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感想・レビュー・書評
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岩井克人はずいぶん前に「会社は誰のものか」を読んで、つまらなかったという印象しかないのだけど、これはすごく面白いじゃないですか。
ヴェニスの商人を題材に、共同体内部の非貨幣的取引と共同体を超えたところに成立する貨幣的取引とを考察していく。シャイロックもアントニオーニもいち個人ではなくある特定の共同体の象徴として位置づけ、そのやりとりを貨幣的流通になぞらえる。純粋に文学的な考察でもなく、あるいは純粋に経済学的な分析でもないが、そうして立ち現れる貨幣という魔術、そしてその動的な働きは市場や法、共同体のあり方といったさまざまな事象に新たな視点、新たな補助線を提供してくれる。
その一方で、これらの著作が書かれた時代背景を良くも悪くも表していて、ニューアカ的なお定まりのパターンにとどまっているということもまた事実。分析で全面的に依拠するのはマルクスであり、そのほかソシュールとかなんとかを引用することで、価値の転倒やら逆説やら流通やら表象やらを語るというというあれ。延々と言説の上に言説を重ねることで気がつけば話題の核心からどんどん遊離して、言説ための言説が際限なく再生産されていう。そういうものこそかっこ良かったのが80年代の空気だったのだろうが、その反動としての90年代、80年代90年代を逆手にとった言説ゲームとしてのゼロ年代を考えるなら、この岩井克人の作品も手放しでは賞賛できない。詳細をみるコメント0件をすべて表示
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