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感想・レビュー・書評
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なぜ有性生殖という面倒なシステムの解説と「赤の女王」という終わり無い競争の概念についての本。このマット・リドレーという人は本当に進化が好きだな。
「赤の女王」について読んでいると、この話は必ずしも進化だけに言えることではないと思い始める。競争が生じるあらゆる場において、赤の女王はその姿を現す。それが社会の価値を増大させる方向に働けばいいが、そうでない場合は女王を規制したい。
この本に限った話ではないが、ヒトの性における生存戦略について読んでいると、ポリティカル・コレクトネスに反しているな、と思う。社会の価値観と遺伝子の価値観のズレが問題を生じさせている。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
なぜ有性生殖が存在するのか?この疑問について実はいまだにはっきりとした答えは出ていないらしい。
ダーウィンがとなえた進化論は自然淘汰と性淘汰の2本立てだが、最初は性淘汰については自然淘汰ほど注目されなかった。今では教科書にもクジャクのオスの羽が派手派手になった理由として説明されているが、DNAをかきまぜるための性の必要性はわりとピンとくるものの、なぜそのためにオスメスの区別があるのか?については案外難しい。
この本はその疑問について過去にどのような議論や仮説があったのかを紹介する。この問題について日本語で読める定番の書物だと認識している。
前半は有性生殖の起源に関する学説について、後半はヒトの性淘汰に関する考察という体裁になっている。
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性淘汰がいかに我々ヒトの在り方を定めているのか、について研究の最前線(といっても本書の出版は少し前のことになるが)を紹介してくれる。生殖には無性の方が有利であるはずなのに性が存在する、しかも2つ存在するのはなぜかという議論では、多様な性のせ在り方、例えば性転換する生き物や多数の性を持つ生き物などに驚かされるし、その中で寄生者の存在がキーになって2つの性が定着していったのではという議論にも(難しくて理解の及ばないところもあるが)驚きを感じる。ヒトの性の在り方についての議論はもちろん、俗っぽい意味でも面白いわけだが、一夫一妻制が子育ての協力もそうなのだが子殺しを防ぐためではないかという議論や、ヒトが一夫一妻制を基本としつつ不倫をする生き物だというのも面白い。著者の考えではこれはある種の鳥に近いのだという。そういった生態が人の在り方、男性女性の違いにどういう影響を与えてきたのか。この本自身が言っているが、現在の研究が正しいとは限らない、常にブラッシュアップが重ねられていく世界だと思うが、ヒトの在り方を考えるうえでこんな側面からの議論がある、ということが新鮮な一冊だと思う。