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- / ISBN・EAN: 4528189256224
感想・レビュー・書評
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日本人に馴染みの深い、柴犬についての一般向け啓蒙書。
図版が数ページあり、柴犬の歴史、必要な栄養のこと、掛かりやすい病気のことなどが記されているが、しつけのことはまったく記載がない。犬の飼い方に関するハウツー本ではなく、あくまでも柴犬について知識を得るための本である。
現在、日本で飼われている日本犬の約八割が柴犬だと言うが、意外とその歴史については知られていない。本書では、まず最初に縄文時代の遺跡から出土した土偶や犬の骨の紹介に始まり、戦後の混乱期を経て現在の柴犬の完成までを述べる。
昭和3年に群馬県で飼われていたという十石号(じっこくごう)が、現在の柴犬の始祖とも言える存在だ。が、その写真を見る限り、今の柴犬よりも骨太で素朴な印象が強い。十石号の後に続く犬たちも、顔付きのがっしりした、いかにも狩猟犬といった風貌の犬たちである。
戦後、再開された日本犬保存会の展覧会で最高位に選ばれたのが中号である。
「(中号は)前記のアカ号を軸にした系統作出犬であるが、血液的には多彩である。産地名や郷土意識にこだわらず、質的にすぐれた小型日本犬=柴犬を作出しようとする意図によって誕生した傑作である。」(P23-24)
日本犬の定義は難しいところだが、天然記念物に指定されている犬種は6種類に及ぶ。そのうち、地名を冠さぬのは柴犬のみである。これは、古来日本において犬の作出がいかに地域性と結びついていたかを示唆するものといえよう。さらに、柴犬がその名に地名を持たなかったために、地域性を越えた作出が可能だったことに結びつく。そうして作出された犬たちの子孫が、今や日本のみならず世界中で愛されていることを思えば感慨深い。
中号の写真の次ページに、現在の柴犬の写真が掲載されている。これが理想的な柴犬のなのだが、十石号や中号に比べて明らかに顔は小さく口吻が細くなり、脚も細く長くなっている。これは成育環境の変化にともなうものだろうが、人間も同様であると思うと興味深い。
なお本書は2002年発行で、2014年現在バーゲンブックとして流通しており、手に取るひとも多いのではないかと思われる。世間一般に誤解を生んでいる豆柴の問題にひとことも触れていないのはどうにも腑に落ちないことをつけ加えておく。詳細をみるコメント0件をすべて表示