愛着障害~子ども時代を引きずる人々~ (光文社新書) [Kindle]

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  • 「愛着障害」という概念に関心が向き、本書を手にした。

    幼児期に、適切な親子関係(特に母子関係)をもてなかった子は、「愛着障害」に陥るという。「愛着障害」に陥ると、親子関係(母子関係)を含む対人的なコミュニケーションに支障をきたすようになる。さらには生活にも支障が出てきて、その修復が困難な状況に陥る。

    幼児期、とりわけ生後6か月~1年の間の母子関係は重要な意味を持つようで、例えばその期間に母親に「抱っこ」されるかされないかで、大きく左右されるようである。

    この期間に、その子の生涯に影響を及ぼす「愛着スタイル」というものが出来上がるということだ。健全な母子関係の時期を経験できた子は、「安定型」の愛着スタイルを獲得できる。いわば自立的に成長する。

    しかし、この期間に健全な母子関係を経験できなかった子(例えば、母親を亡くしたり、あるいは母親からネグレクトされたり、あるいは母親から虐待されたりというような経験をした子)については、「不安型」の愛着スタイルとして成長したり、「回避型(愛着軽視型)の愛着スタイルとして成長したりすることなる。

    「不安型」「回避型」は健全な成長の仕方ではない。それぞれの特徴について次のように述べられていた。

    ◆不安型
    ・人に嫌われていないかが気になる
    ・拒絶されたり、否定されたりすることを恐れる
    ・相手に逆らえない(迎合的)
    ・人にもたれかかる(→支配する)
    ・過剰確認行動がある(自分が愛されていることを過剰に確認する)
    ・ネガティブな感情を言葉に出す
    ・不満をパートナーにぶつける

    ◆回避型
    ・共感が難しい
    ・他人事と考えてしまう
    ・冷静で客観的という良い面もある
    ・人から頼られることは面倒に感じる

    本書で最も重要なキーワードは「安全基地」というワードであると感じた。上記の幼児期の重要な時期に、母親の中に心の拠り所(これを「安全基地」と表現している)を見つけることができた場合には、健全な愛着スタイルを構築できる(安定型スタイルとなる)。

    しかし、そうでなかった場合には、その後も母親や近親者や、あるいは身近な人たちの中に、「安全基地」を求め続け、それが確立できない限り、常に「不安型」スタイルの生き方となる。

    あるいは、愛着そのものを捨て去り、「安全地帯」を欲することなく、回避型スタイルを選択して生きることとなる。

    ここでいう「安全基地」とは、次の5つの要素を備えるものである。
    ①安全感の保障
    ②感受性(共感性)
    ③応答性(相談できる)
    ④安定性(一貫している)
    ⑤なんでも話せる

    「愛着障害」に陥った人たちを救出するには、その人の中に「安全基地」を構築することであるという。

    本書の特徴として、多くの作家をはじめとする著名人が、「愛着障害」であったという分析を紹介している。著者は精神科医であり、心理療法家であるので、あるいは歴史上の人物の経歴などから、「愛着障害」であったと判定されたのかもしれない。

    川端康成、夏目漱石、谷崎潤一郎、太宰治、ヘミングウエイ、ヘルマンヘッセ、、ミハイルエンデ、ルソー、釈迦、スティーブジョブズ、ビルクリントン、ルソー、ショーペンハウアなど、並居る人物が「愛着障害」であったと紹介する。

