが少ない。

    「小アユの仔どもは早期孵化群で、これは翌年、早期溯上群になり、大アユになることになる。一方、大アユの仔どもは晩期孵化群になるので、湖中に残って小アユになるはずだ。世代が替わるたびに大アユと小アユが交代することになってしまう。」・・・著者の初めての大発見

    人間が行う様々な放流事業は、現時点では天然の再生産力に遠く及ばず、天然の再生産を高める努力をするのが最も効果的だとわかった。いわば、ぐるっとひと回りして、最後は平凡な結末になるという「ねずみの嫁入り」のような結論になった。

    海と連絡のない山上の池が干上がったとき、自然に湧いてきたとしか思えないくらい大量のウナギが出てくることがある。・・・粘液に覆われていて皮膚呼吸をするので、水がなくても長時間行動できる

    シラスウナギを養殖すると、ほとんどが雄になる。したがってわれわれが蒲焼きで食べるウナギはほとんどが雄といってよい。・・・ウナギの性は遺伝子レベルで分かれているが、それがどう発現するかに環境が影響を及ぼしている。

    この結果から、多くのウナギはその一生を海や汽水域で暮らし、淡水に溯河するものはむしろ少ないと考えたほうがいいかもしれない。

    シュミットの産卵場発見の話があまりにも有名なので、サルガッソ海ではとっくに卵や親ウナギが採れているものとほとんどの人が思っている。しかし、実は、まだ卵も親ウナギも採集されていない。数百万平方キロもの広いサルガッソ海のいったいどこでウナギの産卵が起こっているのか不明。・・・大西洋のウナギの研究状況

    本格的なグリッド・サーベイが取り入れられたこと、地衡流計算を行うことで海流の向きと強さを測点ごとに比較できたこと、そして耳石による日齢査定により孵化後日数がわかるようになったことなど、後の産卵場調査の発展の基礎はすべてここにあったといえる。

    つまりどこにレプトセファルスがいて、どこにいないかという分布がはっきりわかった。ネガティブデータがあったから、ポジティブデータが活きたのである。それまでは、ともすればレプトセファルス(ポジティブデータ)をとることに執心し、ネガティブデータをとるために貴重な船の時間(シップタイム)・・・ネガティブデータを取ることの重要性。

    つまり、ウナギのそもそもの起源は熱帯にある。その地はおそらくボルネオ島付近の深い海で、ここに暮らしていた中深層性のウナギの祖先から、川に入って成長する、いわゆる「降河回遊性」のウナギが出てきたようだ。ボルネオウナギやセレベスウナギの産卵場が陸地から数十キロ程度しか離れていないこと・・・
    簡単にいうと、ウナギはその産卵場を常に熱帯域に保持し続ける一方で、レプトセファルスの分散輸送によってその成育場が温帯域まで拡がったために、徐々に回遊距離が拡大していった。その結果、温帯ウナギに見られる数千キロもの大回遊が成立したものと考えられる。

    話をニホンウナギの産卵場調査に戻そう。「なぜ卵や孵化直後のプレレプトセファルスは採れないのか?」  冷静になって考えてみると、その理由は、その時期のウナギが高密度で集中分布していることにつきる

    海山域に生じた磁気異常、重力異常、流れの乱れ、特別な匂いなど、何らかの特異な条件を指標として、ウナギは自分たちの産卵地点を知るものと思われる。・・・まだそのメカニズムは分からず。

    新月のいっせい産卵は、受精率を高め、真っ暗闇の夜は被食を減らすので有利といえる。さらに、新月の大潮の速い流れは、受精卵や孵化後のプレレプトセファルスの拡散を促進し、被食の危険を減らす。

    航海が替わると乗船研究者も替わり、ソーティングのテーブルにつくメンバーも大部分未経験の新人に替わる。それでもプレレプトセファルスを採ったという経験は白鳳丸の中で伝達・継承され、こうすれば必ず採れるという自信は、シャーレの中の糸くずのようなプレレプトセファルスも見逃さない・・・経験と自信による「眼力」みたいなものが大事とか

    ニホンウナギという種が産卵に使う「産卵場」という海域が、ある広がりをもって西マリアナ海嶺に存在し、その範囲内で年により、月により実際に産卵が行われる「産卵地点」が選ばれる。カイヨウポイントの親魚発見は、ニホンウナギの推定産卵場の範囲を緯度にして1度(111km)ほど南に広げた。

    これは異種のウナギが同時期に、ほぼ同じ場所を産卵に使っていたことになる。  ハイブリッド(交配種・雑種)はできないのか? どのようにそれぞれの繁殖相手を区別しているのか? 種に特有のにおいがあり、新月の暗がりの中でもしっかり種の判別ができるのであろうか? 様々な疑問が湧き起こる。

    多分水深二〇〇メートル前後で産卵が起こり、その卵は海水より軽いため、一日半かけて発生しつつゆっくりと浮上し、海水の密度が大きく変わる温度躍層の上部一六〇メートル層に集積したのだろう。  産卵水深が約二〇〇メートルと推定できたことで、従来、漠然と信じられていたウナギの産卵が深海底で

    エルニーニョが起こると、塩分フロントが南下することが知られているが、最近のエルニーニョの頻発が塩分フロントの南下に伴う産卵地点の南下をもたらしているのかもしれない。このサザンシフトはレプトセファルスの輸送とシラスウナギの東アジアへの加入に大きく影響し、資源変動の重大な要因となる。・・・中長期的な乱獲と短期的(?)な気候変動のコンビネーションで近年の資源減少に

    こうして下りウナギの保護が実現すると、カンフル剤のように比較的短期間で効果が期待できる。シラスウナギ一匹と下りウナギ一匹の資源回復に対する効果は全く違う。脂ののった下りウナギを賞味するのを楽しみにしている人もいるが、人数はそれほど多くない。・・・資源保護のためには養殖ウナギを食べようと。

    現在、ウナギの放流事業については十分な検討のないまま、放さないより放したほうがよいだろうとの暗黙の了解で進んでいる。</blockquote>

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著者プロフィール

東京大学名誉教授・前日本大学教授

「2019年 『ウナギの科学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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