医科大学出身で国立長寿医療研究センター研究所所長の著者が、高齢化に伴い表れる症状や今後の日本社会の展望について論じた入門書。著者が医学出身であるだけに、医学的なデータを論拠にしている点が良い。
著者によれば、「高齢者」といっても75歳未満と75歳以上で内容が異なるという。75歳未満は疾病予防に重点を置き、75歳以上は介護予防に重点を置くことが重要とのことであった。しかし、我が国では後期高齢者制度における健診を「努力」義務としたことで国民の反感を買った。著者が論拠とするデータでは正しい方向性であったのだが、国民のコンセンサスは得られなかった。国民の反感を煽るかのような報道をしたマスコミに責任があり、また個人で正しい選択ができなかった国民にも責任があると言える。
今後、高齢者の数は増えてくる。我が国は、先進国の中でも最も早く少子高齢化が進行している。だからこそ、9割の人が病院で死ぬという現状を打破しなければならない。著者は、在宅医療を推し進めている立ち位置であったが、それが全て正しいとも言っていない。病院で最期を迎える選択肢も残しておくべきだとも言っている。医療費や病床数の問題もあるが、その観点だけで「死」を論じるのは発想が貧困なのだろう。医療、保健、福祉の立場からターミナルケアを考えること、また一人ひとりが死について考えること――著者が本書で伝えたかったのは、今まさにそういう時期であるということだろう。