一人語り調の本を読んだ。ここ数年ぐらいは読んでなかったなと思う。
そもそも一人語りは周平に限らずとても珍しいと思うけどね。これの難しいところは、相槌と物語の流れの持っていき方だと思う。
もっていくこと自体は簡単だけど、わざとらしさがつきまとう。言われたことを自分で復唱しなければ、読み手はどんな会話がされてるのか分かんないからね。「生まれはどこだって?ずっと北だって言ったじゃありませんか」「え、面白いって?旦那も物好きですねぇ」みたいな、繰り返さないといけない。
日常だったら延々とそんな会話が成立するわけがない。
そんなわけで「闇の穴」
語っているのが色を売ってる飯盛り女だからか蓮っ葉な口調が小気味いい。
前述した違和感を感じさせないのは流石、藤沢周平。女が酌をしながら身の上をつらつらと話しているんだけど、内容的にはヘビーなのに一切悲壮さがないのがいい。
もう十数年前にもなるけど、旦那がけがして仕事があまりできなくなったから、内緒で身体を売って食いつないだときがあったと。
秘め事にむしろ興奮していたが、ひどい家鳴りがやまなかったある晩、もしかして男がついに家にまで押しかけてきたんじゃないかと。不安と高揚で悶々としていたけれど結局来ない。
翌朝、家を出ると男が何者かに殺されていた。死体は凄惨極めていたから獣のしわざか、もしかして夫なんじゃないだろうかとも思ったけど証拠もない。
翌年のある晩にまったく同じ家鳴りの現象が起きた。そのとき何故か誰かが家に押し入ってきて犯されるんじゃないかと思ってしまい、その想像で濡れに濡れまくってたけど、やっぱりそんなことはなく。
朝になると家の前で今度は旦那が死んでいた。
その死体はあの男と同じで全身を深く引き裂かれていた…的な話。
なにそのホラー。
夫も死んでしまった冬が終わり春が来た。荷物をまとめて村を出ようとした日、最初に死んだ男の家の前に誰かが一人立っていた。顔を知らないのではっきり分からないが、きっとあの男の奥さんに違いないと思ったらしい。口元は奇妙に笑っていて、こちらを見る目は憎悪に満ちていたから。
超こえーーーーよ。
普通に考えたら、その奥さんが男ふたりを惨殺した犯人っぽいけど
そうは思わなかったらしい。
自分の中にある淫蕩の血が、その晩に"得体のしれないなにかよくないもの"を呼び寄せてしまい、あの二人はそれに殺されてしまったんじゃないか、と。
ある意味でそれは当たっていると思う。
人の中の怪物を起こしてしまったんだなー。
冒頭の場面からはこういうテイストの話になるとは、まったく予想しなかったから少し驚いた。
面白かったっていうよりもホントに新鮮で引き込まれた。
読み終わってから「おおーっ」となったね。