美濃牛 探偵石動シリーズ (講談社文庫) [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • (文庫版p8〜9より)
    「(中略)とにかく、動物園の動物なんて、みんなどこかしら気が変になっているもんだ。なにしろ、監禁されてるんだからな。」

    (中略)

    「かわいそうじゃない。なかには、監禁されたがってるやつもいるだろう。暗く狭苦しい場所に閉じ込められて、だんだん気が変になっていくのを楽しんでる。そんなやつだっているさ」


    (文庫版p482より)
    少女たちは自分ではない誰かになりたがっている。だから、髪を茶色に染め、顔を黒くし、耳にピアスの穴を開け、青いアイシャドウを塗りたくって、目尻にシールを貼る。

    (中略)

    だが、結局、自分ではない誰かになることはできない。いくら化粧をし、ブランド品を身にまとい、体じゅうにピアスをし、肌にタトゥーを入れ、ダイエットで骨と皮に痩せ細っても、鏡のなかにいるのはやはり「あたし」でしかない。
    窓音は赤毛であることを自慢に思っているわけではないだろう。だが、黒く染めて、彼女が通う高校の期待する「普通の」女子高生になりたいわけでもない。あたしは赤毛だ、という事実をただ肯定しているだけだ。そんな肯定する強い力が、この少女のどこかに秘められている。
    あたしは赤毛。たとえ黒く染めたとしても、赤毛以外にはなれない。そして、あたし、この赤毛、気に入っとるんよ。


    (文庫版p638〜639より)
    「ぼくにはわからんね。奇跡を信じるのはかまわない。でも、どうして医者や科学者に説明してもらう必要があるんだ?奇跡は奇跡でいいじゃないか。科学とはなんの関係もないだろう。鰯の頭を拝みたければ、たんに拝めばいいだけだ。鰯の頭を拝むと、脳内にドーパミンが分泌されると説明する必要はない」
    「みんな奇跡を〈信じている〉んじゃなくて、奇跡を〈信じたい〉んですよ。信じたいけど、信じられない。だから、信じさせてくれることを熱望する。科学は格好の道具になる」
    「そんなのは悪しき科学至上主義だよ。世の中には科学では解明できないことがあるんです、とオカルティストは居丈高に言いつのりたがるが、そんなのはあたりまえだ。まともな科学者なら、あらゆることが科学で解明できる、なんて言うわけがない。科学的に証明できないことはすべて間違いだ、と言うほうがおかしい。科学は、たんなるものの見方のひとつにすぎないんだ。ものの見方はほかにいくらでもある。科学的なものの見方にだけ価値があると思い込むのは、それを肯定するにしても否定するにしても、間違った科学至上主義であることには違いない」

    (中略)

    奇跡はルルドの泉を信じる人々の心の中にある。




    読み応えがすげえ!
    最後に驚きの種明かしがありつつも引き込まれ度はそこまでだったかな。
    でも遂に名探偵・石動戯作のデビューも拝め、名刺の肩書きに〈名探偵〉とついたものがドンと載るのもかっこいい〜〜〜!!!!ってなった!!
    次作も読むぞ!

  • 病を癒す奇跡の泉があるという亀恩洞の前で、首のない無惨な遺体が発見された。それを皮切りに、平穏な村は惨劇の舞台と化していった…

    賛否両論らしいですがが、わかる気がします。
    読みやすい文体は裏を返せば軽い。会話文の軽妙洒脱の裏を返せば、深みがなく怪しさが足りない。トリックもさほど巧妙ではなく、古典作品へのオマージュならば、いっそ更に荒唐無稽なほうがよかったのかも…とってつけたような探偵が浮かないためにも。
    全体を一言で言うなら、雰囲気が足りません。
    とはいえ長い割にさくさくと読め、おどろおどろしくない推理小説をお求めならちょうどいいかと。

  • 石動戯作探偵シリーズの第一弾。
    脇役の出羽さんと村長や、刑事さんたちのキャラが良い味出していて、印象に残りました。
    そういえばハサミ男でも刑事さんたちの人柄や、やりとりが良い感じだったなぁ。

  • 石動探偵の第1作なので、次作を読むために手を付けました。事件がいつまでたっても起こりません。「春泥」さんの俳句はひどすぎる。迷宮に関する様々な引用で、洞窟について盛り上がるのですが、実際に入るとラビリンス感が半端なく無いです。ですが、事件は拡大していき、とても読ませます。後半になると探偵がすらすらと解明します。プロローグを読み返すに、この作品は、ミステリなのかホラーなのか、別エンドも行けますね。本物の名刺には笑いました。次作が楽しみです。(2000年)

  • 傑作「ハサミ男」の人の作品なので読んでみたが、登場人物ばかり多く、非常に散漫な筆致で感心しなかった。
    メモ:被害者(実は自殺)の一人と、登場人物の一人が、実は男性同性愛の仲だった、という驚かせポイントがある。異性愛前提の読みを覆している部分は評価できるのかもしれないが、このような「ひっかけトリック」の一つとしてのみ同性愛を描くのは難しいかもしれない。また、男性同性愛の一人が、HIV保有者だという部分も、90年代だったらギリギリ許されるかもしれないが、00年代の出版なので厳しい。

  • 2021/7/17
    最初はうさん臭い人が出て来てなんだぁ?と思ったけど読み進めるに連れて作中の警察らと同じ様に石動さんに聞いてみたいとなった。
    この話随所に仕込まれているパラドックスが巧みで面白かった。

  • とんでもなく長かったけど、飽きさせない面白さ。

  • 登場人物のモノローグなどが、格言めいていていいなと思うところが多かった。
    唐突な展開もあったが、伏線回収がしっかりしている。

    個人的に先に読んだハサミ男の方が衝撃度が高かった、ということで1つ落として星3にしました。

    他の方のレビュー見ると、見逃してるポイントもあるので、また整理したいです!

  • ハサミ男(大好き)の作者ということで期待して読んだ。
    事件が始まるまで長いなと感じたのでハサミ男の方が個人的には好き。長いが、文が読みやすいので苦ではない(平易な文章の魅力について書いてあるので意識しているのかも)。
    推理パートの衝撃の展開がさすが。村に伝わる歌の謎がうまくできていて納得できるし、話の流れも辻褄が合っていて好き。石動さん良いわね〜。シリーズ全部読み進めたい。
    紙の本もしかしてもう売ってないのかしら…?

  • ギリシャ神話のラビリントスを題材にしてて、ミステリーとして面白いのは勿論、登場人物等の名前のネタ元を探すのも楽しかった。

    美濃牛→ミノ+タウラス→ミノタウロス
    暮枝市(くれえだし)→クレタ島
    天瀬(あませ)→てんせ→テセウス
    窓音(まどね)→アリアドネ
    代田(だいだ)→ダイダロス

    自分が気付いたのはこの辺り

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著者プロフィール

1964年、福井県生まれ。名古屋大学理学部中退。1999年、『ハサミ男』で第13回メフィスト賞を受賞しデビュー。著書に『美濃牛』『黒い仏』『鏡の中は日曜日』『キマイラの新しい城』(いずれも講談社文庫)がある。 2013年2月、逝去。

「2022年 『殊能将之 未発表短篇集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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