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感想・レビュー・書評
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走るために選ばれてきたサラブレッド。親から受け継いだ血統が、走らせる。その血が一生を決める。宮本輝の問題意識は、「生まれながらについている差」。意志とか努力とかの及ばない領域、それは宿命みたいなものと言える。それを、どうバネとして、幸せになるかということだ。
北海道、静内の小さな牧場のトカイファームで、母親ハナカゲと父親ウラジミールの馬が生まれる。それは、渡海千造の夢だった。そこに、馬主である和具平八郎は娘を連れて見にきた。生まれてきた馬は真っ黒で、額に星のマークがついていた。見るからに、走ることが得意そうな品のある馬だった。クロと呼ばれた。
競走馬の選抜の歴史がある。トカイファームの息子の渡海博正は、馬主平八郎の娘の和具久美子に、説明する。「サラブレッドの歴史は、300年くらい前からイギリスで始まったんだ。牝系の系統は、3頭しかいない。1頭目はダーレー・アラビアン。アラビア馬。2頭目はバイアリー・ターク。トルコ馬。3頭目はゴドルフィン・アラビアン。アラビア馬。この3頭の系統があるが、1700年生まれのダーレーアラビアンが一番素性がはっきりしている」そして、その血統について、説明をする。
和具平八郎には、秘密があった。田野京子という女性と関係を持ち、妊娠したということだったが、自分で責任を持って育てるということで、認めた。その息子、誠は15歳、重い腎臓病を患っていた。
透析を週2回受けているが、もはや腎臓移植しかないと医者に言われている。ここでも、「生まれながらについている差」が登場する。血液型は、平八郎と同じA型。平八郎は「あいつが勝手に産んだ。俺は知らん」自分の息子でないと言いながらも、腎臓移植をするのかどうか?迷う。秘書の多田時夫は、「会社は社長で持っている。だから寿命を縮めるようなことはすべきではない」と言いながら、「母の肉は子の肉。この骨は母の骨なり」という。平八郎は、多田に自分だったらどうする?と聞くと、即座に「腎臓移植する」と答える。
多田も、幼いときに母親が出奔し、捨てられた。その母な別の人と2人の子供をもうけていた。多田は、16歳の時に母親を訪ねたが「もう親子と違う。勝手に訪ねてきてもらっても、こちらは迷惑なだけ」と言われる。多田にも、背負っている宿命があった。
多田は、平八郎に名前をつけろと言われて、「オラシオン」と名づける。意味は祈りだった。
オラシオンは、平八郎から、娘の久美子に譲られ、そして腹違いの弟誠に、久美子は譲るのだった。
オラシオンが、奇跡を起こすことで、誠が生き延びることを願う。
ある意味では、サラブレッドの物語が、宮本輝の「生まれながらについている差」というテーマにふさわしい物語なのだろう。色んな意味で、さまざまなところできらりと輝くセンス、才能は簡単に身につくものではない。クロはどのように成長していくのだろうか?詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
北海道の小さな牧場で生まれた一頭のサラブレッドが日本ダービーを目指すお話。
競馬に関わる馬主、騎手、調教師、馬の生産者など様々な人々の想いや欲望が一つのうねりを作っていくのが面白いー!