宮沢賢治傑作選 『銀河鉄道の夜』『注文の多い料理店』『風の又三郎』ほか [Kindle]

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  • ゴマブックス株式会社
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感想・レビュー・書評

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  • 驚愕。いやあ、面白かったです。
    恥ずかしながら、ちゃんと読んだことがなかったんです。宮沢賢治。
    ま、そういうことは、いっぱい他にもあります。

    「戦争と平和」も実は読んだことがないし。「大菩薩峠」「宮本武蔵」も読んだことがありません。ディケンズもプルーストも未読です。
    カントもショーペンハウエルもニーチェも実は読んだことありません。その他、現代思想系も読んでいません。
    マルクスも「資本論」は未読だし、「千夜一夜物語」も京極夏彦さんもスティーブン・キングさんもドン・キホーテもプーシキンもヘミングウェイも読んだことが、まだないんです。
    「第三帝国の興亡」「世界を震撼させた十日間」「天皇の世紀」、ミラン・クンデラ、まだまだ、まだまだ、いーっぱいあります。
    どれも別に、読みたくない訳ではないんですけどね。なんとなく読んでないんです。
    いつか読みたいな、と思います。ま、楽しみが先に多いのはシアワセなことですが。

    と、いう訳で宮沢賢治さん。
    多分、10代の頃に何度か読みかけた記憶があるんです。
    まあ、割りにどれも短いですから。いくつかの短編は呼んだことがあるのかもしれません。
    でもほぼ、記憶になかったので。

    もうとにかく、文章が素敵…。あらすじは、ほとんど何の意味も持ちませんね。
    だからこう、魅力を情報として伝播させるのがムツカシイ気がします。
    おとぎ話、童話の装いをしながら、その分シンプルに、なんだかグサっと来たり。
    人の悲しさとかさびしさとかやるせなさみたいなものが、ズキーッンと来るんですね。
    そして、ファンタジックな情景の描写が、もう、空中にふわっと浮かび上がるようです。
    そして、なんだかほにゃらら?で終わるような短編にも、不思議な豊穣な文章世界。
    カワイイかんじと不気味な感じと怖さ、残酷さ、俯瞰性。そして何より、平明さ。

    1896-1933の人物なんです。それなのに、なんていうか、口語体はともかく、童話形式、ファンタジー、方言の活かし方、架空世界の創造…。
    どれをとっても、やっぱりぶっ飛んでますね。脱帽です。
    2014年現在のエンターテイメントとしては、地味だし、社会と人生の痛いところへの目線が強すぎるでしょう。だから、なんていうか、食べ始めは違和感があるかもしれません。
    でも、食べてみれば、後味の深さは、尋常では、なかったです。


    ちなみに、全部、青空文庫の電子書籍、スマートフォンで読みました。
    備忘録を纏める上で、どうしようかな、と思いまして。
    まずは主要有名作が詰まっている本を選んで。
    それに収録されているものを、全部、青空文庫で読む。というまとめ方にしました。
    この方式は、本屋さんと出版社には悪いけど、なかなか、便利な気がします。


    ########

    ●銀河鉄道の夜
     これは、ちょっと何ていうか、感想が難しい。率直に言うと、前半は腰が抜けるくらい面白かったんです。でも、後半は、あんまり面白くなかった(笑)。
     で、じゃあ全体にどうだったの?って聞かれると、圧倒的に面白かった。それくらい前半が素晴らしかったですね。
     クソ真面目に書くと、なんだかよくワカラナイ架空の国(ま、それがイーハトーヴなんでしょうが)。少年ジョバンニは、お母さんが病気で貧しくて、でも頑張って生きている。
     友達がカムパネルラ。ジョバンニはカムパネルラが大好き(ふたりとも男子。だと思われる。同性愛的なことではない。と思う)。
    なんだけど、貧しいから少年の社交界の中で、ジョバンニは浮いてしまって、カムパネルラとも遊べない。悲しい。
    お母さんのために牛乳を買いに行ったりする。夜。お祭りやってるけど、ジョバンニは遊びに行けない。他の子は行っている。カムパネルラも。
    悲しいな、と思っていると、草原?に銀河鉄道がやってくる。なんだかカムパネルラと乗って行く。

     もう、ここまでだけで凄いんですよ。ここで終わっても良いんじゃないか?というくらい。
     文章、詩情、優しさ、残酷さ、心理描写、自然描写。
     もうなんだか、ふわっとしてキラキラしてグサっと来て、しみじみしてくらくらしてムード満点です。

     で、ここから、いくつかの星というか停車場に止まって、色んなことを見聞するんです。
    その辺は特段…僕は面白いとは思えなかったんです。
    しかしまあ、コレがあってこそ、「銀河鉄道999」もあったんだなあ、と。改めて。素晴らしい短編。

