八甲田山死の彷徨(新潮文庫) [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • 冬山に登りたくなる。(一瞬ね。)
    寒かったんだろうなぁ。。。。

  • すごく面白かった。
    時代背景とか日露戦争とか、もっと触れてくる内容かと思ったけど
    シンプルに八甲田山雪中行軍のことだけだった。

    坂の上の雲と時代が同じだから、坂の上の雲のサイドストーリー読んでるような気分にもなってきた。

  • まさに「死の彷徨」。圧倒的に引き込まれる作品である。
    死の臨場感、白雪の海に溺れる描写、息継ぎの隙はなく、ただただ厳しく想像を絶する死の世界、八甲田山が目の前に突きつけられる。究極な状態におかれた際、人はどのように振る舞うのかひたすら畳み掛ける展開に、本を置くことができない。
    八甲田山と対比して描かれる、そこへ挑戦する軍人の世界にも考えさせられる。現場指揮官の苦渋、立場。そこに同情は禁じ得ないも、一方で死は階級による格差を伴って訪れたこと、いわんや死して尚、階級の別が存在する現実もまた語られる。
    究極的には人体実験であったこと、それを無責任に事実上強制した組織の横暴、またそれを取り巻く当時の社会の空気、次なる戦争に突き進んでいった日本の陰を垣間見ることができる社会派小説であると同時に、やはりそれ以上に、死ぬほど厳しく壮絶な山、自然の存在、それに対峙する人間の無力さを痛感させられる山岳小説の傑作である。

  • 実際にあった旧日本陸軍の八甲田山雪中行軍遭難事件を下敷きにした小説。扱っている時代は違えど、太平洋戦争での敗北を組織論の観点で分析した『失敗の本質』とセットで読むと面白いのではと感じた。


  • 八甲田山へ旅行する前に読んだ。
    少々昔の作品とは思えないほど読みやすい文体だった。大変面白く、読書スランプに陥っていた自分でもすらすらと読めた。そして陸奥湾から十和田湖周辺にかけての地理に詳しくなった。笑
    ここに書かれている内容は事実もあればフィクションもあるだろうが、一つの読み物として大満足。

  • Wikipediaの記事でも有名な、日露戦争前に起こった八甲田山雪中行軍遭難事件のドキュメンタリー小説。人物名は異なっているものの、史実に従っている。雪中行軍に対する理解の浅さ、専門家(この場合、地元の人)の意見の軽視、気合や根性に対する過度な信頼、計画性の欠如、過度なトップダウンでの意思決定等が重なり、行軍は悲惨な結末を迎える。リーダーシップの大切さについて勉強させられる

  • 日露戦争を控えた、陸軍による雪中行軍の話。陸軍の組織体質による弊害が気象をも無視した行軍につながった。八甲田山に行く機会があれば、関連箇所をおとづれてみたいと思う。

  • 日露戦争直前に、実際に発生した八甲田山での遭難事故を題材にした山岳小説。登場人物名は実在の名称から変更されていますが、ほぼノンフィクションと捉えて良いと思います。
    日露戦争を見据え、雪中行軍の経験を積む目的で冬季の八甲田山を舞台にした演習が立案されます。同じ師団に属する第31連隊(指揮官:徳島大尉)と第5連隊(指揮官:神田大尉)がその任務にあたりますが、両部隊の任務に対する姿勢は非常に対照的です。
    行軍参加メンバーを少数精鋭とし、行軍参加部隊の指揮の全権を徳島大尉に委ねた第31連隊。徳島大尉は慎重を期し、行軍の全てのルートで山岳ルートに詳しい地元民を先導役として参加させました。
    神田大尉も同じ姿勢で行軍計画を立案しますが、その上官は第31連隊へのライバル心から「同じやり方は好ましくない」とし、200名を超える大人数での行軍を指示。さらに「実戦となれば、案内役は不在」との理由から、地元民の先導役の参加を許しませんでした。さらに指揮権を神田大尉に与えておきながら、その上官が随伴し、結局は途中で指揮権を神田大尉から実質的にはく奪して混乱を発生させました。
    結果として、第31連隊は全員が予定のルートを踏破するのですが、第5連隊はほぼ全員が凍死するという悲惨な結果を招きます。
    事を構えるに際し、合理的な準備や判断が重要であることを示唆しているのはもちろんですが、本書はそれだけではなく、第5連隊の神田大尉のキャリアも微妙に影響があった事に触れています。当時の軍隊は、士族・華族出身者が幹部となる事が多いのですが、神田大尉は平民出身でした。指揮権を途中からはく奪しようとした上官(士族出身)に対し、遠慮があったのではないか、と分析しています。著者は気象に造詣の深い新田次郎です。極寒の八甲田山の山中がいかに厳しい寒さであるのか、リアルにかつ、余分な脚色なく冷静に描いています。さすが長年読みつがれている(文庫だけでも私が手にしたのは第98刷!)だけの内容だと感じました。

