日経サイエンス 2015年 10 月号 [雑誌]

  • 日本経済新聞出版社
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  • / ISBN・EAN: 4910071151050

感想・レビュー・書評

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  • 暗黒物質にSIMP説。南極の氷下に生態系。インフラマソームはインパクトのある概念だけに、次のトンデモ医療のキーワードになるか。ペロブスカイト太陽電池。カリフォルニアの大干ばつ。

  • 特集は「暗黒物質に異説」。
    現代宇宙論では、我々が感知することが出来る物質は実は全体の数%で、残りの大半は「観測不能な」もので満たされているとされている(参考:『宇宙「96%の謎」 宇宙の誕生と驚異の未来像』)。これは仮に「暗黒物質(ダークマター)」と呼ばれている。本当に黒い物質というよりも、現在利用可能な測定機器では検出不能であるということだ。この「暗黒物質」の「しっぽ」を捉えようと、20年以上もさまざまな試みがなされてきているが、いまだにその存在の証明はされていない。これはもしや、これまでの仮説に誤りがあるのではないか、とする説が出てきている。暗黒物質の性質についての仮説が間違っているのではないかというのだ。
    従来、暗黒物質は1種類の見えない粒子とされてきたが、実は複数種類のものが存在し、我々が知る粒子とは相互作用せず、暗黒物質粒子同士で何らかの作用をするのではないかという説。
    暗黒物質の粒子が現在考えられているような「弱い力」で相互作用し合う粒子(WIMP: Weakly Interacting Massive Particle)ではなく「強い力」で相互作用する粒子(SIMP: Strongly Interacting Massive Particle)ではないかとする説。
    従来型の説も含めて、こうした説のいずれが正しいのか決着をつけるにはデータが必要だ。粒子間の衝突の証拠を掴む実験など、加速器やγ線観測装置といった大がかりな実験・観測があちこちでなされている。
    まさしく雲を掴むような話だが、宇宙の秘密を探る試みには何だかわくわくする。

    フロントランナーは「ゲノム編集で理想のトマトを作る」。
    短期間でゲノム編集を可能にするCRISPR-Cas9技術は急速な発展・広がりを見せているが、ゲノム編集を用いた品種改良の試みもすでに始動している。こちらの記事の江面浩教授らが使用しているのはトマト。まずは「日持ちの良いトマト」である。トマトの成熟の鍵を握るのは「エチレン」受容体だ。エチレンを感知するとトマトは成熟するが、その作用が強すぎると傷んでしまう。かといってまったく感知しないトマトは完熟しても赤くならず、見た目が悪い。「ちょうどよい」期間が短いので、現時点では収穫したトマトの3~4割は廃棄されるといわれる。完熟状態のトマトを長持ちさせるには、エチレン受容体の感度をほどほどにするとよいのではないかという観点から研究が進められている。
    遺伝子組換え作物は抵抗感を持つ人が多く、規制も厳しい。ゲノム編集は、遺伝子組換えと同列に扱われるべきものなのか。従来型の品種改良作物との比較も含め、こうした面での検討も続く。

    医学の記事から「炎症反応の指揮者 インフラマソーム」。
    「インフラマソーム」とはちょっと聞き慣れない言葉だが、炎症の際に作られるタンパク質複合体を指す(inflamma-:炎症、-some:構造体)。感染した際には熱が出たり、痛みが生じたりする。多くは免疫細胞が始動させるが、場合によっては病原体がなくても組織のダメージに反応して炎症が起こる。こうした細胞では「インフラマソーム」と呼ばれる複合体が形成され、反応を生み出している。
    こうした複合体の研究から、一見、炎症に関係がなさそうな疾患でもこれらが働いていることがわかってきた。例えばアルツハイマー病や痛風、心疾患である。さらには、食事(過食)でも炎症が引き起こされる場合があるという。
    炎症は慢性化すると治療が困難である。また、過剰な炎症には益より害が多い。
    こうした炎症を抑え、多くの(場合によっては意外な)疾患を制御するために、こうしたインフラマソームがどのような分子で構成され、そしてどうすればこれらの作用を抑えられるか解明されることが望ましい。
    もしかしたら、炎症の薬がアルツハイマー病の発展を食い止めることもあるかもしれない。

    エネルギーの話題から「ペロブスカイト太陽電池」
    太陽光発電の1つの要となるのは太陽光から電気エネルギーへの変換効率だ。
    現在主流のシリコンタイプは最大でも約25%で頭打ちとなっている。
    太陽電池のエネルギー変換効率には「バンドギャップ」がポイントになる。電子を解放するために必要な最小のエネルギー値のことで、半導体によってこの値が決まる。太陽光はさまざまな波長の光を含むが、太陽電池が吸収できるのはバンドギャップに相当する波長より短いものだけで、残りは材料を素通りするバンドギャップが小さければ広範囲の波長の光を吸収できるが、個々の光電子のエネルギーは小さくなる。仮に理想的なバンドギャップを持つ太陽電池が存在しても、理論的には約33%しか変換できないという。
    実はシリコンはこの理想よりもさらに劣る。シリコンが主流になっているのは、効率的な製造法が確立されているためである。
    近年、太陽電池の材料として注目されているのがペロブスカイト型。マントルに存在するペロブスカイト(灰チタン石)と同じ結晶構造を取るもので、太陽電池としては鉛を使ったものが用いられている。安価で作製可能であり、薄膜に加工でき、組成を変化させることで色も変えられる利点を持つが、寿命が短いなど改良が必要な点も多い。
    本記事では、安定化を図り、さらにシリコン型と組み合わせてタンデムにすることで広い範囲の波長をカバーし、エネルギー変換効率の30%超えも可能と見る。
    さて次世代型の太陽電池の開発は成功するか、なかなか興味深いところだ。

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