    ●注文の多い料理店
     これは昔読んだ記憶がありました。
     ちょっと怖い、というかかなり怖いお話ですね。
    アイディアレベルでの面白みっていうか。ちょっと筒井康隆さんぽいです。

    ●グスコーブドリの伝記
     イーハトーヴを舞台に。グスコーブドリという男の子が、飢饉で両親を失い、孤児に。
    苦労と流転を経て、地震や農業改革の指導者の一人になる。
    最後は飢饉を防ぐために、犠牲になる。
    おとぎ話になっていますけど、執筆当時だって、田舎で飢饉になれば悲惨なことはいっぱいあったんでしょう。
    農業に生きる人の悲哀というか、意気地というか。過酷な運命というか。
    そこから改善と自己犠牲を夢見た思いが、美しい小説でした。

    ●セロ弾きのゴーシュ
     セロ弾きのゴーシュが、自宅に現れる動物たちをうざがるんだけど、
    結果、お陰様で腕が上がっていた、というお話ですね。
    これはまた、なんというか不思議な味わい。
    すごく面白い、ということでもないんだけど、なんだかおもしろい。文章が素敵ですね。

    ●よだかの星
     迫害される夜鷹という名前の鳥さん。
    自由を、幸せを求めて、星になってしまうんですね。
    うーん。迫害と不幸に生きる人のお話、と考えてもグっと来る掌編。

    ●やまなし
     これは、あれれ、と終わっちゃうほんとのショートストーリー。
    その分、文章表現の独特性が際立つ感じでしたね。

    ●オツベルと象
     オツベルが資本家、象が労働者。
    搾取する人、される人、という寓話のような。
    短い分だけ無駄がない。切れ味抜群。

    ●なめとこ山の熊

     熊を殺して皮と肝を売る猟師。
    だが、街に行くと卑屈になるしかない。言い値で買われる。
    そんな猟師と熊の、何の憎しみもないけど狙い狙われる関係。
    これまた、シンプルな分だけゾクゾクするほど面白かったですね。
    最後、猟師は熊に殺されるんですね。しょうがないんですけど。
    こういう話って、語り口一つで押しつけがましくなるんですけどね。
    宮沢賢治さんの文章、なんとも豊穣。

    ●どんぐりと山猫
     これまた、異常に奇妙に面白い。
    山猫の招きで、一郎くんが山猫の家に。どんぐりたちのもめ事の仲裁のアイディアだしをする。
    ただそれだけなんですけど、山猫が、どんぐりが、どうにも人間臭くって。
    不気味に俗なんだけど、なんだかキュート、という。
    敢えて言えば、「千と千尋の神隠し」「となりのトトロ」的な肌触り。
    圧倒的に、直接であれ間接であれ、宮崎駿さんには宮沢賢治さんの影響が測り知れないですね。

    ●風の又三郎
     これもなんとなく読んだ記憶はありました。
    田舎の学校、転校生。ちょっと不思議なよそ者の彼は、同級生から「風の又三郎」と呼ばれる。
    風のように現れて、共に遊び、風のように去っていく。
    僕は自然描写とかあまり愛情を持てないのですが、この短編の自然描写、すごいですね。
    豊かな自然、怖い自然、包み込む自然。ことに、自然がその怖さを見せるあたりの描写が、ゾクゾクしました。
    人間の濃い葛藤を描くだけが、ドラマ/物語/小説ではないんだなあ。
    なんとも、爽やかなだけではなくて、少年時代と自然という、怖さと不気味さも内包する、オンリーワンな不思議な小説世界。そんな感じでした。

  • グスコーブドリの伝記、やまなし、オツベルと象は初読。やはり不思議な、妙に心にひっかかる世界。厳しい自然、労働の尊さ、人間の強さと優しさ、といったもののほか、生きることの寂しさというものも感じた。

    『銀河鉄道の夜』の情景描写の美しさにはうっとりする。カムパネルラの自己犠牲ばかり記憶に残っていたが、大人になってから再読すると、鳥捕りやかおる子を邪魔だと思ったり、邪魔扱いしてしまったことに罪悪感を感じたりするジョバンニに切なくなる。こういう気持ちはつい抱いてしまうものだと思う。ジョバンニは寂しいのだ。カムパネルラ以外の人間に対して心を閉ざしている。そんなジョバンニに対して、カムパネルラとずっと一緒にいることはできない、出会う人みながカムパネルラなのだ、というブルカニロ博士の指摘は優しくも厳しい。相手を選ばず、隣人愛を持つことは難しいことだ。
    ブルカニロ博士のシーンは全く記憶に残っていなかったが、このシーンがあるバージョンとないバージョンの両方があり、削除されたものが決定稿とみなされているらしいので、子供の頃に読んだバージョンにはなかったのかもしれない。個人的には博士のセリフがあってはじめて主題が理解できた気がしたのであったほうが良いと思うのだが、多少の説教臭さも出るので、削除が相当と考えたのだろうか。

