黒い雨(新潮文庫) [Kindle]

著者 :
  • 新潮社
3.81
  • (4)
  • (6)
  • (5)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 126
感想 : 7
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・電子書籍 (319ページ)

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 広島に投下された原子爆弾により被爆し、原爆症を抱えている閑間重松が、原爆投下後の人々の様子や惨状・生活を記す『原爆日記』を清書するため、振り返った当時の様子の描写、そして清書しながら、直接被爆は免れたのに、黒い雨を浴び、放射能に汚染された焼け跡をさ迷った姪の矢須子のことを気にかける日々の様子が描かれていた。

    重松自身や、出会った人の原爆投下後の様子が鮮明に描かれていて、想像でしかないし、想像以上のものもあるけれど、様々な角度から当時の惨状を目の当たりにしたみたいで、考えさせられます。簡単に核保有をちらつかせ口にするプーチン大統領やキム書記が、正気ではないと、怒りが込み上げました。

    ストーリーの最後、虹を願い矢須子を思う重松の描写が、あまりにキレイで、"これが文学作品なんだ"と、感動を覚えました。

  • 原爆被害にあった広島の状況を、当時の手記の清書という形での小説にすることでリアリティを出している。
    空襲前夜、空襲時、空襲直後、その後の記録、そして原爆病の闘病記。核攻撃の悲惨さはもちろんのことだが、軍の規律の緩みなども各所に書かれている。

  • 日本の夏って独特の雰囲気ありますよね。
    暑いんだけどピーカンな明るさじゃない。
    お盆には死者の霊が帰ってきたりするし、怪談話とか、あと戦争のことを抜きにして語れない。

    私の職場はパン屋である。毎日毎日焼き立てのパンに囲まれて仕事をしている。
    普段、慣れてしまっていて何とも思わないけど、よく考えるとこれって平和だなぁと思う。


    『黒い雨』 井伏鱒二 (新潮文庫)


    小中学生の夏休みの課題図書には必ず入っていそうな本である。
    原爆小説に対してこういう言い方は合わないかもしれないが、読み終えた時、意外と爽やかな感じが残った。

    物語の中心は、主人公である閑間(しずま)重松の被爆日記である。
    重松が書いた原爆投下の日から終戦の日までの日記を、戦後、本人が清書するという形をとっており、それを語り手が見ているという二重三重の構造になっている。
    つまり、物語の舞台は、戦後数年を経た比較的落ち着いた時代なのだ。
    だから冷静に見ることができる。
    悲惨な出来事をきちんと冷静に見られるというのは大切なことだ。

    閑間重松は、妻シゲ子と姪の矢須子との三人暮らしである。
    広島に原爆が落とされた八月六日は、シゲ子は無事だったが重松は駅で被爆し、矢須子は直接被爆したわけではないが、帰路で黒い雨の夕立ちにあった。

    重松の日記は細かいところまで実に詳しく書かれており、情報として間違っていることや曖昧なことには、括弧書きで後日記が添え書きされている。

    この日記は、なぜ戦争をしなければならないのかとか、なぜ原爆が落とされたのかとか、そういう頭でっかちな熱弁をふるうものでもないし、被爆者の惨状のみをことさら大仰に伝えるものでもない。

    戦争が当たり前の日常であった時代の、非常識が常識に簡単に変わってしまう恐ろしさ、いつ爆弾が落ちて死んでもおかしくない状況の中で、淡々と生活を営まざるを得ない一般庶民の姿を、戦争の本当の恐ろしさとして伝えているように思う。

    狂っている世の中で“右向け右”と言われる恐怖。
    そして、“こうするよりほか仕方がない”ということを一つずつこなしていく重松の誠実さが、この物語を生き生きとさせている。

    だが、一つだけどうしても不思議なことがある。
    人の話した言葉や食事のメニューまで、実に事細かく日記に記していた重松が、なぜか、終戦の日の玉音放送を直接聞いていないのだ。
    放送が始まる時、全員がラジオのある場所に集合したが、重松だけは外に出て、溝を遡上するうなぎの稚魚を見ていた。被爆地の惨状とは不釣り合いなほどの清冽な流れだった。

    なんと、その記述を最後に日記は終わっている。

    もしかしてそれは、重松の無言の反戦の意思表示ではなかっただろうか。
    それは、広島県出身の作者の気持ちでもあるのかもしれない。

  • 「正義の戦争よりも不正義の平和の方がいい」
    印象的なフレーズだ。

    手記からの回想シーンがほとんどな為、
    ものすごく丁寧な作品のイメージ。

    しかし、原爆の恐ろしさは凄惨な光景を心に残す。

  • さよならだけが人生だ

  • 「被爆日記」に記された過去と、姪の縁談を心配する現在とを行き来しながら、原子爆弾の真実を綴った作品。あの日、事実において、天は裂け、地は燃え、人は死んだ。日本の夏の、もう一つの顔がそこにあります。

全7件中 1 - 7件を表示

著者プロフィール

井伏鱒二 (1898‐1993)
広島県深安郡加茂村(現、福山市加茂町)出身。小説家。本名は井伏満寿二(いぶしますじ)。中学時代より画家を志すが、大学入学時より文学に転向する。『山椒魚』『ジョン万次郎漂流記』(直木賞受賞)『本日休診』『黒い雨』(野間文芸賞)『荻窪風土記』などの小説・随筆で有名。

「2023年 『対訳 厄除け詩集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

井伏鱒二の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
谷崎潤一郎
宮部みゆき
安部公房
ジョージ・オーウ...
ヴィクトール・E...
ミヒャエル・エン...
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×