甘い罠―小説 糖質制限食 [Kindle]

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  • 東洋経済新報社
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  •  糖質制限に関しては、かなり読み込んだ。そして、実際体験した。なるほど、余分な体重がおち、体が軽くなった。さまざまな糖質制限の商品開発にも取り組んだ。そして、説明した。でも、何か、言い表せないものが残っていた。雲南省にいたときは、ご飯が美味しくないので、食べないと言う選択肢はあった。しかし、日本に来て思ったのは、ご飯って美味しいと言うことだ。よくぞ、こんな美味しいモノがあるのだと感心した。コメには日本人の知恵と経験の伝統が集約されている。
     主人公は、料理研究家の水谷有明。25歳の時に和食に関する本を出版して、人気を集めている。日本食レストランのメニュー開発を、大型スーパーマーケットを運営するオゾングループより依頼される。水谷有明の父親は、冷凍食品を販売するキョウレイ食品の企画開発をしている。「手軽に鉄人シリーズ」の和食を担当している。
     有明は、オゾングループの契約農家を見て周り、それを材料とした和食のメニューを作るのだ。オゾングループは、地産地消を掲げ、原則80キロメートル以上の物流を避けて、その地域にある農業と共に共存したいと考えていた。地域にはいろんな料理があり、それを掘り起こすことを考えていた。
     オゾングループの和食レストランを企画するのが、八牧英二。山形県の西根の農家の出身。西根ほうれん草が有名だ。なにわ伝統野菜の服部白瓜と言う特産品を使ったあんかけ焼きそばがヒットして、英二は抜擢された。八牧英二は農家の思いを大切にしたいと思って企画する。国産の野菜が美味しいと思って欲しいと思っている。
     水谷有明の父親が、どうも重度の糖尿病である様子なので、料理療法をする池辺クリニックを紹介したら、医者嫌いだった父親が、医師の意見を受け入れてその食事療法を実践して、糖尿病を脱し、体重も減り健康になった。その食事療法は、糖質制限だった。米などの炭水化物を控える食事法だ。
     和食の根幹は、お米をいかに美味しくいただくかにあるが、それを真っ向から否定される。
    人類が生まれて400万年、農耕が始まったのが1万年前。炭水化物を得られるようになったのは、人類史から見れば、ほんのわずかな間だ。炭水化物が手に入らない時代は、肉や果実、キノコなどを食べていた。糖質こそが、生活習慣病を作り出したと父親が言うので、糖質制限の本を片っ端から読み、ケトンが重要であることを有明は知るのである。
     そのようなことを、オゾングループの社長である城田に説明する。城田が、水谷有明を採用した人だった。城田は、その炭水化物を人間が得ることによって、哲学や宗教や文化が生まれた。糖質で人類が滅びるならば、それを違った道を見つけるのも必要だという。著者は、佛教大学のセンセイでもあるので、仏教の視点から食を考えた考察があるのがおもしろい。
     日本食が、世界遺産に加えられたと言うことは、それを支えた農業や漁業があるからできたのだとも痛感する。日本のコメ文化は、さまざまな形態で発酵し発展した。城田は、水谷有明と師匠の呉竹定一と昼ごはんメニューで対決する。呉竹は、塩麹味の玄米栗ご飯、白味噌をつかったほうれん草のおひたし、粥のあんかけ鱧入り蕪饅頭、米油かけ冷奴、麹味噌の味噌汁を出す。コメをフルに使う。水谷有明は、コメを使わない料理を出す。結果として有明は負けてしまうが、城田はいい経験だと言って引き続き有明に和食レストランメニューづくりを担当させる。ふーむ。城田の経営感がおもしろい。
     糖質制限について、くどくなくサラリと提起するのが、気持ちいい。新鮮で美味しいものを食べることで、本当の味を知ると言うのは重要なことだ。糖質制限をした和食というテーマもいいな。

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著者プロフィール

鏑木 蓮(かぶらき・れん)
1961年京都府生まれ。広告代理店などを経て、92年にコピーライターとして独立する。2004年に短編ミステリー「黒い鶴」で第1回立教・池袋ふくろう文芸賞を、06年に『東京ダモイ』で第52回江戸川乱歩賞を受賞。『時限』『炎罪』と続く「片岡真子」シリーズや『思い出探偵』『ねじれた過去』『沈黙の詩』と続く「京都思い出探偵ファイル」シリーズ、『ながれたりげにながれたり』『山ねこ裁判』と続く「イーハトーブ探偵 賢治の推理手帳」シリーズ、『見えない轍』『見えない階』と続く「診療内科医・本宮慶太郎の事件カルテ」シリーズの他、『白砂』『残心』『疑薬』『水葬』など著書多数。

「2022年 『見習医ワトソンの追究』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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