    『オツベルと象』は怖い。時計や靴だとごまかして鎖や重りをつけてしまうところはぞっとする。「さびしく」笑う白象からは、人は労働により他人も自分も幸せにできるはずのものなのに、どうして搾取構造ができてしまうのだろうか、という哀しさを感じた。『銀河鉄道の夜』でも標榜されるように、みんなが幸福な状態が理想なのだとすれば、オツベルが殺されるラストはみんなが幸せになれていないということなのか。プロレタリア文学のような印象も受ける童話だが、革命ではみんなの幸福を達成できないと賢治は考えていたのかもしれない。川に入ってはいけない、という最後の一文は謎めいている。単に牛飼いが話の聞き手である子供たちに注意しているだけではないかとも思う。あるいは聞き手が牛なのだとすれば、牛は、最初に川で働いた白象のように、牛飼いの幸福のために労働したくなったのだろうか…。

    『どんぐりと山猫』はかわいらしい話で子供の頃に好きだったが、ふと、山猫が「出頭すべし」と書きたがった理由は何なのだろうか、と考えてしまった。山猫は、口では一郎に名誉判事になってほしいと言っているが、裁判所が裁判官に対して「出頭すべし」とは普通書かない。むしろ被告のようだ。もしその文言を許したら、次のときには怖いことに巻き込まれたのでは?という想像もしてしまう。

  • 以下の10作品が収録されている傑作選がKindleストアで95円。なんの迷いもなく購入、そして読了。
    銀河鉄道の夜/注文の多い料理店/グスコーブドリの伝記/セロ弾きのゴーシュ/よだかの星/やまなし/オツベルと象/なめとこ山の熊/どんぐりと山猫/風の又三郎。

    これらを続けて読んでいて気づいたことは、登場人物が外国人になっている物語が多いということ。『銀河鉄道の夜』の「ジョバンニ」と「カムパネルラ」、「グスコーブドリ」に「ゴーシュ」、そして「オツベル。」 明確に日本の名前が出てくるのは『風の又三郎』だけ。どういう意図でこういう設定にしたのかという研究がどこかであるのかもしれないが、この設定が物語のスケールを大きくしていることはまちがいない。『銀河鉄道の夜』はその最たる例。主人公が「三郎」でももちろん物語は成立すると思うけれども、外国の名前、しかも日本人にはほとんどなじみのない「ジョバンニ」と「カムパネルラ」にしたことで、この物語が自分があまりよく知らない世界から始まって銀河へと広がってゆく、その壮大さが感じられる。

    つい先日、若田宇宙飛行士の本を読んだばかりだからなのかもしれないが、若田さんもきっと『銀河鉄道の夜』は読んだのだろうなぁ、などと考えてしまった。

  • かの宮沢賢治の作品集です。恥ずかしながら世間で読まれている文学作品を全く知らないので今後知っていく足がかりとして読んでみました。なんとなく知っている作品からそうでないものまで、興味深く読めました。
    元祖ジュブナイル小説といった感じの作品が多い印象。『銀河鉄道の夜』や『よだかの星』などは映像化したら綺麗そうだな、と思いました。ただ、自分の読解力がないのか話のオチがいまいち呑み込めない作品もありました。

  • 初めて宮沢作品を読んだ感想は、現代文学に慣れてしまったせいか新鮮に感じた。賢治の優しい性格が如実に写し出されているように思う。
    作品の中では、注文の多いレストランが楽しく読めた。
    でも、他の作品については壁が高いかな・・
    アメニモマケズ・・これだけは個人的に共感を持て好きと言える。デクノボウですから♪

  • なんとなく読みたくなりました。
    有名どころの話が詰まっていて、どれも懐かしく読むことが出来ました。
    独特の世界観は魅力的で、時代を越えて愛される作品の凄さを見せつけられた気がします。

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著者プロフィール

1896年(明治29年)岩手県生まれの詩人、童話作家。花巻農学校の教師をするかたわら、1924年(大正13年)詩集『春と修羅』、童話集『注文の多い料理店』を出版するが、生前は理解されることがなかった。また、生涯を通して熱心な仏教の信者でもあった。他に『オツベルと象』『グスグープドリの伝記』『風の又三郎』『銀河鉄道の夜』『セロ弾きのゴーシュ』など、たくさんの童話を書いた。

「2021年 『版画絵本 宮沢賢治 全6巻』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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