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感想・レビュー・書評
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ぼくは何も考えてない。ぼくは、何も何もできない。頑張って、モールス信号を覚えたって、まだ、空は燃えている - 。終戦の日の朝、19歳のぼくは東京から故郷・広島へ向かう。通信兵としての任務は戦場の過酷さからは程遠く、故郷の悲劇からも断絶され、ただ虚しく時代に流されて生きるばかりだった。淡々と、だがありありと「あの戦争」が甦る。広島出身の著者が挑んだ入魂の物語。(新潮文庫解説より)
西川美和さんは映画監督としては知っていたが小説を読んだのは初めて。
まずタイトルが印象的、まさか敗戦と原爆が来るなんて想像もできない。
通信兵だった主人公・吉井と益岡は上官からいち早く終戦を告げられ、通信機器や書類だけでなく軍隊手帳まで焼けと命じられ汽車に乗り込む。「吉井、壊れるときは始まるときだ。これからが忙しい」と励まし送り出す中尉は戦犯を覚悟しているようでもあった。
途中、憲兵隊に詰問され『隊が解散になり帰還する』と言っても、未だ終戦を知らされていない彼らには信じてもらえないシーンがある。フィクションではなく、西川さんの伯父さんの体験に基づいているというのだから驚く。終戦の混乱ぶりが伝わって来た。
原爆落下の広島を目の前にして、吉井がツクツクボウシの鳴き声を聴く描写が良い。
『気温がみるみる上昇するにつれて鳴き出した蝉の声の中にツクツクボウシが混じっていた。去年晩夏の深い森の中で聞いたツクツクボウシの鳴き声の記憶と、それはほとんど変わらないように思えた。彼は不運な男である。長いこと冷たい土に中でこの時を待っていたのに、やっと地上に上がってこられたその夏は、この世の終わりのような風景に支配されていたのだから。しかし、それが彼の知る、彼の生きる、取って変えられない唯一の「世界」である。彼はただ自らの鳴くべき鳴き方で、短い生涯をこの夏に賭して迷いなく鳴いている。鳴くことをやめさえしなければ、彼と同じ声を持つ物が再びこの土の中に宿り、いつの日か地上にその声をとどろかす日も来るだろう。いや、そう信じなければ、ぼくはこの壊滅の中に生きようがない』
国家とか民族とかそんなものには何の関心もなく、小さな安全を確保された場所でひっそりと守っていられればよかったぼく・吉井はごく普通の少年だった。
おさえた筆致で書かれているだけにずしんと響いて来る。
登場する女たちが前向きなのが好ましかった。
列車で出会った子連れの女性。米軍機が撒いた日本語で書かれた謀略宣伝ビラの筆跡が兄の字に似ていると兄の生還に希望を託し、兄の子を届けようとする。
誇り高き火事場泥棒姉妹の逞しさを誰も非難はできない。
やはり、西川さんは映画監督だ。小説を読みながらおのずと映像が立ち上がってくる。 -
著者のあとがきは忘れずに読んで
ずしんと心に響いてくる小説なんですね。
西川さんの本は『ゆれる』を読んだこと
があります。
その時、わたし...
ずしんと心に響いてくる小説なんですね。
西川さんの本は『ゆれる』を読んだこと
があります。
その時、わたしもずしんと重たいものを
心に投げ入れられた気がしました。
映画監督さんだからこそ描ける
小説の世界なんでしょうね。
ことがあります。その時
最後おかしくなってしまいました。
ごめんなさい(>.<)
最後おかしくなってしまいました。
ごめんなさい(>.<)
西川さん監督の映画を観たくなり、実は今日『ゆれる』のDVDを鑑賞しました。
映像のみでは...
西川さん監督の映画を観たくなり、実は今日『ゆれる』のDVDを鑑賞しました。
映像のみでは主人公たちの心情が分り辛く、原作本を読もうと思っています。