    いま「愛着障害」で生きづらさに苦しむ人たちも、才能を開花させる時期が来るということの証拠であると信じたい。

  • ■愛着行動(ジョン・ボウルビィ)
    ・愛着の絆で結ばれた存在を求め,そのそばにいようとする行動
    ■愛着スタイル
    ・パーソナリティの土台となる部分を作り,その人の生き方を気付かないところで支配しているのが愛着スタイル。
    ・愛着スタイルは恒常性を持ち特に幼いころに身に付けたものは7,8割の人で生涯にわたり持続する。
    ・生まれ持った遺伝的天性とともに,ある意味,第二の天性としてその人に刻み込まれる
    ■大人の愛着スタイル
    ①安定型(自律型)
    ・怒りを表す場合,建設的な目的に向けられ,相手を全否定するのではなく,問題解決のために焦点を絞ったものとして発せられる
    ②不安型(とらわれ型)
    ・怒りを表す場合,相手を精神的,肉体的に痛めつけることに向けられがち(非機能的怒り)
    ・傷つけられたことに長く囚われ続ける
    ・過剰な反応をしやすく思い込みが激しい
    ・一度に何もかも話さずにはいられない衝動に駆られ性急な告白をしてしまいがちで相手と対等な関係を築くことを妨げやすい
    ③回避型(愛着軽視型)
    ・ドロドロした恋愛を嫌い淡泊で相手との絆を何としても守ろうとする意志や力に乏しい
    ・パートナーの痛みに共感することが難しい
    ・自分を開示することに慎重になり過ぎお膳立てが整っているのに足を踏み出せない
    ■反応性愛着障害
    ①誰にも愛着しない警戒心の強い「抑制性愛着障害」
    ・幼い頃に養育放棄や虐待を受けたケースに認められやすい
    ・自閉性すペクトラムと見分けがつきにくい場合もある
    ②誰に対しても見境なく愛着行動がみられる「脱抑制性愛着障害」
    ・不安定な養育者からの気まぐれな虐待や養育者の交替により愛着不安が強まったケースにみられやすい
    ・多動や衝動性が目立ちADHDと誤診されることもしばしば
    ■愛着スタイルは遺伝的要因よりも養育環境の影響が大きい
    ■否定的な評価を受けて育った人はどんなに優れたものを持っていても自己否定の気持ちを抱えやすくなる
    ■親から受け入れられ評価されることで,子供の自己肯定感は高まるだけでなく,親を「安全基地」として支えにすることができ,安心感を高め,他人との関係においても生産的で前向きな関係を結びやすくなる
    ■子どもの健全な成長と精神の安定のためには,何よりも母性的な没頭が必要(ウィニコット)
    ■子どもが4歳未満の時に父親が死亡したり離婚していなくなった場合,子供には愛着回避,愛着不安の傾向がともに有意に高く認められる
    ■愛着は心理的のみならず生理的な機能の発達にも関与しており,愛着障害の人はしばしば神経過敏で,自律神経系のトラブルにも見舞われやすい。
    ■愛着障害の人は全か無かの二分法的な認知に陥りやすい。好きか嫌いかがはっきりし過ぎていて,嫌いな人にも良い点があるということを認められない。
    ■愛着障害の人は全体的な関係や視点ではなく,部分に分裂した関係や視点に陥りやすい。相手からどんなに恩恵を施されても,一度不快なことをされれば帳消しになって相手のことを全否定してしまう傾向(部分対象関係)
    ■「部分対象関係」から「全体対象関係」への発達が損なわれている
    ■独創性や革新性をもたらす思考や行動は親という安全基地を持たないということと深く関係しているように思える
    ・親という安全基地は,しばしば人を縛り付けてしまい,親の期待や庇護という「限界」にとらわれてしまう
    ・親が設定した「常識」や「価値観」にがんじがらめにされ常識的な限界を超えにくい
    ・創造する者にとって愛着障害は殆ど不可欠な原動力
    ・創造的な人生の原点にあるのは,既成の価値を否定しそこから自由になろうとすること
    ・内部に不安定な空虚を抱え,常識的な行動によっては満たされないものがある源を遡れば愛着の傷に行きつく
    ■愛着スタイルが対人関係から健康まで左右する
    ・対人関係に本質的ともいえる影響を及ぼすだけでなく,内面の在り方や,自己コントロールの仕方,ストレスに対する敏感さにも反映される
    ■愛着障害の人に見られやすい犯罪行為の代表は万引きや盗み
    ■愛着不安が強過ぎる故に親しい人が自分のもとを離れていくというのは愛着障害の人が辿りやすい悪いパターン
    ■良い安全基地になるための条件
    ①安全感を保証すること
    ②感受性(共感性)
    ・何を求めているかを察し,それに共感すること
    ③応答性
    ・相手が求めている時に,応じること
    ・「相談できる」「守ってもらえる」
    ④安定性
    ・一貫した対応をとること
    ⑤何でも話せること
    ■愛着障害の修復過程は,ある意味,赤ん坊の頃からやり直すこと

