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感想・レビュー・書評
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原題『A LITTLE PRINCESS』
とても有名な古典ではあるが
世界名作劇場のアニメ版からくる印象のみで
どういう話かよく知っているが読んだことはない一冊
ミンチン先生にラヴィニアという2大アンチヒーローは
後世への影響により
現在に「悪役令嬢」というくくりすら生み出しているが
原作でのラヴィニアは6歳も年上で
3歳しか年下でないロッティとは世代が違う
主人公は幼少時より父の愛に溺れぬ思慮深い性格で
現代の少女読者が容易に感情移入を許さない
19世紀ロンドンの上流階級に属す子女であり
周囲のいじめに耐えるけなげで心優しい主人公ではない
現在に続く少女向け小説に様々な影響が読み取れる作品
『秘密の花園』でも見られるように
作者の作品は悪い意味で劇的で長編小説向きではない
登場人物のメリハリある描写や話の抑揚は効果的だが
紋切型で冗舌に過ぎ
ともすれば過剰に背景を意識させない
ミンチン先生は必要以上に愚かに描写され過ぎで
労働者ではなく家事使用人という身分層の描写
貧しさや教育のなさと
他者への非寛容性や想像力のなさからくる愚かしさに
現代の目から見て妨げになっている
素直で心優しい主人公より
「悪役令嬢」が現代読者の一部にとって意識されるのは
なにより自身がより身につまされるはどちらかと
無縁ではないだろう
少女のころサアラのように
自らを制御し空想で己を守って思慮深くあることが
どれだけ言うは易く夢想だにせぬ遠い境地であることか
貧しさは改善され
階級差は日新月異に取り払われようとし
児童が働かなければならない状況は相当に改められても
教育で誰もが己の愚かさに気付けるわけではない
まして少年少女が一日に賢しくなるわけでもない
そういう観点で
アニメ版のセーラよりも原作のサアラは
現代の視点にたって想像しづらい上流階級子女の
ひとつのありようと解釈するに興味深い造形といえる
ただそれは作者が作品を生み出したときに
意識したものではなかっただろうけれども
改めて『幽霊伯爵の花嫁』を読み直したい詳細をみるコメント0件をすべて表示