巻数だけ見ると物語といよいよ後半に突入という感じなんだけど、初期に設定された物語の軸はすべて前巻で達成されてしまっている。
ラインハルトはローエングラム王朝を築きあげたし、自由惑星同盟も事実上の無条件降伏。ヤンは退役している。三国志をモチーフに書かれたという本作では、無事に天下統一がなされたというわけだ。
じゃあ、この巻では平定後の安定した治世の構築が描かれるのか・・・というと、そうではない。むしろ描かれるのは、これまでよりも醜い人間性だ。
これまでにも自由惑星同盟側にはトリューニヒトをはじめとする政治家たちがおり、帝国側にも「門閥」と呼ばれる旧勢力がいたわけだが、決着付け方は戦場での戦いであり、その戦い方はわかりやすかった。
ところがこの巻では、争いは戦場ではなく政治の世界で行われる。そして、その戦いにエネルギーを注ぐのは、安定した世界での立身栄達なのだ。戦場に慣れすぎた人間は、戦いのない生活ができないとでもいうかのように。
自由惑星同盟の思い込みと暴走により命を失いかけたヤンは、シェーンコップたちの活躍により、新たな戦いに身を投じることになる。