  • 読んでいて途中から心臓がばくばくした。
    徳島大尉を思うとつらい。
    山田に関しては自決したとすると、責任を取ったというより逃げたな。生きて行かれないでしょう。
    うちの会社も決まりかけたことを、決まったことを偉い人がまぜっかえすが、場面違うとこんなにたくさんの人の命を奪うんだな。

  • 明治35年の八甲田山雪中遭難事件を、事実に即しながら小説の形をとって描きます。不可能を可能とするのが日本の軍隊、という精神のもと、人間の限界を超えて次々に狂い、凍死していく兵たちの姿がいたましい。

  • これはさすがにもう無理、撤退でしょう、というシーンに陥ると、必ず八甲田山を思い出してしまいます。

  • リーダーとしての役割を全うすること、それを委ねる任せることはとても難しい。
    答えのわからない選択を迫られたとき、正しく導くことのできる知恵、知識、経験。死を背にした、背水の陣において何が力になるのか感じることのできるノンフィクションノベルだと感じた。

  • すごい意味のある本。指揮官、自然、死、色々なことが合わさっている。

  • 読み物としては面白い。どこまで史実なのか気になってしまう。実在した人物と作中の人物の名前が違うのも混乱する。

  • 八甲田山に遭難した隊と生きて帰った隊が対比で描かれており、教訓譚のように感じられました。指揮系統の混乱や雪に対する準備不足、進行のボトルネックを作ってしまった事や根拠の薄い事象を頼った意思決定など、プロジェクト管理の失敗の事例集として良い教材になると思います。

    とは言え生きて帰った隊も紙一重であり、撤退を選べない境遇に陥った者は、運を天に任せるしかないのだろうと思いました。

  • 良きリーダーとは。

    職場上司に勧められて読んだ本。
    これが読書を始めるきっかけになった一冊。

  • 1902年1月23日、青森第5聯隊は、日露戦争を見据えた軍事演習のため、極寒の八甲田山に雪中行軍へ赴く。
    想像を絶する寒さ、猛吹雪のため隊員たちは、次第に狂気へといざなわれてゆく。
    手足の凍傷、幻覚、幻聴、疲労、人間の限界まで達した隊員たちが見たものとは。
    これは、まさに人体実験。
    読んでいて手に汗を握るどころか、手や足、背筋に凍えるものを感じた。

  • 世界山岳史上最大と言われる犠牲者を出した、1902年の青森県八甲田山における山岳遭難事故を題材として新田次郎が執筆した山岳小説だが、リスクマネジメントやリーダー論などのケーススタディで用いられることもあるという。しかしわたしの入り口は「低体温症」であり、先日読んだ『トムラウシ山遭難はなぜ起きたのか』の低体温症の章の中で、この八甲田雪中行軍遭難事件を亜急性低体温症の例として取り上げていた。
    手足の凍傷、幻聴・幻覚、眠気、意識レベルの低下、発狂…。次々と倒れていく兵士たち…。猛吹雪の中地図とコンパスを用いてルートファインディングを試みる神田大尉は無謀でありながら、確実さを求めるその姿に生への活路を見出そうとする行軍責任者としてのひたむきさを感じた。
    歴史的な背景もリーダシップ論的な面でも、わたしには何も語れることはないが一つだけ。部下にとっての上官への尊敬の念、この人について行けば大丈夫だという信頼感が揺らぐとき、支えを失った部下たちはたちまち倒れていく。リーダーという立場にある以上、適度な自信を持ちそれを周りに示すことは、人を引っ張り組織を動かす上で必要だということ。
    私的に新田次郎は初読。本書はいろんな視点から読めて、いろんな考えが浮かんでくる不思議な小説だった。山に興味がなくても十分読む価値がある。おすすめ。
    161129

  • 上に立つ者の人間性によってこんな大変な事態に陥ることと、雪の恐ろしさを感じました。話には聞いたことがあるもののどういった状況だったのかよく知らなかったのですが「死の彷徨」題字に相応しい内容でした。

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著者プロフィール

新田次郎
一九一二年、長野県上諏訪生まれ。無線電信講習所(現在の電気通信大学)を卒業後、中央気象台に就職し、富士山測候所勤務等を経験する。五六年『強力伝』で直木賞を受賞。『縦走路』『孤高の人』『八甲田山死の彷徨』など山岳小説の分野を拓く。次いで歴史小説にも力を注ぎ、七四年『武田信玄』等で吉川英治文学賞を受ける。八〇年、死去。その遺志により新田次郎文学賞が設けられた。

「2022年 『まぼろしの軍師 新田次郎歴史短篇選』 で使われていた紹介文から引用しています。」

新田次郎の作品

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