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感想・レビュー・書評
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スイスに行ったので読んだ。
印象に残ったのはやはり永世中立に関わる話。
ドイツ、イタリア、フランスに挟まれるという地政学的に困難極まる立地のなかでなぜスイスが永世中立を守ってこれたのか。それはカントンをはじめとしたスイスの地域の力と重要な局面で発揮されるリーダーの力だった。
我々は永世中立という立場をどう解釈するのだろう。例えば、日本の憲法解釈のようにときの政治家が緩く解釈しようとすればいくらでも緩くなりうるのかもしれない。しかしスイスの場合には、もし永世中立国の解釈を自分勝手に動かせば、他国から後ろ指を刺される結果となるし、特にスイスにとっては他国から見て彼らが永世中立国の体を成しているのかというのは彼らの生存に関わる問題でもある。スイスは幾度の困難のなかでも、カントンや政治家が厳しく"自分自身を"監視することを怠らなかった。さらに中立の立場を維持していることを他国へのアピールすることも怠らなかったことがわかった。
さて、自らの国がどんな国なのかは国民がいつでも好きに決めていいことなのかもしれない。しかしスイスはそれに甘えなかったのである。自分たちの国がどんな国かを周辺国等の状況で簡単に揺るがしたりはしなかった。日本はどうだろう。考えてみたい。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
スイスの勉強をしたいと思い、本書を手に取りました。新書ですがかなり読み応えのある骨太の本でした。まず本書を読み終えての率直な感想ですが、「スイスについては知らないことばかりである」ということでした。そもそもスイスなる国自体ができたのは比較的最近で、それまではカントン(州)の連合体(盟約団)だった、という極めて基本的なことも本書を読むまで知りませんでした。おそらくほとんどの日本人が知らないのでは、とは思いますが・・・。
本書を読んでの最大の収穫は、「スイス」という国はあるけれども、スイスは極めて多様性の高い国だということです。たとえば、本書を読む前は、スイスは基本的にプロテスタント(新教)の国かと思っていたら、そうではなく、カトリック(旧教)が主のカントンもあるとのこと。後はドイツ語圏とフランス語圏、イタリア語圏もありますし(公用語としてはあと1つロマンシュ語もある)、国の成り立ちがそもそも多様性を包含しつつ行われた、ということです。そしてこの多様性の包含こそが現在のスイスの強みにもつながっていると感じました。
もう1つ、スイスでとても印象に残ったのは、スイスのコンセンサス形成能力とでも言える力です。本書で詳しく経緯が書かれているように、スイスはそもそも州の盟約団としてそのメンバー数を徐々に拡大していきました。その過程では州間の対立や抗争などスイス解体の危機もあったかと思うのですが、歴史を紐解けば、最後は何とか団結している。ここにスイスの底力を見た気がします。永世中立国についても、これは決して軍備を放棄しているという意味ではなく、むしろ国境を越えて侵攻してきたら誰であっても断固として排除する、という強い意志を意味しています。自分の州の利害も大事だが、最後は盟約団全体の利害を重視する、という断固とした気概を本書から感じ取りました。とても勉強になりました。