ブッダ 13 [Kindle]

著者 :
  • 手塚プロダクション
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感想・レビュー・書評

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  • 自らが捨てた哀れなシャカ族を前に何を話すべきかと煩悶したブッダが話し始めたのは万物流転の法則と苦しみには原因が有るという話
    これは、以前は豊かな暮らしをしていたシャカ族が今は奴隷の地位に居るという状況を説明するものになっているし、今はシャカ族を抑えつけているコーサラ国にこれから来る暗雲への警告になっているね
    そして、そんなコーサラ国のトップとしてシャカ族を痛めつけるルリ王子の行動には苦しみに満ちた原因があると糾弾する内容でも有る
    それは不利な立場の者が不利ではないとの見方に繋がるし、有利な者の不安定さも示している。だからシャカ族やブッダをいつでも殺せる立場に居た筈のルリ王子は何もできなくなってしまうわけだね

    自覚しながらも目を逸らし続けてきたルリ王子の苦しみ。それから逃れる為には苦しみの原因を取り除くしか無い。
    けれど、苦しみの原因は全て過去に在って今更どうにか出来るものではない。だからルリ王子もブッダの話を聞いただけでは納得できなかったわけだね

    ルリ王子の本当の苦しみが生まれそのものに有ったわけではないと判るブッダとの対話は良かったな
    奴隷の母から生まれた事実は変えられなくても、母を供養すれば母を大切にした事になる。シャカ族を大勢殺した事実を変えられなくても、シャカ族を許して占領を辞めれば彼らを慈しんだ事になる
    それはコーサラ国王子としての立場では非常に難しい判断。
    だからルリ王子の判断を変えるのは王子としての事実ではなく、母から生まれた子であるというとても単純な事実。
    母がどんな身分であろうと自分がその母から生まれた事実は変わらない。母が母であった事実は変わらない


    その後はアジャセ王子の挿話やらダイバダッタの陰謀などが描かれたけど、印象深いのはやはりナラダッタだね
    物語序盤の過ちによって、それ以来ずっと獣の生き方をしてきたナラダッタ。
    50年……、余人には想像のしようがない生を暮らしてきたナラダッタが最期の最期に自分は許されるのかと問うたシーンには感情が爆発しそうになるね……
    また、彼の心残りとして存在した役目がブッダとの運命的な出会いによって果たされたと知る流れも良かった。ブッダですら足元に及ばないような苦行を生き、そして赦されたナラダッタの死。それを見たからこそ、ブッダも自身の人生の終着点を考えるようになるわけだね


    第6部第10章と第11章で描かれるのはルリ王子の苦難とスダッタ長者の話
    ルリ王子は母の呪いから逃れ母を認められても、父の呪縛から逃れられたわけではないから、父の反対によって一時は自身の判断を翻さざるを得ないという点は悲しいね
    けれど、母を母だと認められたように、息子から認められる父になる為に自身の父を切り捨てる判断をする流れには複雑な素晴らしさがあるね
    ルリ王子は母にしでかした行為への後悔があったから苦しんだ。そして今は父の命令に従う事への苦悩が有る。苦しみは原因を取り除かないと晴れはしない。なら、後悔をしない為に、そして息子の前で胸を張れる父になる為に立派な選択をしたルリ王子改めビドーダバの姿は格好良い

    本作では悪人として描かれる傾向の強かった商人。そんな中から登場したスダッタ長者はかなりの変わり者だね
    欲しい物の為に権力を駆使するという点は我欲に満ちた商人らしい行動。でも、何故土地を欲しているかといえばブッダに捧げるためだし、その行動も自身の財を手放すというもの
    いや、それにしてもその辺りの描写は凄かった。園の地面に金貨を敷き詰める。金持ちの寓話か何かに出てきそうな馬鹿げた話。
    園全体に敷き詰められればお伽噺として成立したが、実際は入り口近くを覆っただけ。金持ちとして名声を鳴らしても、その金の量を目の前にしてみれば案外あっけないと知る。金儲けの虚しさを知る

    そうして金貨が足りないからと諦めるかと思いきや、乞食に身を落としてまで計画を続けようとする胆力には驚かされる
    ジェータ王子から「お金もうけのことばっかり考えてる」と指摘された彼が零れ落ちた金貨を自分の懐ではなく、地面に嬉々として並べるシーンからは純粋な信心を感じられたね


    祇園精舎という拠点を手にし、コーサラ国での布教も順調な最中に起きた冤罪事件。罪人達の苦しみを取り除いてきたブッダ自身が罪人として扱われる展開。この仕組まれた騒動に対し、ブッダはどう行動するのだろうか?

    それにしてもこの濃密な物語も次で遂に終巻なのか……

  • 本巻は第6部収録。マガタもコーサラも世代交代で王子が王に即位する。ルリにしてもアジャセにしても非常に苦悩を抱え、受難にも合っており、ブッダというよりも宗教的な精神の支えを欲している。そのためか、ダイバダッタの反乱も含め、本作の主軸が政治権力と絡み合うものに移っている。
    具体的には、ナラダッタのあっけない死と、タッタやミゲーラの存在感の希薄さがそれを端的に表しているだろう。
    当然、教団内の勢力もデーパたち初期メンバーからサリープッタやモッガラーナ、カッサパ、そしてアナンダといった新参で頭の良い連中が重要視されていく。そのあたりの描写が全くなく、ただ単に今まで「底辺」にいて不当に苦しめられていた人々の影が薄くなるだけである。

  • 荘園に金貨並べる話
    面白い!!
    これが祇園精舎のスタートとは。

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著者プロフィール

1928年、大阪府豊中市生まれ。「治虫」というペンネームはオサムシという昆虫の名前からとったもの。本名・治。大阪大学附属医学専門部を卒業後、医学博士号を取得。46年、『マアチャンの日記帳』でデビュー。幅広い分野にわたる人気漫画を量産し、『ブラックジャック』『鉄腕アトム』『リボンの騎士』『火の鳥』『ジャングル大帝』など、国民的人気漫画を生み出してきた。

「2020年 『手塚治虫のマンガの教科書』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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