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感想・レビュー・書評
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理瀬シリーズ2本目。筒井康隆さんの「家族八景」に始まる『七瀬シリーズ』を思わせる『理瀬シリーズ』。
「麦の海に沈む果実」を読み、主人公・理瀬にまつわる物語がシリーズ化されていることを知った。順番が前後しているが、前回読んだ「麦の海に沈む果実」の大人しくて、弱々しい理瀬とは異なり、自分の運命を受け入れ、強さ、冷静さと狡猾さが感じられる16歳の新たな理瀬が登場する。
「自分が死んでも、水野理瀬が半年以上ここに住まない限り家は処分してはならない」の祖母の奇妙な遺言に従い、叔母となる姉・梨南子と妹・梨耶子が住む白百合荘にイギリスから一時帰国した理瀬。白百合荘は「魔女の館」と噂される不気味な洋館。隣には、同級生・脇坂朋子と体の弱い朋子の弟・慎二が住んでいる。従兄弟の稔と亘が祖母の法事出席のために白百合荘に帰ってくる。
所々に出てくる手紙の中の「R」。この手紙の存在が意味のあるのか?読み飛ばしても、この内容を補完する説明は記載されており、読者への不思議な心理を植え付ける効果として、描かれているのだろうが、個人的には逆に読み辛かったというのが、正直な感想。
そして、本作においては理瀬を中心に物語が動いている感がなかったのが否めない。解決に向かう方向性を決定づけるのは稔の推理によるものである。
物語としては読みやすかったが、読み終えて理瀬の役割って何だったのかなぁと、考えてしまった。(これは、私は作者の意図することを理解していないからかもしれない)
朋子の友達の勝村雅雪と理瀬の関係も雅雪から情報を入手するためだけの設定の方が、もっと理瀬の冷酷さが強調されたのかなぁと考えると、まだまだ、私が作者の意図するところが理解できていないかもしれない。また、朋子を好きな田丸賢一の失踪についても同様である。
最後の梨南子が包丁を持ち、朋子宅の理瀬と朋子の前に現れるが、最初から不気味雰囲気を醸し出していた梨南子なので、話の流れとしてはわかるのだが、何となく話が読めてしまった。
本作は「あの人の姿を思い浮かべる時、いつもその時刻は夕暮れ時だ。海から吹く風が強まる時間、あの人は海が見下ろせる庭園に立ち、艶やかな髪をなびかせ、まだかろうじて明るい光が残っている海の上に目をやっている。」で始まるが、この表現が理瀬の女装男の父を思い出させる。私の中では、学園の校長である有能な父の存在が大きいので、この文章を理瀬の父だと思ってのであるが、そうなると、本作の中での理瀬の成長がなかったように思われてならない。詳細をみるコメント0件をすべて表示