  • 太宰治、谷崎潤一郎、川端康成、夏目漱石など著名人の愛着スタイル分析が面白かった。両親の顔色を伺って育った私は両価型で、おそらく弟は回避型。自分の中に安全基地を作るために日々学んで実践していきます

  • 驚いたこととして、安定した人は人に頼るのも上手、頼られるのもOK、人は自分のことを好いてくれていると信じられるということ。頼るのも頼られるのも嫌いで基本人間関係は一時的なものと思っている私にはそれが愛着の障害によるものだということが分かって逆に良かった。私の性格が悪いせいではなかった。
    虐待まではいかないが子供の頃の家庭環境に疑問があって、今生きづらさを感じる人は読んでみるとその原因が見えてくるかもしれない。

  • 自分の現在の行動が小さいときの親とのかかわり方で大きく影響を受けていたことに改めて納得。そんな気がしたから子供とはべったりスキンシップを取るようにした。でも大きくなってどうなったかはいまいちわかりません。ただ、原因がわかってもいまさら親は死んでいないから、どうしようもない!ただどうして自分の行動がそうなのかがわかって安心したような気もしました。
    実際、これを治すのは至難の業。今の心理学・精神科・心療科では難しいだろう。ムダ金を使うことになるだろう。サイエントロジーのセッションかな?

  •  成人愛着面接について知りたくて読んだ本。
     愛着に関する理論・タイプ・障害・対処法が網羅してあり、内容は充実していると思う。エピソード付きでわかりやすい文章なのでスラスラ読めた。
     しかし、何でもかんでも愛着で考えてしまうのは誤解を生むような気もした。

  • 毒親育ちの自分のこれまでの悩みが全て「愛着障害」から来ていたことが理解できた。

    人にうまく伝えられない。自分の意見は言ってはならない。意見が対立すると排除されると言ったことは過去の親から受け入れてもらえなかったことから来ているのだと知り、周りと違うのは自分がおかしいのだと自己否定していた自分を少し受け入れることに繋がった。

  • とてもわかりやすいないようでした。
    私や家族の理解につながりました。

  • 著名人の実例を並べたもの

  • 発達障害や精神障害とはまた別方向に、愛着障害というアプローチで今に困難を抱えるケースを考えていく本。
    夏目漱石やヘミングウェイなど、馴染みが深い偉人たちの人生を引いて解説していくため、非常にわかりやすい本であった。
    エピソードが豊富に引用されており、単なる読み物としてもかなり面白い。

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著者プロフィール

岡田尊司(おかだ・たかし)
1960年香川県生まれ。精神科医、作家。東京大学文学部哲学科中退。京都大学医学部卒業。同大学院医学研究科修了。医学博士。京都医療少年院勤務などを経て、2013年より岡田クリニック(大阪府枚方市)院長。日本心理教育センター顧問。パーソナリティ障害、発達障害、愛着障害を専門とし、治療とケアの最前線で現代人の心の問題に向き合う。著書『悲しみの子どもたち』(集英社新書)、『愛着障害』『愛着障害の克服』(いずれも光文社新書)、『愛着アプローチ』(角川選書)、『母という病』(ポプラ新書)、『母親を失うということ』(光文社)など多数。

「2022年 『病める母親とその子どもたち』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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